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髪も結び終えたので、俺たちは本日何度目か分からないストレッチを再開した。
ストレッチルームには、誰もいない。そのこともあってか、カワイはさっきの話題を小さな声で続けた。
「前にヒトの性癖を教えてもらった時に言いそびれちゃったけど、ボク、弟だよ」
「『性癖』って言い方はちょっと──……って、本当にっ?」
ベランダでご飯を食べた時の話だろうか。確かにその時、カワイと恋バナのようなものをしたっけ──……って。いやいや、そこは置いておこう。それよりも重大な事実が打ち明けられたのだから。
「正直、俺の中の【弟センサー】がビンビンに反応はしていたのだけれど、本当に弟なのっ?」
「うん。弟だよ」
「本当に?」
「うん。家族構成は両親を除くと兄がいるから、ボクは正真正銘の弟」
『ヤッタァアッ! 大勝利ィッ!』と。思わず俺は、そう叫びそうになった。
弟属性、良いではないか! 大好きです! カワイという存在に感謝をし、カワイのお兄様にも感謝をしよう! ありがとうございます!
などと大興奮して、数秒後。……俺はふと、あることに気付いた。
──なんで、俺は今『カワイが俺の好みの属性持ちだ』と知って、嬉しくなったのだろう。……と。
単純に、自分の好きなタイプが目の前に居るから? いや、そんな理由で大興奮するのはなにか違う気がする。見境がなさすぎるではないか。
ならば、なぜ。……【カワイ】が【俺の好きなタイプ】に当てはまったから喜んだのか?
いや、だけど。それだと、つまり。まるで芋づる式のように、俺はカワイとの出来事を思い出してしまった。
『ヒト。助けてくれて、ありがとう』
『──ヒトがいてくれて、良かった』
なら、この不可解な心象は、もしかして──。
「ヒト、ヒト。後は、あの歩いたり走ったりする機械だけだよ。早く行こう?」
カワイに呼ばれて、俺はハッとした。いつの間にかストレッチを終えていたらしいカワイが、俺を覗き込んでいたからだ。
「ヒト、どうしたの? 体、ずっと同じ姿勢で止まってるよ」
「えっ? ……あ、あー、えっと。……ほ、ほらっ。俺の体、俺も引いちゃうくらい硬いからさ。カワイには止まっているように見えたかもしれないけど、実際は頑張って前屈してるんだよ?」
「そうだったんだ。気付かなくてごめんね」
「いだだッ! 謝りながら背中を押されるとっ、いててッ!」
申し訳なさそうに謝りながら、カワイは俺の背中を押してきた。痛いっ、痛いよっ! 嘘を吐いた罰なのかな、これは!
股関節がミシミシと音を立てそうなほど軋んでいる中、少し前にカワイが口にしていた言葉を必死に思い返す。
えっと、なんだっけ。『歩いたり走ったり』って言っていたから……ランニングマシーンのこと、かな。確かに、まだ使っていない機械はあれだけだ。
「ストレッチもしたし、髪も結び直したし。そうだね、あっちに行こうか」
「ボクの準備は終わったけど、ヒトはまだ足りないと思う。もうちょっと、もうちょっとだけ前に……」
「痛い痛い痛いッ! わぁーッ、ごめんなさい~ッ! なにに対してかは明言できないけどごめんなさいーッ!」
またしても、スタッフさんからチラリと見られた気がした。騒がしくしてすみません!
でも! 本当に痛いんですッ! 俺は己の体の硬さを再度、恨めしく思うのであった。
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