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 最初は、こんな俺でも恋ができるのだと喜んだ。  大好きな子と過ごす毎日がこんなに楽しいなんて、知らなかった。ゼロ太郎と家族になった日以上の幸せがあるなんて、知らなかったのだ。  だから、浮かれていた。俺がカワイに恋をすることで起こる問題なんて欠片も考えられないほどに、浮かれてしまったのだ。  まるで、そのツケのように。俺は今、自分が傷付く以上に酷な状況へと陥ってしまった。  この日も俺は、通常通りに出勤。カワイにお弁当を持たせてもらい、カワイと普段通りの言葉を交わして、駄々をこねて、出勤した。  だけど、気は晴れない。昨日気付いてしまった事実に、俺は一丁前に打ちのめされてしまったから。  昼休憩の時間になり、俺は──。 「「──はぁ~っ」」  ──訂正。【俺たち】は、ため息を吐いてしまった。  ……んっ? 俺以外にもため息、だって? 俺は自分以外のため息が聞こえた方を振り返る。  それは、隣のデスクに座る月君だ。どうやら俺たちは、揃ってため息を吐いてしまったらしい。  俺は即座に気持ちを切り替え、月君の落ち込みに意識を向ける。 「どうかしたの、月君?」 「えっ、いや。センパイこそ、今──」 「──気のせいだよ。だから、なんでも俺に話してごらん」 「──なんて切り替えの早さですか。そんなところもカッコイイッス」  後輩に寄り添えずして、なにが先輩だ。と言うかそもそも、隣に月君がいることも忘れてため息を吐いてしまった自分が赦せないぞ。  ということで、俺はすっかり職場モード。意味はないが眼鏡を掛け直して、月君にニコリと笑みを向けた。  するとどうやら、月君も観念したらしい。素直に、俺へと悩み相談だ。 「実は最近、三日月がすごくて……」 「草原君? 確かに最近、月君を訪ねてよくこっちに来るね。同期だし、仲良しなのはいいことだと思うよ?」 「いや、なんて言いますか……。オレは正直、アイツのことが──」 「あっ。噂をすれば」  ここ最近、毎日のようにやって来る草原君の登場じゃないか。  そう言えば、草原君がこうして顔を出すようになって月君と会うのは今日が初めてじゃないかな。いつも月君とはタイミングが悪くて、草原君は会えていなかったんだよね。  草原君を視界に捉えるや否や、月君がピシッと動きを止めてしまった。……えっ、どうして?  いやでも、ここは腕の見せ所だ。気まずい雰囲気にならないよう、俺から発声しよう。  と言うことで、レッツチャレンジ! 「やあ草原君、お疲れ様。この間は色々と、ありがとう。おかげで現実と向き合う決心がついたよ」 「えっ。センパイ、いったいコイツとどんな話を? ……じゃなくて!」  俺の声を聴いて、月君は呪いでも解けたのだろうか。口を挟むと同時に、ガタガタッと音を立てて椅子から立ち上がった。  それはまるで、逃げるような動きだ。無論、草原君から。 「スミマセン、センパイ! オレ、ちょっと──」 「──竹力様」  だが、遅かった。月君が立ち上がるとほぼ同時に、草原君は月君の厚い肩をガシッと鷲掴みしたのだから。  えっ、えぇっ? もしかして二人って、メチャクチャ仲が悪いのっ? 突如として不穏一色となった空気に、俺は割って入ろうと──。 「──今日こそ、僕とセックスしてくださいませ」  割って入ろうと、したのだけど……んんっ? 俺は椅子から半端に腰を浮かした状態で、一時停止してしまう。  念のため、時刻を確認。……うん、まだお昼だ。お昼休憩になって数分経過しただけの時間だね。  ──えっ。嘘でしょっ? 白昼堂々、下ネタッ? 俺が言えたことではないにしても、草原君の発言に思わず、驚愕してしまった。

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