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第二話

 あれからイクトセ――暴走族時代から俺を可愛がってくれていた暴力団『鷹取組』の下っ端になって数ヶ月。 「おい亮司、集金行くぞ」 「うぃっす――」  この桂木のアニキは、俺と俺の中学からの連れの佐々を何かと面倒見てくれる。組の中では幹部クラスに近いようで、良い人に気に入って貰えたと感謝する日々だ。  下っ端の俺の仕事は歓楽街を回って俺らを用心棒として雇っている店から日当を回収すること。今は桂木のアニキがこうして着いてきてくれるが、その内に俺一人で回らなくてはならなくなるので、今の内に顔を売って覚えておいて貰え、という事らしい。  この日の最後の仕事は一見して分かる風俗店。ただ他の店と少し違うと思えるのはメニューに表示されている写真が皆男のものだらけだということだった。それだけならば女性向け風俗と思えないことも無かったが、先程から顔を見せずにやってくる客らもどう見ても男。  所謂ゲイ向けのそれなのだと、説明されずとも気付くのに時間はかからなかった。男が男を好きになる気持ちは良く分からないが、数年前冬の浜辺での蜜に抱いた感情とはまた何か違う気がする。そこら辺の性を売りにしている女なら幾らでも抱けるけども、蜜にはそういった下劣な感情を抱かなかったからだ。  この感情が『恋』と名の付いたものだと気付くのはもった先の事だった。抱きたい訳でも汚したい訳でもない。ただ側に居たい。そしてその笑顔をずっと隣で見ていたいという感情が―― 「亮ちゃん?」  蜜のことを考えていたら突然蜜に声をかけられた気がした。振り返るとそこにはつい今し方出勤してきたであろう蜜そっくりの姿が――いや、どう見てもあの時の蜜そのものだった。 「亮司、知り合いか?」 「あ、はい――」  うっかりしていた。桂木のアニキと一緒に来ていたのに、目の前の蜜しか頭に入っていなかった。 「蜜です。俺の中学の同級生で――」  ――『同級生』。最初にそれを言ったのは誰だったかとふと頭に過ぎった。 「それなら積もる話もいっぱいあるだろ。俺は先に帰ってるから、お前は今日はいいよ」  にんまりと浮かぶアニキの笑顔に嫌な予感がした。アニキは懐から財布を取り出し、一万円札を数枚取り出して俺の手に握らせた。恐らく、アニキは誤解をしている。面倒見の良いアニキに恵まれて幸せだが、方向性は間違っている。貰った数万円は後で忘れずに返そうと、尻のポケットに突っ込みながら考えた。

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