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01ここにおわすお方をどなたと心得る
「――――――以上が貴様の起こした罪である、証拠も揃っておりエガルテ国の法で貴様は裁かれることになる」
ごく普通の貴族の館で今日は大騒動が起こった、まぁいきなり二匹の大きな虎と魔族が二人で正面玄関を破壊しながら入ってきて、リオンという俺の主がここの貴族の起こした悪行を話し出したのだから仕方がない。リオンは一見すると足首まである美しい銀の髪と蒼い瞳をもつ美男子だ、ただし頭の中身はいろいろと残念なことになっていた。そして、自分が起こした悪行の数々を聞かされた貴族は当然ながら、俺たちを消すべく館にいた部下に命令した。
「こいつらを殺せぇ!!」
「はいはい、こんな雑な攻撃で死ねるか!?」
俺はクロッシュ、黒い目と茶色の瞳をした人狼族だ。今は俺の主であるリオン・フライハイトを、剣で斬りつけてくる雑魚たちからロングソードを使って守っていた。俺の主であるリオンは穏やかに微笑みながら背筋を伸ばして胸を張り、脚を開いて仁王立ちしていた。そうして俺と仲間である二頭の虎、アクアとマリンは雑魚たちをあらかた倒してしまった。そうなってからアクアの出番がきた、リオンは嬉しそうに微笑みながら自分の右側に立つその姿を見ていた。
「静まれ、静まれ、このフライハイト王家の証である紋章が目に入らぬか!!」
今まで俺と一緒に敵と戦っていたアクアが大きな白い虎から白い髪に金色の瞳の人間に戻って、我がフライハイト王国を象徴する証、宝石や希少金属でできた紋章を目立つように掲げていた。それに続いて双子のマリンも大きな虎から人間に変身して、長い白い髪と金色の瞳でリオンの左側に立ってこう言い始めた。
「ここにおわすお方をどなたと心得る。 恐れ多くも今のフライハイトの次期国王リオン・フライハイト様にあらせられるぞ!!」
「な!? なんでそんな偉いお方が……? こんなところに……?」
エガルテ国は人間の国であるがフライハイト国の属国である、この貴族はいわば上司のそのまた凄く上の上司に自分の悪事がバレているのだ。へなへなと悪行を働いていた貴族はその場に崩れ落ちた、周囲の部下たちはほとんど俺たちが倒してしまっていた、この悪事を働いていた貴族はもう何もできなかった。そして、エガルテ国の正規軍が館になだれこんできた、だからリオンという俺の主は言った。
「これにて一件落着!! クロ、アクア、マリン。フライハイト国の城に戻るぞ!!」
「………………ああ」
「おう!! 俺様は今日も活躍したぜ!!」
「あたしも楽しかったぁー!! 悪は必ず滅ぶのね!!」
そうして俺たちはリオンの魔法『|飛翔《フライ》』でフライハイト国まで戻っていった、その間中リオンはご機嫌だった、アクアやマリンも楽しそうだった。俺は常識というものに罅が入る気がした、それもこれも俺の主人である魔族の国、フライハイトの次期国王のリオンがこの正義の味方ごっこにハマっているからだった。そもそも属国の貴族の悪事なんてみつけたなら、王城からエガルテ国宛てに手紙一通かけば終わる話なのだ、こんな正義の味方ごっこなど要らないのだ。
「リオン、もう正義の味方ごっこは止めないか?」
「ええっ!? どうして、悪は滅びる、僕は楽しい、悪いことなんて何にもないよ!!」
「お前ならあんな小物の悪党、エガルテ国への手紙一通で片付いただろ」
「それじゃ、面白くない。やっぱり最後に悪党と戦って、そして名乗りを上げる瞬間が最高なんだ!!」
「それじゃ、俺はしばらくお前の護衛から離れたい」
「それは駄目!! 僕がいない間の浮気は許さないからね。クロ!!」
今日も俺の意見はリオンに採用されなかった、いつまでこの正義の味方ごっこが続くのだろうかと俺はこっそりとため息を吐いた。それもこれも百五十年ほど前の迷い人の荷物からはじまった、その迷い人という他の世界からの住人はある物を持っていた、ぽーたぶるでぃぶいでぃぷれいやーという映像が見れる機械だ。その映像の中の正義の味方に当時孤児だった、まだ五十歳くらいのリオンは夢中になった。
「クロ、僕きっと正義の味方になるんだ!!」
「そうか、それは頼もしいな」
リオンたちが居たのは俺の住む近所の孤児院で、俺にとってリオンは弟みたいなものだった。だから最初は冗談だと思っていたのだが、リオンはどんどん強くなりエルテレン・フライハイト国王陛下に挑戦して勝ってしまったのだ。
「あはっ、今日から僕がここの統治者だ」
今から百年ほど前のことである、だから勝ったリオンが本当なら現在の国王なのだが、それを嫌がって国王陛下の養子になったのだ。それから書類仕事の中から不正を見つけると、リオンはこの正義の味方ごっこをするようになった。アクアとマリンという同じ孤児院の兄妹まで自分の部下にして、現実世界で正義の味方ごっこをするようになったのだ。
「へへっ、リオン様。俺様の紋章の見せ方はどうでしたか?」
「ああ、しっかりと堂々と見えていたぞ!! アクア!!」
「リオン様、あたしはちゃんとセリフを言えてましたか?」
「うん、バッチリだったぞ!! マリン!!」
俺は三人がわいわいきゃっきゃっと楽しそうにしてるのを見て、まぁ確かに悪が滅びたんだからいいかとまた一つため息を吐いた。そうして夜になってフライハイト国の王城に戻ってくると、アクアとマリンは目をこすりながらあくびをして自室に帰っていった。俺も自室に帰ろうとするとリオンに腕をがっしりと掴まれた、そして俺はリオンの部屋である王太子の部屋の中に連れていかれた。
「ねぇ、クロ。まだ僕と結婚する気にならない? セックスする気はない? せめて恋人にならないかな?」
「三つとも却下だ」
「それじゃあ、今夜も僕と一緒に添い寝してくれる」
「ああ、それは構わん」
「ありがと、クロはいつになったら僕の伴侶になるのかな?」
「俺は女が好みだからな、インキュバスのお前じゃ無理だ」
俺にそう言われてリオンは寂しそうな顔をしていた、でも俺としてもこれは譲れないというものがあるのだ。俺は人狼族で男より女の方が好みだった、リオンは綺麗な顔をしているが女じゃない、それに体格も俺と同じくらい良かった。俺が女だったなら惚れたかもしれないが、俺は男なのでリオンからの求婚は断るしかなかった。俺たちは風呂に入ったら寝ることにした、明日になればまた仕事が待っているのだ。
「いいさ、いつか僕はクロと結婚するんだもん」
「妙なことを言ってないでもう寝ろ、リオン」
「ちぇっ、まぁいいや。おやすみ、クロ」
「おやすみ、リオン。良い夢を」
こんな奇妙な日常が俺にとってはここ百年の日常だった、サラサラとした髪をしたリオンをベッドで抱きしめながら、彼のその温かさに誘われて俺は夢の中へと落ちていった。どうにかしてリオンたちに正義の味方ごっこを止めさせないと、そう思いながら俺は意識を手放した。
「きゃあっ!? も、申し訳ございません!!」
そして、翌日の朝になって俺はメイドの悲鳴で起こされることになった。そうしたらリオンが俺の服をそうっと脱がせようとしている最中だった、俺はリオンを捕まえてそのケツを十回くらい叩いてそれからベッドから追い出した。
「むー、ちょっと味見したかったのに」
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