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06拾い子

「ああ、どうしてリオン!? 私よ、本当のお母さんなのよ!!」 「………………またか、僕に母親などいない。貴様が本物が偽物か関係なくそうだ、分かったならばさっさと出て行け!!」  リオンは自称母親だと名乗る魔界の貴族にそう言葉を吐き捨てた、リオンは孤児で両親が分からなかったからこういった両親を名乗る詐欺が沢山あった。それでも一応女に謁見してもらったのは、その女が魔国の上位貴族だったからだ。ただの民間人なら門前払いだが、一応は貴族という位だったから謁見してもらったのだ。 「リオン、私が本物のお母さんなのよ!!」 「しつこい!! この女を城から出せ!! この女の家に二度と来るなと手紙つきでだ!!」  リオンがそう怒りを爆発させたのも無理はない、リオンは寒い雪が降る日に外に捨てられていた、捨てた者は赤子のことを全く考えていない酷い親だ。百五十歳くらいだった俺が偶々仕事を終えて帰ろうと道を歩いていた時、道の端にリオンが捨てられていたのを見つけたのだ。 「なんて青い顔色だ、もう助からんかもしれんが!?」  俺はリオンを抱えて医者のところへ走った、リオンは呼吸がいまにも絶えそうに弱々しい様子だった、そして連れていった医者はリオンを調べてこう言った。 「この子はおそらくインキュバスだ、だから口から生気を流し込めば生き残れるかもしれない。だがかなり弱っているから下手をすると、生気を分けた者も死ぬかもしれない」 「俺がやってやる!! 口から生気を流し込めばいいんだな!!」 「止めときな、本当に下手をしたらあんたが死ぬかもしれない」 「これでも毎日鍛えてるんだ、そんなに簡単に死んでたまるか!?」  そうして俺はリオンにキスをして生気を分けてやった、一瞬目の前が真っ暗になるほどの生気をリオンは俺から食った。俺は立っているのもやっとの状態になったが、リオンの頬に赤みがさしてしっかりと呼吸をし始めたので俺はようやく安心した。 「捨て子のインキュバスのために命をかけるなんて、あんたは物好きな奴だ」 「確かにな、診察代はいくらだ。ほらっ、とっとけ」  俺はふらつきながらリオンを抱きかかえて、今度は魔国が運営している孤児院に向かった。そして事情を説明してリオンを預かってもらうことになった、俺をいる間はにこにこしていた赤子が、俺が別れようとすると火が付いたように泣き出した。そのことが少し気になったが俺はかなり夜遅くなっていたので家に帰った、家族には俺が遅いことを心配されていたが、道の途中で拾い子を拾ったことを話すと叱られずに済んだ。 「さて、どうするか?」  赤子を拾った次の日だった、俺は仕事を終えて孤児院に行ってみようかと迷っていた。赤子など幼い者ほど子のいない夫婦に貰われやすいから、もうあの子はいないかもしれなかった。それでも何だか放っておけない気がして、結局のところ俺は孤児院に行ってみることにした。そしてそれは正解だった、俺が拾って来た子供は誰にも懐かずに大泣きをし、ヤギの乳なども全く飲まないで孤児院の者を困らせていた。 「腹が減っているんだろう、こうしてやればいい」  俺はそう言って赤子に抱き上げて、口から生気を送り込んでやった、その途端に赤子はにこにこと笑顔になり俺の指をぎゅっと握った。 「私たちでは駄目ですわ~!!」 「そうなのか? それじゃ毎日他の者に慣れるまで、俺がこの子のところへ通おう、名前は何になったんだ?」 「まだ決められてもいません、それどころじゃなかったので」 「そうかそれじゃ………………、リオンにしよう、響きが良い名前だ」  その日もリオンは俺がいる間はご機嫌だった、でも別れる時になるとまだ火がついたように泣き出した。俺はリオンの頭を撫でてやり、なるべく優しくこう言った。 「リオン、そんなに泣いたら明日俺は来ないぞ。明日もお前に会いたいんだ、泣き止んで大人しくしていてくれ」 「あー、うー」  言葉を理解はしていないだろうが、言葉に含まれるものを本能的に理解したのか、リオンはそれで大人しく眠り始めた。俺と孤児院の者はホッとした、そうして俺は毎日必ず孤児院に通うようになった。 「クー、ロー」 「おお、俺の名前が言えるようになったのか偉いな。今日も食事をしておこうな、リオン」 「あー、いー」 「んくっ……、よしっと。腹はいっぱいになったか、おやもう眠るのかリオン。また明日な」  そうやってリオンは俺からしかインキュバスの食事をしなかった、それに養子にもいけなかった。リオン自身がそれを嫌がって拒んだし、インキュバスを欲しがる子のいない夫婦も滅多にいなかったからだ。 「リオン、俺様と遊ぼうぜ!!」 「ああ、あたしとも遊ぼうよ!!」 「うん!! アクア、マリン!! こっちだ一緒に遊ぼう!!」 「ええい、この紋章が目に入らぬか!!」 「この方をどなたと心得る」 「ははー!!」  やがてリオンには大切な友達もできた、アクアとマリンの双子である、この双子はリオンと一緒で正義の味方ごっこも好きだった。だから三人で交代に悪党になって、正義の味方ごっこをして遊んでいた。 「リオン、遊んでいるところ悪いが、食事の時間だ」 「分かった、クロ!!」  俺は相変わらず毎日孤児院に通ってリオンに生気を分け与えていた、そうやって毎日俺がキスをするものだから、リオンからはこんな質問を五十歳の頃にされた。 「クロは僕と結婚するの?」 「リオンは、リオンが好きな奴と結婚するんだ。俺じゃない」 「ええ~!! 僕が好きなのはクロだけだもん!!」 「悪いが百五十歳の大人になったらお別れだ、それまでに好きな奴を見つけておけ」 「嫌!! 僕は絶対にクロと結婚するの!! 正義の味方になってクロと結婚するの!!」 「正義の味方になるんなら勉強が必要だな、俺と結婚するのなら女じゃないとなぁ」  そう俺が言ったらリオンは大泣きしていた、そしてとりあえず正義の味方になるべく、俺から本を借りて猛勉強をはじめた。その後は前にも言ったとおりリオンはどんどん強くなり、エルテレン・フライハイト国王陛下にも勝利してしまったのだ。そんなふうに育ったからリオンは今更本物の母親など必要としていなかった、実の父親にも全く興味がなかった。 「その女、早く追い出しておいて。クロ、執務に戻ろう」 「そっ、そんな!? 私が本物の母親なのよ!! リオン!?」  その次の瞬間いつの間に呪文を唱えていたのだろう、リオンの実の母親だと言い張る貴族の女の周囲に、魔法で作られた氷の槍が十数本突き刺さっていた。それでようやくその女は何も言わずに震え出した、リオンはそれで満足したのだろう、俺と一緒に執務室に戻っていった。 「女なんか嫌いだ!! 嘘つきでずる賢い!!」 「それは女性によるだろう、誠実で聡明な女性もいる」 「僕にとっては女は、クロを盗ろうとするライバルだよ!!」 「マリンみたいに良い子もいるだろう?」 「うっ!? 確かにマリンは良い子だ。特別に例外!! それ以外はライバル!!」 「あーあ、俺はいつになったら結婚できるんだろうなぁ」  俺がそうリオンに言うと彼はぷいっと顔を横に向けてしまった、百五十歳くらいから二百歳くらいまで、リオンの為に孤児院通いだった俺に彼女はいなかった。その後はリオンが次期国王になって俺を傍から離さなかったから彼女は作れなかった、早くリオンが好きになれる者を見つけないと、俺は生涯童貞で終わるかもしれなかった。 「まぁ、そのうちどうにかなるだろう」

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