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08揺らがない心

「こんなに簡単に戦争になるはずがないんだけどなぁ、はぁ~。仕方がないから次期魔王の仕事をしてくる、クロ」 「おいおい、俺を置いていく気かリオン。絶対に俺はお前についていくぞ、お前の特別護衛は俺だからな」 「クロにはあまり見せたくないんだけど……」 「お前が俺を心配してくれることは分かるが、大丈夫だからいいから俺も連れてけ」 「分かった、クロも一緒に行こう。クロ、僕を絶対に嫌いにならないでね」 「二百年も一緒にいるんだ、今更嫌いになんてならないさ。リオン」  そう言う理由で俺とリオンが先にカシードル国の軍を見に行った、国境を越えないうちにカシードル国の軍を潰すためだ。もちろんリオンだけ戦うのでなく、我がフライハイト国の軍も待機していた。そうしてリオンと俺は『|飛翔《フライ》』の魔法で国境の崖まで飛んでいった、それから崖の上からリオンは大きな声で下にいるカシードル国の軍に向かって話しかけた。 「フライハイト国の次期国王、リオン・フライハイトである。軍を預かる責任者と話がしたい」 「我がこのカシードル軍の大将、バイトラークであります。話とは何でございましょう?」 「僕は戦争なんてしたくない、それもたかが王女の婚約したいという我儘のためになんて馬鹿げている」 「申し訳ないが我はカシードル王家に従うだけ、我が軍の進みを止めることはできかねます」 「交渉決裂か、…………君たち死ぬよ」 「戦場での死は覚悟の上、いざ!!」  カシードル国のバイトラーク大将がそう言った瞬間、リオンに魔法の雨が降ってきた。リオンは余裕のある顔で防御魔法を使い俺たちの身を守った、それと同時に詠唱しながらリオンに近づいてきた者がいたが俺が素早く斬り殺した。おそらくはカシードル国の上級魔法の使い手だった、カシードル国には上級魔法の使い手が一人しかいなかった。その上級魔法の使い手を始末したら、リオンの魔法の出番だった。 「『|大いなる《ラージスケール》|火に抱かれよ《エンブレイス》|煉獄《ヘル》|の火炎《フレイム》』」  リオンは最上級の火炎の魔法でカシードル軍を焼き殺した、一万人以上いたはずの兵隊がその火炎の魔法に焼かれて死んだ。俺もこれには驚いた、リオンのことを強いとは知っていたが、実際にリオンが戦うところを見るのは初めてだった。魔法を使ったリオンはふるふると小さく震えていた、俺はそれを疑問に思ってリオンに近づいたその瞬間だった。リオンめがけて矢が飛んできて俺はリオンを庇いそれを斬り払った、矢は俺たちの後方から飛んで来た、カシードル軍の仕業ではなかった。 「何者だ!!」 「………………」  奇襲が失敗したとみるや、リオンを狙っていた者は逃げ出した。俺はそれを見逃すしかなかった、リオンの護衛と何者かの追跡を同時にはできなかった。俺は咄嗟に突き飛ばしてしまったリオンに手を差し出した、リオンは震えながら俺の手を取って立ち上がった。俺は怖がらせてしまったのかと思い、リオンにいつもどおりに声をかけた。 「どうしたリオン、あんな矢くらい俺がいくらでも防いでやる。何故、震えてるんだ?」 「クロは僕のこと怖くない?」 「ん? どうして俺がリオンを怖がる必要がある、お前は俺の可愛いリオン坊ちゃんさ」 「……ふふっ、また僕を子ども扱いする。僕はもうクロと同じくらい背も高いんだからね!!」 「確かにお前は立派な男だよ、それでこれからどうする?」 「一人だけ残しておいた、カシードル国の大将と話をつける」  そう言うとリオンは崖の下に俺と一緒に『|浮遊《フロート》』の魔法でゆっくりと降りていった、崖の下におりるとカシードル国のバイトラーク大将が一人で震えながら立っていた。 「カシードル国もこれで僕の力は分かっただろう、大人しく我が国の属国となるか? それとも最期まで戦って国を亡ぼすか? よく考えて返答するように上層部に伝えるといい」 「ばっ、化け物だ!? あっ、いや、その、失礼しました!! リオン殿下、必ずお言葉を本国に伝えます!!」  俺はカシードル国の生き残りの様子を見て、リオンが何を怖がっていたのか分かった。一万以上の人間を魔法一つで焼き殺してしまったのだ、普通の人間ならリオンが化け物に見えても仕方がなかった。確かに俺も驚きはしたが、リオンは絶対に俺の味方なので怖いという気持ちにはならなかった。そうしてカシードル国の生き残りの大将は走って、自国へと逃げ帰っていった。俺とリオンはフライハイト国へ戻り、フライハイト軍は一応いつでも出られるように待機させておいた。 ”カシードル国はフライハイト国の属国となり、永遠の忠誠を誓います”  やがて怯えているカシードル国の国王がじきじきにフライハイト国の城へやってきた、そうして正式にフライハイト国の属国になることを誓った。あの第一王女のネイルも来ていて、カシードル国王がこう言った。 「我が国からの贈り物です、どうぞお好きなようにお使いください」 「そうか、それじゃ誰かこの女を引き取りたい者はいるか? 国を滅ぼした我儘な女だぞ」  リオンがそういうと誰もその女を引き取りたがらなかったが、フライハイト国への忠義に厚いある伯爵がしぶしぶといった様子で手を上げた。おそらくネイル王女だった女はそこでろくな扱いを受けないだろう、フライハイト国に仕えるように言い含められ反抗したら即しばり首だ。 「私が何故!?」  こうしてフライハイト国は新たな属国を手に入れた、欲しくて手に入れたわけではなさそうだったが、手に入れたからには最大限に属国は利用された。そして実際にネイル元王女は伯爵家を逃げ出そうと企み、すぐにみつかって捕まった。彼女はカシードル王家を滅ぼした元王女として、カシードル国内でしばり首にされた。それで民衆の恨みもこの元王女に向いた、しばり首にされたが遺体は民衆から石を投げられ、すぐにボロボロの白骨になったと聞いた。 「カシードル国の官僚は何をしていたんだ? 国庫がほとんど空っぽだぞ!?」 「ああ、それもあってお前と強引にでも結婚したかったのかもな」 「これはしばらく仕事漬けだ、クロ~!! 正義の味方も真っ青だよ~!!」 「あははははっ、正義の味方でもそうか。まぁ、しばらくは我慢してのんびり働くといいさ」  俺は執務室の机に突っ伏すリオンの頭を撫でてやって、俺にできることは何でも手伝った。アクアやマリンもリオンを慰めてくれて、四人で一生懸命に働いた。リオンはこの仕事を片付けたら絶対に正義の味方ごっこをするんだ、そう言って一生懸命に羽ペンで書類を作り印を押していた。もちろん俺たちだけでなく、そう重要でないことは他の家臣達に手伝わせた。 「………………やっと一段落ついた」 「おつかれ、リオン。アクアとマリンもお疲れ様」 「俺様も疲れた~」 「あたしも疲れた~」  一段落がつく頃には皆、疲労困憊だった。だからそれぞれのベッドでぐっすりと沢山眠った、俺もリオンと一緒に眠りにつくことにしたが、どうもあの戦闘中に背後から放たれた矢のことが気になっていた。フライハイト国も一枚岩ではないということか、リオンを狙う者がどうやらいるようだった。 「リオン、お前フライハイト国にも敵がいるようだぞ」 「ああ、うん。知ってる、でもこの敵を倒すと面倒なことになるんだ」 「そうなのか?」 「今の気楽な生活なんてできなくなっちゃう!! 正義の味方もだよ!!」 「まぁ、お前が敵がいることを知ってるならいい」 「クロったら心配してくれてありがと、ここでキスしてくれたらもっと嬉しい」  俺は調子に乗るなといってリオンからのキスを避けた、リオンはケチッと言っていたがやはり疲労していたのだろうすぐに眠りについた、俺もそんな大事なリオンを抱きしめて眠りについた。 「無理はするなよ、俺のリオン坊ちゃん」

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