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第3話 もっと支配されたい(6)★

「たくさん頑張ってくれたね。ほら、ご褒美あげる」 「ひ、ぁ……っ!」  生温かいものが秘所に触れる。それが羽柴の舌だと理解するのに、時間はかからなかった。  未知の感覚に腰を引くも、羽柴が許してくれるはずもない。唾液を塗りたくるように舐められ、さらには蕾を突かれたのちに、舌先が体内へと潜り込んでくる。 「やっ、あ……そんなっ、あ」 「ははっ。さっき蓮也だって舐めてくれたでしょ? だからお返しだよ」  ぬるりとした感触が粘膜を犯していく。その異物感に体を強張らせながらも、股の裏一帯が気持ちよくて仕方がない。  犬飼はたまらずシーツを握り締め、腰をくねらせた。が、口から出るのは、一向に拒絶の言葉ばかりだった。 「いや、だ……やめ、羽柴……っ」 「うん? 嫌だったら、セーフワード言わなくちゃ」 「あ、ぅ……」 「どうしたの? 言わないの?」  意地悪に問いかけてくる羽柴に、犬飼は返す言葉もなかった。  排泄器官を舐めさせるだなんて――そうは思えど、羽柴が与えてくれるものは何だって嬉しいし、気持ちいい。本当はもっとしてほしくて、体の奥底が疼いている。  そんなこちらの思惑など、羽柴はお見通しなのだろう。小さく鼻で笑って、なおのこと愛撫を施してくる。 「ねえ、『Red』って言わないとやめないよ? 言えないなら、ジェスチャーでもいいから教えてよ」  白々しいにもほどがあるが、その容赦のない責め立てに、ゾクゾクとした快感が駆け抜けてとまらない。  期待に胸を高鳴らせながら、犬飼は震える唇を開いた。 「っ、羽柴……たのむ、から」  もっと奥深くまで暴いて――どうか俺を、君のものにしてほしい。  そこで、のだった。     ◇  翌朝。カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細め、犬飼は深々とため息をつく。 (……なんて夢だ)  夢の内容は、しっかりと記憶に残っていた。思い出すだけで体が火照りそうになり、軽く自己嫌悪を覚える。  案の定、下着は体液でじっとりと濡れているし、朝から気分は最悪だ。 「満たされている、はずなんだが……」  犬飼は頭を抱えながら、気怠く上体を起こす。  ティッシュペーパーに手を伸ばしたところで、スマートフォンの通知ランプが点滅していることに気づいた。確認してみれば、羽柴からのメッセージである。 《今日はお疲れ様でした! 無事に帰宅できましたか?》  どうやら、昨夜のうちに送ってくれていたらしい。可愛らしいポメラニアンのスタンプが添えられていて、思わず笑みをこぼしてしまう。  しかし、その傍らで胸がちくりと痛むのを感じた。 (こんな浅ましいSub(おれ)を、君は軽蔑するだろうか)  犬飼とて健全な成人男性だ。特定の相手を作ってこなかったにせよ、性欲は人並みにある。  今まで羽柴に対しても、そういった目で見たことがなかったが、昨夜の夢の内容も相まって、一度意識しだしたらキリがなかった。 「……本当に浅ましいな」  自嘲するように呟いて、返信をするべく指を動かす。  その後シャワーを浴び、出勤さえしてしまえば、あとはもう普段どおりの犬飼がいた。

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