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クランクイン(1)

 ***  くさい……。  自分が、オメガ臭い。  頭がくらくらし、気持ちが悪いのに、気分は激しく高揚している。  濃度の濃いアルコールを一気飲みしたらこんなふうになるのだろうかと、体を預けるようにして歩きながら、ぼんやりと思った。でも、先程の店で飲んだのは、グラスに3分の1ほどのワインだけだ。  発情期(ヒート)と言われても、普段のそれとは違いすぎて、いま自分の体に起こっていることが何なのか、自分でもよくわからなかった。  僕の体を支えているのとは逆の手で、三間(みま)がドアを開ける。  広々とした部屋に海の底のような青いライトが揺らめいている。ラブホって、どこもこんな感じなのだろうか。  室内をじっくり観察する間もなく。入るなり唇を奪われた。  「蹂躙」とも言えるような荒々しいキス。ファーストキスの感触を味わう余裕なんてなかった。執拗に舌を絡められるのも、歯列や粘膜をねっとりと撫でられるのも、唇を食まれ、舌を吸われるのも、全てが快感に直結する。  せわしなく体を這い回る手が尻を揉み、背中を撫で上げ、シャツの上から尖った胸の先っぽを探り当て、指先で押し潰す。キスと服越しの愛撫だけで、部屋に入る前から兆し始めていたものが一気に硬くなる。  気持ちいいのに。もどかしかった。  もっと。  もっと、深いところまで触ってほしい。  あそこを、ぐちゅぐちゅにして、アルファの熱で満たしてほしい。  フェロモンが濃くなり、部屋に甘い香りが充満する。そこに混じる、アルファの、雄の香り。性急なキスと手つきだけでなく、匂いからも、三間の興奮が伝わってくる。  あれほど苦手だった相手を、何故これほど欲しいと思ってしまうのか。僕のことなんて眼中にもなかったはずなのに、何故、彼が僕に欲情するのか。  不思議だった。  三間だからか。他のアルファでも、こんなふうになってしまうのか。  押し倒すように俯せにベッドに寝かされ、下着ごと、スラックスを引き下ろされる。  キスだけで痛いほどに勃ち上がった前が、ぷるんと勢いよく飛び出し、先走りを散らして揺れる。  濡れた後ろが三間の眼前に晒される。それを直視できる程には理性を手離しておらず、枕に顔を埋めた。 「なぜ、薬を飲まなかった?」  訊ねると同時にいきなり指を挿れられる。  急速に雄を受け入れる場所へと変わりつつあるそこは指一本くらいでは痛みを感じなかったけど、不意打ちだったため、「ひゃっ」と変な声が出て背筋が跳ねた。  「薬」というのは抑制剤のことだと、遅れて理解する。 「ヒートはもっと先のっ……予定で……、ァっ……、いつもこんなにずれ……ンっ……ないからっ……」  その間も、三間の無骨な指は、隘路を広げるような動きで後孔を出入りする。自分でするときとは比べ物にならないその激しい注挿に、喋ることすらままならない。 「狭いな。初めてか?」  チッ、と舌打ちが聞こえた。  言外に、面倒くさい、と言われたように感じる。  発情期(ヒート)をコントロールできていない自分が100%悪いことはわかっている。  ヒートになれば、自分の体すら制御できない存在。好きでもない相手にすら発情し、一夜の情けを乞わねばならない存在。  オメガの自分がどうしようもなく惨めに思えて、涙が込み上げてきた。 「もう……挿れてもらって大丈夫です……。ヒート中の……オメガは……、アルファを受け入れるように……できてるので……」  声の震えで、泣いていることに気づかれたのか。 「痛いなら、我慢せずにそう言え。初心者としたことがないから、勝手がわからないだけだ」  三間は努めて、声の調子を優しくしたようだった。  中を捏ねる指の動きも、幾分ゆっくりになる。  優しくされて、嬉しいと思った。  同時に、優しくしないでほしい、とも思った。  勘違いしたくない。  荒々しく、痛いくらいがちょうどいい。  たまたま居合わせたアルファのお情けで抱いてやってる、と思わせてくれたほうが――。

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