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クランクイン(4)
両脇に手を入れられ、深く繋がったままの体を無理やり起こされる。二人とも膝立ちの体勢。
後頭部の髪を軽く掴まれ顔を後ろに向かされて、キスをされた。最初の貪るようなキスと違って、優しかった。
もしかしたら、今すぐ動きたいのを我慢してくれているのかもしれない。
じゃれるような舌の動きに、そんなことを考える。
両手が脇の下から胸の前へと伸びて来て、ささやかな胸の粒を弄られる。
くすぐったくて、痛くて、気持ちいい。
快楽は下腹へと直結し、ゆるく兆していた性器がまた硬くなる。
男でもこんなところを触られるのが気持ちいいだなんて、知らなかった。
でも、女の人と違って物足りないだろうなと、不安にもなる。
日本人なら誰もが知る人気女優の顔が浮かびそうになって。自分から唇を離した。
早く動いてほしい。何も考えられないくらいに快楽に溺れたい。
唇の端から頬を辿り、耳たぶを食み、耳の後ろを吸った唇が、首筋へと降りてくる。そこに巻かれたチョーカーに噛みつくように、皮膚に歯を立てられる。
「これ、ないと困るけど、あると邪魔だな」
うなじの辺りで声がする。
何故、三間がそんなことを言うのか不思議だった。オメガのチョーカーなんて、慣れているだろうに。
「するときは、いつもオメガはつけているでしょう?」
言った後で後悔した。
わざわざあの人のことを思い出させる必要はなかったのに。
三間は悪くない。巻き込まれて、助けてくれただけだ。
悪いのは、「彼女に悪いから帰ってください」と言えなかった僕だ。
自分と、彼の中にわだかまる罪悪感を掻き消したくて。
「人助け……する気あるんなら動いてくださいよ」
この行為が三間にとって人助けでしかないことを強調しようとしたら、随分とつっけんどんな物言いになってしまった。
皮膚に立てられていた歯がわずかに食い込み、痛みを覚える。気を悪くしたのかもしれないけど。顔が見えないから何を考えているのかはわからない。そもそも顔が見えても、感情が読めない男だ。
チョーカーと皮膚との隙間を舐められて。深く繋がったままの腰を揺すられる。
結合をなじませるような動きに、嫌でも中のものを意識させられる。
自分の中に、アルファがいる。僕の中に、三間が。
フェロモンの所為だと頭ではわかっているのに。それだけで、満たされる。彼のことが愛おしく思えてしまう。
これだから、オメガは嫌なんだ。
ゆっくりと剛直が抜けていき、浅いところにある官能のしこりを、小刻みな動きで擦られる。
すぐにそれは、長大なものを抜き差しする激しい突き上げへと変わる。摩擦の濡れた音と、皮膚と皮膚のぶつかる音。それに、悲鳴とも泣き声ともつかない僕の声が、海の底のような青い空間に響く。
気持ちよすぎて辛い。辛いのに、擦られ、突かれるたびに、得も言われぬ悦びがとめどなく湧き上がってくる。
自分が、性感を享受するだけの、別の生き物になったようだった。身をよじり肩甲骨を浮き上がらせ、快楽の荒波に翻弄される。
快楽の絶頂――先程よりもずっとずっと高いところまで押し上げられるのに、さして時間はかからなかった。
「みまさ……、っ……あ、あっ、……もう、イクっ……ダメ……、いっかい…………止まっ…………ぁ、っん……!」
「晴 、だ」
「はるっ――!」
叫ぶように名前を呼んだ瞬間――……、尻に叩きつけるように激しく腰を送られ、切っ先が最奥を貫く衝撃で全身がガクガクと大きく震えた。
ぐっと腰を押し付けたまま、三間が動きを止める。
逞しい腕が前に回され、僕の体をぎゅうっと包みこむ。
腹に付きそうなほどに反り返った性器から、薄めの白濁がぴゅぴゅっと噴き出す。誘 うように自分のナカが彼を引き絞る。
ドクンと脈打ち、彼の雄がめいっぱい嵩を増す。
三間が、僕の中で――……。
そのことに自分が達する以上の悦びを覚え、涙が溢れた。
重ったるい熱液が大量に放たれるのを、薄い膜ごしに感じた瞬間――……。
「――ゆうみ」
耳元で、切なげな声を聞いた気がした。
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