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繰り返される悲劇(13)

 施設内の外に通じていそうなドアや窓の格子を片っ端から押したり揺すってみたりして、どれも僕の力では壊せそうにないことを悟り、エントランスへ戻って来た。  白木さんには相変わらず電話が繋がらない。残る頼みの綱は専務で、携帯番号は知らないため、専務と連絡を取ってもらえないか管理人に頼んでみた。専務から外出の許可をもらえれば、管理人も駄目とは言わないはずだから。  けれど、秘書が対応し、今は会議中だと取り次ぎを断られたそうだ。もしかしたら白木さんも、同じ会議に出席しているのかもしれない。  外に出ることを諦め、速足で部屋に戻りながら、どうにかして三間の無事を確認できないか、必死に頭を巡らせていた。  僕と違って三間は専属マネージャーだから、テレビ局にはマネージャーも同行しているはずだ。連絡すれば、すぐに非常階段に向かってくれるだろう。  でも、三間のマネージャーの電話番号は知らない。  稲垣に訊いたら教えてくれるかもしれないが、そうすることが正解なのか、今は自信がない。  スキャンダル記事の件で、出版社に情報を提供したのは誰かと考えると、一番可能性が高いのは稲垣だった。関係者の話として語られている、『二人ともフェロモンに煽られた様子で、お互いのことしか見えていなかった』という話は、彼しか知らないことだ。  マレーシアで彼が言っていた、「お前が俺を選ぶなら、俺は絶対にお前を裏切らない」という言葉も、記事を見て以降、ずっと引っかかっていた。裏を返せば、「お前が俺を選ばなければ、俺はお前を裏切る」とも取れる。  稲垣のことを信じたいけど。あの記事と彼のその言葉が綯い交ぜになり、一度目の人生で僕を突き落とした男のシルエットに、稲垣を重ねてしまいそうになる瞬間があった。    稲垣以外で三間のマネージャーの連絡先を知っていそうな人となると……。    階段を二段飛ばしで3階まで上がると、僕は歩きながらスマホの画面に文字を打ち込んだ。  検索結果のトップに表示されたサイトを開き、そのホームページに記載された代表番号をタップし、通話開始ボタンを押す。  そのホームページは三間の事務所であるアプローズプロモーションのものだ。  三間のマネージャーの連絡先を知っている人として、稲垣以外に思いついたのが、アプローズの社長だった。    面識はない。電話をかけるのも初めてだ。  でも、旅行に行ったとき、三間が、「何か困ったことがあったときは、他の事務所のタレントでも相談に乗ってくれるはずだ」と言っていたことを思い出し、駄目元で連絡してみることにした。  普通なら、他の事務所のタレントが別の事務所に電話をかけ、「社長に取り次いでほしい」と頼んでも、相手にされないだろう。  けれど今は、他には何も打つ手が思い浮かばなかった。  

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