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第1話

「絵画教室」 リハビリを兼ねた深夜の散歩中、窓ガラスに沢山の絵が貼り付けられた絵画教室を見つけた。絵に興味があるわけじゃない。ただ張り出された数十枚の絵の中の一枚のポスターにとても惹かれた。そのポスターはどうやらこの絵画教室の先生ものらしい。明日から開かれる個展の案内だ。 「個展」 ------ 「那月?どこ行くの?」 「絵の個展」 寄生先の家主で幼馴染の柊木が心配そうにこちらをみる。それもそのはず、陽のあるうちに一人で出かけるのは四年ぶりになる 「個展?一緒に行くわよ」 「大丈夫、すぐ帰るから。それに、お店もう開けなきゃでしょ?」 柊木はジャズバーを経営している。お店の開店は十七時から。現在時計の針は十六時半をさしている。 「携帯、忘れないでね」 「はーい」 家を出て徒歩十五分の場所に個展会場はある。個展に行くのは初めての事で緊張する。重い扉を引いて中に入る。中は小さなカフェの様になっていて両サイドの壁には沢山の風景画が飾られている。奥に進むとあのポスターに載っていた滝の絵がイーゼルに飾られていた。 「こんにちは」 滝の絵に視線を奪われていると、不意に背の高い男性に声をかけられた。柊木以外の人との会話は久しぶりで緊張する。 「こんにちは」 なんとかあいさつは返すことができた。 「気に入ってくれました?」 「…はい!」 「ありがとうございます」 男性は嬉しそうに頬を緩めた。 「あなたが?」 「はい。私、絵画教室の先生をしてます。実は今回が人生初の個展でして、緊張していて」 「あの、実は教室のポスターをみて来ました」 「!それは嬉しい!絵には昔から興味が?」 「いえ、この絵が…ぃっ!」 「大丈夫ですか?!」 楽しく会話できていたにも関わらず、いつもの厄介な発作が起こる。ある事件で頭を強く打ち聴力が著しく低下し補聴器を使う様になってから、こうして頻繁に頭痛と眩暈を起こす様になった。 最悪だ。気持ち悪い。頭と口元を押さえて痛みと気持ち悪さをやり過ごそうとするが、抵抗も虚しく膝から崩れ落ちる。 こんな事になるなら、昨日あのポスターなど見なければよかった。

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