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第1話 ケーキバース

 窓を閉めていても蝉の鳴き声が聞こえてくる。  学生向けの安いアパートではこれが限界だ。  俺はそれが気になってしまうが、横で映画を見る春希は違うらしい。  手に持ったカップアイスは縁が溶けて食べ頃になっているというのに、一口食べただけで視線は画面に釘付けだ。 「春希」 「ん?」 「それ、ちょうだい」  アイスを指差せば、春希はふっと笑ってアイスを掬った。  そこに、シロップを掛けるように唾液を垂らすと、俺にスプーンを差し出してきた。 「はい、あーん」  俺はそれを口に入れてスプーンをしゃぶる。  アイスが溶けていくと同時、抹茶味のはずのそれは蜂蜜のようにひたすら甘く感じた。  ――もっと欲しい。  夢中でスプーンを舐めていると、クスクスと笑い声が聞こえた。 「スプーンだけでいいの、剛人?」  春希がべっと舌を出す。  俺はそれに釘付けになった。 「映画、は……?」 「それより剛人がいいに決まってるでしょ」  それを聞いて、俺はその唇に齧り付いた。  甘い唾液を一心不乱に啜る俺を見つめる春希の目は、食われているというのに爛々と輝いていた。  それはまるで、獲物を狙う肉食獣のような。  フォークの俺が食べるのは、ケーキである春希だ。  でも、本当に喰われるのは……。

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