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第2話 邂逅
初めて春樹と会ったとき、体に雷が落ちなような衝撃を受けた。
春樹の容姿はこれといって特徴はなかった。
失礼を承知で言えば、可もなく不可もなく、ただただ平凡をど真ん中で突っ走るもので、すれ違えばすぐに忘れてしまうようなものだった。
それでも、今にも消えてしまいそうな儚い春樹は俺にとっては特別なものだった。
それは七歳の秋のことだった。
「貴明、お隣に越してきた春樹くんだよ。仲良くしてあげなさい」
両親から紹介されたのは、隣家に引っ越してきた優しげな夫婦と額にガーゼを貼った春樹だった。
春樹の顔は泣き腫らしたのか赤くなっていた。
この夏、春樹は両親を事故で亡くした。
家族旅行中、対向車線からはみ出した車と正面衝突して両親は即死、春樹も重症を負ったそうだ。
春樹の両親は駆け落ちして結ばれた夫婦で、双方の実家とは絶縁状態であり、唯一の味方は母方の伯父夫婦だけだった。
そして、交流があったのもその二人だけだった。
伯父夫婦は子どもを授かれなかったこともあり、身寄りをなくした春樹を引き取ったようだ。
こうして引き合わされた俺たちは幼馴染となった。
突然両親を亡くした春樹は、当然のことながら深く傷付いていた。
泣き暮れる春樹を宥め、笑顔にするのが俺の当面の使命だと感じた。
そして、俺だけに頼るようにしようとも思った。
春樹は元から大人しい子どもだったようで、俺の家に来ても俺が遊びに行っても現実逃避で読書ばかりしていた。
それでも、寂しさから俺と一緒にいる間は俺のそばを片時も離れることはなかった。
それが春樹の望むことならと、俺も春樹の邪魔をしないように隣でゲームをしたり、気紛れに春樹が読み終わった本を読んだりした。
それがお互いに煩わしく感じることはなく、むしろそれが心地いいと思った。
そうして過ごしているうちに春樹の笑顔が増えてきた。
それと同時に俺の中に沸き上がってきたのは独占欲だった。
誰の目にも触れさせたくない。
春樹は俺のものだ。
たが、そんなことはできないことも分かっていた。
無力な子どもに、何が出来る?
悶々と年月を重ね、出会って七年が経った。
その年の冬、春樹の伯父夫婦は奇しくも交通事故で亡くなった。
スリップ事故だった。
春樹はまたも家族を失った。
悲嘆に泣き崩れる春樹を前に、葬儀の場で親族たちは春樹の引き取り先について揉めた。
醜い押し付け合いだった。
駆け落ち夫婦の子どもなぞ引き取りたくない。
さして交流もなかった初対面の子どもなんか面倒見れない。
許されるなら、その場にいた全員を殺してやりたかった。
話し合いが膠着状態になった時、俺の両親は決意した。
それなら私たちが引き取りますと。
その場で初めて知ったことだったが、俺の両親と春樹の伯父夫婦は大学時代の親友だったそうだ。
春樹の伯父夫婦は、春樹を望んで引き取ったはいいものの子育ての初心者であり、ましてや両親を亡くした春樹の心のケアまで出来るか不安だったそうだ。
たまたま隣が空いていたこともあり、春樹たちは俺の両親を頼ってに引っ越してきたのだ。
俺の両親が決意したのは、そうして結ばれた縁もあっだが、なによりここで春樹を引き取らなければ施設行きもあり得たからだ。
異論を述べる者は誰一人としていなかった。
そうして春樹は、俺の兄弟になった。
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