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第7話

 柔らかな笑みを交わしながら、煜瑾と文維はカレーディナーを楽しんだ。2人の間には、深く、清らかな愛情があり、確かな絆があった。幸せに満ち足りていた2人だったけれど、煜瑾は文維の表情が晴れないことに気付いていた。  心配そうな煜瑾の様子に、人の心を読むプロである文維もすぐに察する。 「文維…、お疲れなら、今夜は早めに休んで下さい。後片付けは、私に任せて」  楽しい夕食の後、煜瑾はそう言って立ち上がった。  疲れた様子の文維を(いた)わる煜瑾の言葉だったが、文維は少し悲しそうな顔になり、空になったお皿を集める手を止めた。 「煜瑾…」  優しい恋人の思いやりに、文維は胸を突かれるが、伝えられない「現実」に苦しくなる。  范青䒾が告白した恐ろしい「事実」は、暗い種として文維の心の奥底に落され、じわじわと芽吹き、深く根を張ろうとしている。  文維は自分の中の恐ろしい秘密を、煜瑾に知られることが怖かった。  あの范青䒾が告白した、彼女が離婚した理由は、それほどに文維を戦慄させたのだ。 「私でよろしければ、…お風呂で、お背中を流しましょうか?」  恥ずかしそうに、声を掛ける煜瑾に、文維は真剣な目をして答えた。 「ゴメンなさい、煜瑾。今夜は本当に疲れていて…。独りで考えたいこともあるので、今夜はゲストルームで寝ます」 「えぇっ!」  最愛の文維の申し出に、純粋な煜瑾は顔色を変えた。愛しい人とは毎晩同じベッドで眠りたいとささやかな願いを抱く煜瑾は、それを拒絶されることは悲し過ぎて、苦しくなる。 「わ、私…、何もしません。今夜は…、手を握っていて欲しい、とも言いません。ただ、…ただ隣で眠るだけで…」  ドキドキしながら煜瑾は慌てて文維に撤回を求めるが、すでに黒々とした大きな瞳は潤んでいた。 「邪魔にならないように、静かにしていますから…」 「違うんです、煜瑾」 「な、なるべく、ベッドの端に寝ます。文維がゆっくり寝られるように…、わたし、わ、私…」 「煜瑾、誤解しないで下さい」 「私…わたし…、ぶ、文維…と…」 「…煜瑾…」  とうとう、その白くて艶やかな頬に、涙を零してしまった煜瑾が、(いとけな)くて、愛らしくて、文維はこれ以上理性が抑えられずに、恋人を引き寄せ、その胸に抱いた。 「シー…。落ち着いて、煜瑾」  怯えるように震える煜瑾を抱き締め、文維は穏やかに慰めた。

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