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19 申陽と肝油は和睦の道を探るのこと
帝からの使いがやってきたと聞いた朱帰は、はた目にもわかるくらいに、あたふたとうろたえた。
「なんだ、なんだ? 何がバレたんだ? 使い込みか、上役を陥れたことか、それとも――」
「帝は、肝油将軍の討伐の件について知りたいそうです。
妖怪を捕まえたなら、宮廷に連れてくるように、とのお達しです」
官吏は、使いの者の用件を伝えた。
肝油は討伐に行く前、これこれの件で討伐に行きます、との書類を出していたのだ。
「じゃあ、おれがこいつを連れていけばいいんだな」
「その他に、肝油将軍の妻も連れてくるように、とのことです」
「金玉を? なぜだ」
「化け猿に犯された女の顔を見てみたいそうです」
この国の皇帝は、悪趣味なのかもしれなかった……。
「それってぼくのこと? だから、妻じゃないって」
「まあいいじゃないか。金玉、私と一緒に都に行こう」
申陽は、特に気にしていないふうで言った。
「見世物になるんじゃないの?」
「帝にお目通りできるなんて、願ってもないチャンスだ。
私が無実であると、きちんと申し伝えよう。
そうすれば、我が一族に関する不名誉な噂も消えるだろう」
「おい、化け物……おまえ、自分の立場がわかってるのか?」
「戸籍も提出したし、裁判で私は無罪だと決定した――何か問題でも?」
「おまえは金玉にはふさわしくないと言ってるんだよ!」
「ハハハ、山賊あがりのあなたがそう仰いますか?」
二人がケンカしているのを尻目に、朱帰がいった。
「金玉、おまえが心配だ。兄さんもついていこう」
「え、ええと……」
金玉は、先ほどの朱帰の「私の胸を貸そう」という発言を思い出して、一歩、後ずさった。
「兄さんはいいよ……お仕事もあるだろうし……そうだ!
ぼくが生きてるって、父さんと母さんに知らせてよ! ねっ?」
「わかった。今すぐ、使いの者を出そう」
「そ、そうじゃなくて……兄さんが直接いってきてよ。
そうすれば、母さんだって元気になるかもしれないし……」
「肝油将軍、何をぐずぐずしておられるのですか?
帝の命令ですぞ。一刻も早く発たないと!」
「まさしく貴殿《きでん》の言う通りである!
朱帰殿、世話になった。ではさらば!」
肝油と申陽は、朱帰から金玉を引き剥がして、逃げるように法廷を飛び出した。
そこまでは意見が一致したのだが……。
「金玉、おれの馬に乗れよ」
「いいや、私の方へ」
肝油と申陽は、それぞれの馬を前にして、金玉をいざなった。
肝油は本当は、申陽を檻に閉じ込めて護送したかった。
だが、そうすると兵士を用意しなければならない。
金玉のまわりに男が増えると、いろいろと厄介ごとが起きそうだ。
申陽は本当は、自分と金玉だけが帝に会えばいいと思っていた。
が、無位無官の身で、お目通りが叶うわけはない。
仕方がないので、肝油に従って行こうとしたのだが……。
二人は、まるで意見が合わなかった。
「……ぼくにも馬を用意してくれたらいいんじゃないの?」
「そんなんじゃ、サマにならねえだろうが。野暮なこというなよ」
「私だって、金玉と一緒にいたいんだよ」
「もう! 早く帝のところへ行かなきゃならないんだろ?」
旅路は、遅々として進まなかった。
夜になっても、それは同じである。
三人は、街道沿いの官舎に泊まった。
肝油というお役人がいるから、利用できるのだ。
が……。
夕食を食べたあと、金玉はこういわれた。
「金玉は、おれの寝台に入れ」
「そんなの寒いだろう。私が温めてあげるよ」
「……どうして、ぼくの寝台がない前提なの?」
「あー、もうこのクソ猿、いいかげんにしろ!
エテ公が人間さまと寝られると思ってんのか?」
「私の母は人間だ! 私には金玉と結婚する権利がある!」
「すっこんでろ!」
肝油は申陽に殴りかかったが、スッとかわされてしまった。
「やりやがったな、この野郎!」
「……いや、べつに何も……私が悪いのか?」
「澄ましかえった君子面しやがって! おれのいちばんキライなタイプだ!」
「私だって、おまえみたいに騒がしい人間はキライだ!」
「アホ!」
「バカ!」
男二人は、およそ信も義もかけらもない、どうでもいい理由でとっくみあいのケンカをするのだった。
金玉は、少し離れたところで「やっぱり兄さんについてきてもらった方がよかったかな……」と思っていた。
しばらくした後、疲労困憊した肝油は、こういった。
「あー、クソ面倒くせえことになっちまった……なんとかならねえのか?」
同じく憔悴した申陽が、こう答える。
「平和的な解決法が、なくはない……」
「言ってみろ」
「とある南蛮の国では、妻が複数の夫を持つことが許されている。
一つの家に、一人の妻と、二人の夫がいることがある。
また、妻がそれぞれの夫の家を訪《おと》なう場合もある。
我々の国とは正反対だな」
金玉は、イヤな予感がしてきた。
「昨日の敵は今日の友……我々がほんの少し、
お互いに譲り合えば、望みのものを手に入れられるというわけだ」
「つまり――三秘《3P》か」
金玉にとっては初耳な単語だったが、なんとなくニュアンスは伝わってきた。
肝油と申陽は、そろって金玉を見やり……。
「申陽さんのバカッ!」
ただならぬ気配を察知した金玉は、
身をひるがえして、男たちから逃れんとした。
――金玉の運命や、いかに?
いきなり話数が飛んで、未公開部分ばかりになったら、そういうことだ!
カクヨムで先行公開中です。現在、41話まで公開中!
https://kakuyomu.jp/works/16818093082463824652
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