5 / 8
第5話 観察は大事
それから怒涛の日々が始まった。
形を決めて、決まったものから順次試作品を作り、エイリアンに試着させて不備を洗い出して改良、そしてその繰り返し。
季節が巡り、永遠に思われた仕事も少しずつ減っていく。
サムをはじめとしてウテヤラカン星のメンバーとも親しくなり、案外エイリアンも地球人と変わりないことがわかった。
そんな彼らのランジェリーは一番最後に作ることになっている。
何故なら、彼らの見た目はともかく下半身は地球人とほぼ変わらないからだそうだ。
地球人のランジェリーでも構わないとは言っているが、湿気が必須の彼らにとって従来の素材は蒸れて不快そうだ。
こんなによくしてくれる彼らのために、早く他のエイリアンのランジェリーを完成させて快適な地球ライフを過ごしてほしい。
史哉はその一心でランジェリー開発に取り組んでいった。
そして、予定より半年遅れでランジェリーがほぼ完成した。
残るはウテヤラカン星人のランジェリーだけだ。
史哉はサムの部屋で、サムにあるお願いをしていた。
だが、それはサムから断られていた。
「だから、私たちのは形は地球人と同じでいいんです。素材だけ変えてもらえれば大丈夫」
「でも、ノルカトモモ星人のときもそれで失敗したじゃないですか。やっぱり実際に見せていただかないと」
「ホログラムがあるでしょう」
「だーかーらー、実物を見た方が早いじゃないですか。質感とか」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」
かれこれ一週間もこの応酬を繰り広げており、話は平行線のままだ。
ノルカトモモ星人のときは、他のエイリアンのものを少しいじればいいはずだった。
しかし、ノルカトモモ星人から分泌される液でランジェリーは溶けてしまい、分泌液に耐えられる素材探しをするハメになったのだ。
それからはホログラムではなく実際にエイリアンに会って、失礼ながら体を見せてもらっていたのだ。
同じ轍は踏みたくない。
史哉は効率厨なのだ。
サム相手には埒が開かない。
同じプロジェクトを担う相棒だからと頼んでみたが、ここまで拒否されれば仕方ない。
「わかりました。サム以外の人に頼んでみます」
「はあ⁉︎ 何を言ってる!」
聞いたこともないような怒号が響いた。
しかも、敬語が取れている。
目が据わっていると、男前な顔も相まって中々の迫力だ。
史哉は至極真っ当なことを言ったつもりだったが、サムの中では違ったらしい。
「は、え……? だって、サムが見せてくれないから」
「だからって他のやつに見せてって言いに行くのか! 俺のを見せるから他のやつのところには行くな」
「ああ、うん……」
サムは史哉の手を引くとベッドに座るように促した。
願ったり叶ったりではあるが、一週間も渋られたお願いをこうも簡単に了承してもらえるなんて思っていなかった史哉は、急な展開に思考が追いついていなかった。
サムは困惑する史哉を置いてけぼりにし、その眼前で次々と服を脱いでいく。
まずは上半身だ。
肌に鱗が浮いていても、ベースは地球人と同じだ。
逞しく盛り上がった胸筋とバキバキに割れた腹筋は見ているだけで羨ましい。
腕を曲げるたびに盛り上がる上腕二頭筋も綺麗だ。
次に下半身だ。
太もももふくらはぎも無駄な筋肉がない。
何キロも走れそうなくらい、運動に向いていそうな足だった。
そして肝心の股間はというと、何もなかった。
「え?」
「だから言っただろう。地球人のランジェリーをそのまま、素材を変えるだけでいいと」
「そうだけど、え……? どうなってんの?」
不思議だ。
姿形は違えど、大概のエイリアンは地球人と同じで足の間に排泄口や生殖器があった。
例外は分裂して数を増やすエイリアンだけだ。
ウテヤラカン星人は分裂するタイプではないはずで、だから股間にそういったものがあるはずたど踏んでいた。
まさか、史哉の推測が間違っていたというのか。
いや、そんなはずはない。
納得がいかない史哉は知識欲に駆られ、史哉の様子に首を傾げるサムの股間に顔を近づけた。
「フミヤ⁉︎」
「ねえ、ここどうなってるの? 何もないけど、サムたちはちゃんとトイレに行ってるよね?」
「……地球人と同じで尻の方に肛門がある。違いは生殖器官だけだ」
「あ、やっぱりここにあるんだ。どれ?」
史哉がこだわるにはちゃんと理由がある。
ランジェリーはただ身につけるだけのものではない。
汗を吸収したり、体のシルエットを整えたりするのがランジェリーだ。
だが、もうひとつ役割がある。
夜の生活――つまりはセックス――を充実させるアイテムでもあるのだ。
だからこそ、形や素材にこだわるだけでなくデザインにも拘るのだ。
まじまじとサムの股間を凝視していると、その股には地球人の女性の性器のような割れ目があった。
おそらくこれが彼らの生殖器官なのだろう。
「この割れ目がそう?」
「そうだ。イルカみたいに、性交時は男性体のここからペニスが露出する」
「なるほどね。うん、よくわかった。ありがとうございます」
史哉の疑問は解消した。
そうとなれば、早速ランジェリー作りだ。
史哉はすくっと立つと自室に戻ろうと踵を返した。
ともだちにシェアしよう!