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第一章 ウィルバートの帰還⑨

「ウィルバート・ブラックストン。予想以上の働きぶりであった。この四年間の報酬として三十万ダルベス与えよう」  イーヴァリの言葉にその場にいた人々がどよめいた。  三十万ダルベスは一兵士の年収より多い。 「今後の働きぶりにも期待しての額だ。有効に使え」 「はっ! 有難き幸せにございます!」  ウィルバートはそう言い深く頭を下げ、さらに言葉を続けた。 「陛下にもう一つ御礼を申し上げたく存じます」 「ん、なんだ」 「ボルデ村に残った村人達の埋葬に、陛下の尊い兵を遣わせて頂きましたこと、ボルデ村の生き残りとして、またブラックストン家最後の当主として、厚く御礼を申し上げます」 「……うむ。礼には及ばん。先の厄災で犠牲になった者たちは我が国の発展に大きく貢献してきた大切な民だ。むしろ十年以上も野ざらしにすることになり申し訳無かったと思っている」 「勿体無いお言葉でございますっ」  ウィルバートは深く頭を下げた。マティアスにはその表情は見えないが、涙ぐんでいるように感じた。  マティアスはじわじわと悔しさが這い上がってくるような感覚に襲われた。ウィルバートが祖父イーヴァリに心から感謝している様子が不愉快だ。 (村人の、いやウィルの家族の埋葬に人材を割くなんて当然じゃないか!)  マティアスが成人すればウィルバートを騎士に任命できるが、現在ウィルバートは近衛隊所属であり、イーヴァリの所有なのだ。それが長年の祖父イーヴァリへの反抗心をより煽ることになっている。  謁見が終わり、ウィルバートや貴族達に見送られ、マティアスはイーヴァリに続いて謁見の間を出た。 「マティアス」  広間を出てすぐにイーヴァリが声をかけてきた。 「はい、陛下」  イーヴァリの後に付き従いながらマティアスは返事をした。 「ブラックストンは王子の騎士になるべく鍛錬と研鑽を重ねて来た。十分それに値する成長を遂げている。だがお前はどうだ」  説教が始まったことを悟り、マティアスはイーヴァリが見てない事を良いことに、しかめっ面をし舌を出した。 「マティアス。お前は、」  イーヴァリがこちらを振り返り、マティアスはサッと顔を真顔に戻した。だが舌を出していたことにイーヴァリは気づいたのか、眉間の皺が濃く深いものになる。 「お前は、第一王位継承者の肩書きに相応しい成長ができているか」  マティアスは黙って聞いていたが心の中では反発していた。 (王になりたいと私が志願したわけでは無い!) 「いつまでも子供気分でいてもらっては困る。成人の儀を終えたら、私に付いて公務にも携わってもらうからな」 「はい、陛下」  この愛想のない老人と過ごす事が多くなるのだと思うとそれだけでウンザリしてくる。 「国を統治するに魔術が使えるかは関係は無い。日々研鑽を怠るな」 「……はい、陛下」  マティアスは足を止めて返事をした。  その機械的な返事にイーヴァリは不満そうな顔をしつつも、それ以上は何も言わずにその場を去って行った。 (私に魔力が無いと知った時、あからさまにガッカリしたくせに……)  マティアスはイーヴァリの背中を睨み、見送った。

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