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第一章 護身術②
その日の夜。
マティアスは早めに湯浴みを済ませ自室で本を読んでいた。その本はかなり前に書庫で見かけたもので、剣を使わず体術で敵を倒す方法が記されている。
昼間のウィルバートとの手合わせはあっという間に終わった。
打ち込んだ瞬間、ウィルバートが少し驚きの表情を見せたので結構いい勝負になるのではないかと思った。その間一分程は接戦の様に思えたのだがウィルバートはマティアスの実力を測っていただけのようで、その後あっさりと隙を突かれた。
(……容赦無かったな)
アーロンも強いが既にウィルバートはその上を行っているように感じる。今年の武闘大会こそはウィルバートが優勝するのではないだろうか。
自分の騎士となる男が強いのは実に誇らしい。
しかしマティアスにも男としてのプライドがあった。
王の直系でありながら魔術が使えないマティアスは剣術を磨くしかないと考え、アーロンに指南をお願いしてきたのだが、ああもあっさり倒されるとやはり悔しい。
剣ではウィルバートに勝てない。ならばウィルバートがやっていない別の武術なら通用するのではないか。そう考え、マティアスはこの体術の本を出してきた。
マティアスは本を片手に立ち、図に記された型を真似てみる。
「えっと、相手の襟を掴み……ん? 脚は……こうか?」
空中に敵をイメージして型を真似てみるがイマイチ合っているのかわからない。
(誰か相手が欲しいな)
そう考えているとドアがノックされた。
「マティアス様。ウィルバートです」
ドアの外から聴こえたその声にマティアスは喜んで返事をした。
「ウィル! 入れ」
許可するとウィルバートは入室してきたが、寝巻き姿のマティアスを見ると戸惑ったように言った。
「あっ……もうお休みでしたか。明日出直します」
「いや、かわまないよ。さっきの手合いで防具を着けたから早めに湯浴みをしただけだ」
マティアスはそう言ってウィルバートを引き留めた。
子供の頃、ウィルバートはよくこの部屋で遊んてくれ、一緒にベッドに入りマティアスが寝るまで本も読んでくれた。しかし大人になるにつれて部屋自体な来なくなった。近衛兵としての仕事が忙しくなっていったのだろうと理解はしている。
だがせっかく久方ぶりにウィルバート来たのだ。早々に帰すつもりはない。
「それより、ちょっとここに立て」
「……はい」
マティアスはウィルバートを絨毯の中央に立たせて、本を片手に手脚の位置を確認する。
「なんですか? 私を贄に何か召喚でもするつもりですか?」
ウィルバートが言った。
マティアスはウィルバートのこういった軽口が好きだ。ウィルバートは二人きりになるとたまにこうして気さくな冗談を言ってくる。それも昔に比べると大分減ってしまったのだが。
「私が魔術を使えるようになったらお前を不死身にしてやろう」
マティアスも軽口で返す。
そしてマティアスは本を閉じ絨毯の端に置くと、ウィルバートに向き合った。
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