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第1話
8月2日ーー20時ちょうど
ドーーーン、ドドーーーン
毎年この時期になると、地元の祭りをやっていて、花火が打ち上がる。
去年は家でビールを飲みながら、その前も一人でビールを飲みながらだった。
今年は会社近くのカフェで夕飯代わりの軽食を食べながら、ボーッと花火を見ている。
「もうすぐ、10年か……。」
ーーー10年前
「蒼太、今年も祭り行くよな?」
高校3年生の夏。大学受験に向けて予備校に通っていた帰り、同じ高校に通う幼なじみの朝陽が聞いてきた。
「いつだっけ? 今日? 明日?」
「明日だよ。予備校休みだし、行こうよ。」
「んー、俺、夕方までは叔父さんの店の手伝いあるんだけど終わってからでいい?」
「いいよ、いいよ。終わったら連絡して!」
「わかった。」
朝陽と祭り行くの、何回目だっけ。
小さい頃は両親と朝陽の家族と行ってたけど、俺の両親が事故で亡くなって叔父さんに引き取られてからは、朝陽の家族と行くようになった。中学の頃からは朝陽と二人で。
そういや、俺ら二人とも彼女とかいたことないんだな……まあ、俺は、朝陽が好きだから彼女なんてできるわけないけど。
朝陽が好きーーー自覚したのは高校生になってから。
それまでは親友として好きなんだと思ってたけど、どうも違うみたいってことに気づいた。
周りが彼女ができたらしたいこと、彼女としたことを俺は全て朝陽で思い描いてしまう。
もちろん告白する気はない。
そう思ってた、けどーーー。
「え? 朝陽、県外の大学行くの?」
「そうだよ。九州の方に行きたい大学あるんだよね。」
九州……東京から行けなくもないけど遠い。
そうか、大学になったら気楽に遊べなくなるんだ。
このことを知ったのは高3になってすぐだった。どうせ、別れるなら告白して振られてしまおうか……そんなことが最近では過ぎる。
でも拒絶されて今後連絡すら取れなくなったら怖い。
そのような葛藤を続けながら今に至る。
二人で見る花火も今年が最後かもな、と思ったら何だか胸がきゅっーと痛む。
『朝陽って今は浴衣持ってないの?持ってたら明日着てきてよ。』
小さい頃に見た朝陽の浴衣姿。どちらかと言うと可愛らしい顔立ちの朝陽によく似合っていた水色の浴衣。すごく可愛かった。
朝陽からは返答はなかったけど、その代わりになんとも言えない表情をした猫のスタンプが送られてきた。
朝陽の浴衣姿を想像したらーーーヤバい。
スウェット履いててもわかるくらいに勃ってしまった、ソレを朝陽を思い浮かべながら、処理していく。
俺の想像する朝陽はかなりエロくて可愛い。
叶うなら、朝陽を一回だけでも抱いてみたかった。
そんなことを考えながら眠りについた。
祭り当日ーーー
叔父さんが経営するお店の手伝いを終えて、朝陽との待ち合わせ場所へ向かう。
待ち合わせ時間の5分前に着きそうだ。
「朝陽、早いね。」
待ち合わせ場所に着くと、すでに朝陽が着いていた。
「まあな……って何で俺だけ浴衣!?」
朝陽は紺色の浴衣を着ていた。明るめの茶色い髪によく似合っていて可愛い。
「似合ってるよ。可愛い。」
素直にそう述べ、頭をガシガシと撫でてやった。
「ば、ばっかじゃないの!?」
照れたのか顔を赤くしながら言うからますます可愛い。そんなことはもちろん言わないけど。
「ほら、行こうぜ。」
近くの神社の方へ向かっていくと途中の道から屋台がたくさん並んでいる。
俺たちが真っ先にやるのは、射的。
毎年見慣れたおじさんの店。
「おっ、今年も来てくれたんだねえ。あっちゃん(朝陽)にそうちゃん(蒼太)」
「もう、俺ら高3なんだからその呼び方やめてよ。」
朝陽がケラケラ笑いながらお金を渡す。
「おれにとったら、オムツしてた赤ん坊の頃から知ってるんだから、いつまでも子供みたいなもんだよ。」
この人は朝陽と俺の両親とも仲良くて、赤ちゃんのときは何度か家に来たこともあるらしい。
「でもたぶん、来年からは来れないかも。俺、県外の大学行くんだよねぇ。」
朝陽がおじさんにそんなことを話しながら銃を構える。狙いは黒いクマのぬいぐるみらしい。何でそんなもの狙ってんだ?
「そうかい、そりゃ寂しくなるなあ。そうちゃんも一緒に行くのかい?」
「いや、俺はこっから電車で一時間くらいのとこ。」
「二人が離れ離れなるのも初めてだろ。寂しくなるなあ。なあ、そうちゃん?」
「な、んで…俺にそんなこと聞くの。そりやあまあ、生まれた時から一緒だし、ちょっとは…。」
(なんて言うのは嘘。本当は引き止めたいくらい淋しいって思ってる。)
「一生離れ離れになるわけじゃないし、そのうちまたどっかで会えるって!ほい、これ蒼太にやる。」
朝陽は取ったぬいぐるみを何故か俺にくれた。
「蒼太な似てね?」
いたずらっ子のような笑みを浮かべた朝陽が俺とクマを見比べて言う。
「ちょっと無愛想な顔してるとこがそっくりだろ」
朝陽が楽しそうに笑いながら言うから、まあそういうことにしといてやる。
「じゃあな、おっちゃん!」
その後は屋台で適当に食べながら他愛もない話をしながら、花火の時間まで祭りを満喫した。
20時前ーーー。
毎年同じ川原で上がる花火を毎年同じところから眺める。
「今年で最後かぁ。」
ボソッと呟くように朝陽が言ったのを俺は聞き逃さなかった。
「この時期、大学だって休みだろ。帰って来ないの?」
「んー、わかんない。一人暮らしになるし、バイトもしてお金貯めたいし。帰ってくる暇ないかも。」
「……そっか。」
「何?蒼太、もしかして俺が地元離れるのが淋しいの?」
「なっ、んなわけ、」
言いかけたところでドーーーーンという音が聞こえて周りから歓声が上がる。
ドーーーーン、ドーーーーン
(淋しいに決まってるじゃねえか。18年一緒だったんだぞ)
ドーーーン、ドドーーーン、ドーーーン
「……(ボソッ)好き、だよ」
なんて、この音で聞こえるはずもないだろうけど。
ドーーーン、ドーーーン
「何!?なんか言った??」
花火と花火の合間に朝陽が俺の方を向く。
「別に、何も言ってねえ。」
ドーーン、ドドーーーーン
ふいに隣にいる朝陽の手を握ってみた。
驚いてこっちを見た朝陽がフワっと笑う。
「やっぱり淋しいんだろ。」
そう言って優しく握り返してくる。
ドーーーン、ドーーーン、ドーーーーーン
「……ちげーよ、バカ」
その声も恐らく花火にかき消されて朝陽には聞こえてなかったんだと思う。
花火が終われば手を離し、家へと帰る。
それから7ヶ月後ーーー。
朝陽は卒業式が終わった数日後に一人暮らしをするために引越しをした。
新幹線やら電車やらをいくつか乗り換えて、片道4時間くらいかかるところだ。会いに行こうと思えば行けたけど、俺も大学入ってバイトをしたり、新たな友達ができたりで忙しくて結局一度も会わないまま10年がたった。
スーツのポケットから朝、家を出るときに持ってきたものを出す。
『新田家 林家 披露宴招待状』
大学進学し、そのまま就職をした朝陽は何度か地元へ帰ってきたらしいが俺はタイミング悪く会えなかった。
そして、大学のときに知り合った彼女と結婚することになったらしい。その招待状が実家に届いていて、叔父さんが今の俺の家へ送ってくれた。
あの時、もっとちゃんと想いを伝えていたら、何か変わってたのかな?
今でもふとそんなことを思ってしまう。
なんて、結婚しちゃうやつをいつまでも想ってても仕方ないんだけど……あのとき、握り返してくれた手が熱くて、想い伝えておけばよかったと後悔してるんだ。
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