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疑惑と遭遇

初夏の爽やかな風が頬を撫でる感覚に、うっすらと目を細めた。ゴールデンウィークが終わったばかりの空気は少し乾燥していて、それなのに肌を撫でつける風は柔らかくて心地いい。 直ぐ近くにある住宅街では未だ片付けられてない鯉のぼりがチラホラと軒にたなびいているのが見える。 「おい、環。なにやってるんだ。置いてくぞ」 「あ、うん。今行く」 昇降口を出て、校門の所まで行くと、既に何人かの人だかりが出来ていた。 その中に、紗季の姿も見える。 俺は、少し気まずく思いつつも、皆の輪の中へと入って行った。 行くって決めたんだから、楽しまないと勿体ない。 幸い、紗季と付き合っていた事を知っているのは篠田だけだし(別れた事はまだ言えていないけれど)いつもどうりで居ればバレる事もないだろう。 こういう時は、みんなに黙っていてよかったと心から思う。 「環、お前なに歌う?」 「うーん、あんまし歌は得意じゃないから、聞き専でもいいんだけど……。まぁ、気が向いたら何か入れるよ」 真新しい制服に身を包んだ1年生達を追い越し、俺達2年生は慣れた足取りでカラオケ店へと向かう。 途中、何台か消防車が通り過ぎて行った。 「なに? 火事かなぁ?」 「そう言えば、ここ数日空気が乾燥してるから火災が頻発してるって、今朝のネットニュースに載ってた」 「あ、それ俺も見た。怖いよな」 みんなとそんな他愛もない話をしながら、住宅街を抜けて駅通へと出る。ロータリーを通り抜けて、数分も歩けばすぐ繁華街だ。繁華街に入れば、賑やかな喧噪が一気に押し寄せてくる。 俺達の学校にほど近いカラオケ店は、既に学校帰りの高校生達で溢れかえっていた。 「環~。受付よろしく」 「分かった」 取り敢えず、人数も多いしフリータイムでいいか。視界の端で、篠田と紗季が何やら楽しそうに談笑しているのを捉えながら、受付を済ませて部屋番号の書かれた紙を受け取る。 あの二人って、そんなに仲良かったっけ? アイツも、別れたばかりの彼氏がいるのに、よく他の男と楽しそうに話せるよな。 なんて思っていると、戻って来た俺に気付いた篠田が、俺の手から部屋番号の書かれた板をパッと取り上げて、先頭をきって部屋に入って行った。

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