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疑惑と遭遇 ⑥
ゆっくりしてていいよとは言ったけれど、自分の家なのに、彼がいるせいかなんだか居心地が悪かった。そもそも生活スタイルが違うし、彼は何を考えているのかよくわからないので会話もあまり弾まない。
本当は部屋に籠ってNaoの配信を聞きながら、思いっきり泣いてしまいたい気分だったけれど、露木君がいる手前そんなみっともない真似は出来なくて、俺はずっとスマホをいじって時間を潰していた。何処となく気まずい空気の中、時間だけが刻々と過ぎていく。
そんな気まずい空気の中でも、お腹が空くのはやっぱり人間の摂理というやつで、そういえばお昼もろくに食べてなかった事を思い出す。
しかも、タイミングの悪い事に、ぐーきゅるる、と俺の腹の虫が切ない声を上げ部屋中に鳴り響いてしまった。
お昼も食べてない事よりも、この状況の方が何倍も恥ずかしい。
「……ふっ」
俺が何か言い訳をしようと口を開く前に、露木君が口に手を押し当てて、微かに肩を揺らした。え? 今笑った? いや、でも。あの露木君が笑うなんて……。
俺は思わず、まじまじと彼の顔を見てしまった。
だって、あの露木君だ。いつも無表情で、冷たい雰囲気を醸し出している彼が、俺の前で肩を震わせて笑っている。しかも、そんな笑い方をするなんて思ってもいなかったから、俺は思わず見入ってしまった。
「椎名、腹減ったのか?」
「え、あ……うん」
露木君はひとしきり笑った後、目尻に浮かんだ涙を拭いながら俺に問いかけて来た。
「何か作ろう。キッチン借りるぞ」
そう言って彼は俺の返事も待たずに、キッチンへと入って行った。その足取りは心なしか軽く見える。
「何かって、露木君ご飯作れんの!?」
「そりゃまぁ、自炊は一人暮らしの基本だろ。丁度、買い出しの材料があるんだ」
さらりとそう言って、自分のカバンの中から食材をいくつか取り出して並べている。重そうな荷物背負ってるなぁとは思ってたけど、まさかリュックの中からジャガイモやニンジンが出てくるとは思わなかった。
「キミのカバンは四次元ポケットみたいだな」
「何言ってる」
思わずぼそっと呟いた俺の声が聞こえていたようで、すかさず呆れたような声が返って来た。
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