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疑惑と遭遇 ⑧
「そう言えばさ、これからどうするんだ?」
食事を作って貰ったのに、家主である自分が何もしないのは気が引けて、食器を洗いながら尋ねると、露木君は珍しくうーんと唸った。
「取り敢えず、明日家に行ってみて使えそうなものが無いか確認する必要はあるかなとは思っている。まぁ、あの様子じゃ全てダメになってそうだけどな」
明らかに落胆した様子の彼に掛けるべき言葉が見つからない。家が燃えたと言う事は早急に新しい家も探さないといけないだろうし。
「あのさ……。もし、住む家が無いんだったら、暫くウチに住む?」
「は? いやいや、流石にそこまで迷惑かけるわけには」
俺の言葉が意外だったのか、露木君は眼鏡の奥で切れ長の瞳をぱちぱちさせて俺を見た。
「でも、住むとこ無いんだろ? 学校からそう遠く離れていない所の家探すのって結構大変じゃないか?」
「うぐっ、ま、まぁ……」
「それに、俺一人暮らしだし、部屋も余ってるし。男同士だから問題はないっしょ。
それに、俺は露木君の事もっと知りたいしさ。あ、別に美味しいご飯が食べたいから提案してるわけじゃないよ? まぁ、ちょこっとそれもあるけど」
露木君の眉が訝し気に顰められた。
そりゃそうだよな。自分の事を嫌いな相手から、一緒に住もうって誘われてるんだもん。警戒するのも当たり前か。
でも、なんとなく。こんな状態の彼を一人でほっぽりだすなんて出来ないし。
放っておけないっていうか、力になりたいっていうか。
「無理強いはしないよ。嫌なら嫌って言ってくれればいいし」
「嫌なんてそんな……。でも、本当にいいのか?」
「いいって。困ってる時はお互い様って言うじゃん?」
「……お前のそういうお節介な所、ホント尊敬する」
そう言って露木君の表情が、少しだけだが緩んだような気がした。
その表情はいつもの彼からは想像もできないくらいに柔らかなものだったから、思わず俺はどきっとしてしまう。
露木君って、こんな顔も出来るんだ。いつもの無表情な顔よりも、今の方が断然いい。
「じゃあ、お言葉に甘えて、そうさせて貰おうかな」
そう言ってはにかむように笑った露木君の顔を、俺は一生忘れないだろう。
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