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俺はこの恋を諦めない

 その日は熱っぽくて身体がだるく、俺は部活を早退した。  両親は共働きで、今日はバイト休みの兄ちゃんが家にいるはずだ。だるい身体を引きずりつつも、早く兄ちゃんに会いたかった。  兄ちゃんは母さんに似て小柄で優しい顔立ち。高めの声とゆったりした話し方が心地いい。そんな兄ちゃんに俺はたまらなく恋をしている。  でもこの想いは知られるわけにはいかない。彼女がいる、ちゃんとした兄ちゃんには、絶対に……。  帰宅すると、玄関に見慣れない男物の靴があった。  友達が来てるのか、とがっかりした。  いつもは元気に登る階段も、今日はだるい身体でゆっくりと登る。  その途中で異変に気づき、全身が凍りついた。 「ん……あっ、ぁ……っ……」   喘ぎ声が漏れ聞こえる。女の声じゃない。これは兄ちゃんの声だ……っ。  兄ちゃんが喘ぎ声と一緒に何度も男の名を呼ぶのが聞こえる。  恋人ができたって、彼氏だったのか……。  報われない恋だと分かっていたのに、その相手が男だと分かった途端、絶望で目の前が真っ暗になった。  俺が夢に描いた兄ちゃんより甘くとろけそうな声に、心が引き裂かれる。  なんとか声を遠ざけようと、自室に閉じこもりベッドにもぐった。  早く終われ……!  あふれる涙を何度も拭った。 「そろそろ弟が帰ってくる」  そんな言葉が聞こえ、しばらくしてドアの開く音がした。 「ね、明日も来る?」  俺が居ないと思っている兄ちゃんの甘い声が胸を締めつけた。  あのまま玄関に行けば俺の靴がある。バレてしまう。でもどうすることもできない。 「えっ!」という驚いた声が玄関から聞こえ、蒼白な顔が見えるようだった。  階段を登る音がして、ノック音のあと兄ちゃんの青い顔がそっと覗き込む。 「……か、帰って……たんだ……」  愕然とする兄ちゃんを見て心を決めた。  これまで通り良い弟を演じる。兄ちゃんの心の支えになってやる。 「ごめん。今度から帰る前にちゃんと連絡するよ」  俺は必死で笑顔を向けた。 「ご、ごめん、あの……」 「大丈夫。俺もゲイなんだ」 「え……?」  兄ちゃんが戸惑った顔で俺を見る。  俺が咳き込むと、ハッとしたように「もしかして体調悪いの?」と駆け寄ってきた。  いつか兄ちゃんが彼氏と別れたら、その時は。  その日のために、俺は兄ちゃんの絶対的な味方になろう。    終

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