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8.共闘
ヴァンパイアはゆらりと身体を揺らし、一歩また一歩と二人との距離を詰めてくる。
「やっぱりやるしかないか」
「お前も全力で避けろ。チャンスは作ってやる」
二人は視線で残る会話を済ませ、右と左へ散開する。
ロウはコウモリへ変化し、クーゲルは地面を蹴って貯水タンクの裏へ回りこむ。
「無駄なあがきを……」
速さを増したヴァンパイアが、まずコウモリに変化したロウへと狙いを定める。
ロウは一匹から数匹のコウモリへ変化し、ヴァンパイアの視界を塞ぐ。
クーゲルは先ほど使った要領で再度権能を展開し、金色の瞳でヴァンパイアを睨みつける。
ロウがコウモリで通り抜けようとすると、一匹のコウモリがヴァンパイアの爪で引っかかれる未来が映る。
クーゲルは素早く銃を構え、ヴァンパイアの黒い羽に銃弾を撃ち込んでいく。
ダァンダァンという音が鳴り響き、銃弾のうち一発が羽へと突き刺さるとヴァンパイアの軌道がズレてロウへの攻撃が失敗したのが見えた。
「人間如きが、私に……」
ヴァンパイアは顔をゆがめ無理やり身体を捻り、今度はクーゲルの方へ向かってくる。
クーゲルは再度地を蹴り、身体を傾けながら残った銃弾を全てヴァンパイアの身体へと撃ち込んでいく。
「クーゲル!」
人間の姿へ戻ったロウが、手に持った鞭をしならせてヴァンパイアの右手首へと鞭を絡ませる。
ロウへ振り下ろされそうになった手は、鞭によってギリギリ動きが止まる。
クーゲルはその隙を見逃さず行動へ移そうと、今度はロウの方へ駆け抜ける。
「ちょこまかと忌々 しい……」
手に絡めていた鞭ごと引っ張られ、ロウがバランスを崩す。
クーゲルはロウの身体を支え、共に地面へ転がってギリギリ攻撃を回避する。
ヴァンパイアは手首に絡まった鞭を無理やり引き剥がして地面へ叩きつけると、両手を広げて血の雨を降らせてきた。
その雨はジュウジュウと嫌な音と焦げた臭いをまき散らし、地面や給水タンクを溶かしていく。
あっと言う間に、辺りはタンクから溢れた水で水浸しになってしまう。
「どうした、これでおしまいか? 確かに銀は痛いが、この程度まだ耐えられる。隠れても私には手に取るように居場所が分かる。今なら新たな眷属にしてやってもいい」
ヴァンパイアは高笑いしながら、二人の方へじっくりと近づいてくる。
ロウはため息をついてクーゲルを見遣 ると、クーゲルの目尻から赤い液体が出始めていた。
「おっさん。目から血が……って、目が金色?」
「権能の制限時間が過ぎた。痛むがもう少し使うしかない」
「権能って、クーゲルは神様の子孫か? なるほど。と、話している場合じゃない。権能を長時間使い続けるとあんたも危ないんだろう?」
クーゲルは頷き、マグナムの弾を充填 していく。
余裕の表情で近づいてくるヴァンパイアは、クーゲルのぼやけてきた瞳にも映り込んでいた。
「僕の武器、後は接近用しか残ってないけど何とかなりそう?」
「これを使え。弾は入れ替えた。俺はあまり使いたくないが、こちらを使う」
クーゲルは背中に背負っていたバッグを下ろし、中からボウガンと弓を取り出した。
レトロな武器と言ってもいいものだが威力は申し分ない。
クーゲルはボウガンを片手に持ち、背に矢筒と弓を背負い直す。
「この銃、愛用の……」
「貸してやる。壊すなよ」
「ありがとう。一応射撃も得意だから安心しろって」
ロウは微笑し、先に物陰から姿を現す。
クーゲルは痛む目を凝らし、瞳の端から血を流しながらじっと一点を見つめる。
ロウへ向けられる雨、それを必死にかわすロウ。
しかし、このままだとロウの胸はヴァンパイアの腕で突き破られてしまう。
その前にクーゲルも物陰から飛び出ると同時に水しぶきを跳ねさせながら、ヴァンパイアへボウガンを放つ。
連射式のボウガンの矢は、ロウに気を取られていたヴァンパイアの足へ全て刺さる。
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