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序章、千年前の龍界、禁断の恋

龍界の白浜で、涙のように流れるもの——それは、兄にβ白龍八潮:(はくりゅうやしお)が失恋し、心を砕かれた瞬間だった。見つめるのは、兄への秘密の愛を抱く弟、αの黒龍族の王子、雅鱗:(がりん)。 「また失恋してしまった。弱い男は嫌いだそうだ」 男にはしては小柄な兄の白龍八潮は、薄い背中を丸めて濃紺の海の端にある、白浜の松林で、真珠のような涙を流していた。 「兄上、何を泣いている!龍界きっての知略と戦略に秀でた天才は白龍八潮しかいない!」 (兄上は並の女より美しく、たおやかで頭がいい) 魚づりの竿を背中に背負い、誰よりも高い身長に日に焼けた屈強な黒い肌の弟が豪快に笑いはげます。 「雅鱗は勇ましく、素直で男らしくて本当に羨ましい。私も弟のお前のように剛健な男になりたかった。」 弟との黒龍雅鱗は、その強靭な肉体と豪胆な性格で龍界の人気者だ。 「何をいう。俺は乱暴もので字が下手で、女は泣くか馬鹿にするかだ。一緒にいるのはつまらない」 (俺は女が好きじゃない。好きなのは男の兄上!白龍八潮ただひとり) 「もったいない、雅鱗に字を教えてやる。練習のがてらに、私にむけて日記を書いてみないか」 八潮はもとから庇護欲がつよく。彼は、先見の明にすぐれ、指導力があった。 「兄者と一緒にいられるなら、この弟の雅鱗はなんでもやるぞー!!」 大柄な雅鱗は、元気よく吠えて、小柄な八潮の肩を抱く。 ★★★ 一千年がすぎた。 白龍八潮は軍師として、黒龍雅鱗は軍の総大将として立派に成長し、今や龍界、天界、人間界、鬼界にその名馳せた。 「忍ぶ恋はつらいな」 黒龍雅鱗は千年、兄の白龍八潮に片思いしていた。先日、とうとう堅物の兄に白波という恋人ができた。 「兄上、雅鱗は一千年かけて貴方への恋の日記をかいている」 彼は、龍界の同性愛を認めない文化に悩んでいた。それでも、兄、白龍八潮を愛していた。 「八潮と両思いになれたらいいのにな」 雅鱗の強い思は、周囲にささやかながら伝わっていた。 弟との雅鱗は千年もの間、兄の八潮に片思いしていた。その間に何度も吸血鬼がすむ鬼界との戦いが繰り広げる。 鬼界の王、鬼王ミスカンサスは特に恐れられており、その巧妙な策謀で他界の平和を乱そうと目論んでいる。雅鱗は吸血鬼との戦いや天界、人間界の防衛に奔走する中で、その想いを胸に秘め続けてきた。 千年の間、雅鱗は鬼界の暗闇を駆け抜け、無数の戦場でその力を振るってきたが、心の中には常に兄への片思いが燃えていた。 何処からともなく、噂がわいた。 兄の八潮を、弟の雅鱗が好いている。と…。 鬼王ミスカンサスが、その思いに目をつた。そして、証拠をつかんだ。 戦場で雅鱗と相打ちになった鬼王ミスカンサは日記をひろった。 「これは、千年の片思いを書いた日記ではないか」 癖のある流麗な字を読んでほくそ笑んだ。 「黒龍族の王子、雅鱗は兄と両思いになりたいらしい…では、龍界を鬼界の物にするたの策略に使ってやろう」 鬼王ミスカンサスの策略が四人のα、β、Ωの運命を翻弄しはじめた。

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