1 / 1
第1話
教室の後ろから3番目の窓際の席。
今日も幸せそうに窓の外を見ている。
窓越しに見えている物は、普段は立ち入り禁止で、大掃除の窓拭き位しか使われていないベランダと中庭が気持ち見える位だ。
ベランダが無ければ中庭の全体が見えて良い景色だっただろう。
そんな残念な景色をこうしてたまに幸せそうに見ているのだから不思議だ。
ボーッと見ている時と、こうして何かに気づいて幸せそうな顔をする時があるので、鳥でも来てるのかなと思っている。
水名瀬君は動物が好きだからな。
窓の外を見てくれると、少し離れた俺の席から水名瀬君の横顔が見れるのでありがたい。
退屈な国語の授業を終え、昼休憩だ。
「水名瀬ー!昼どこで食う?」
水名瀬君の席はアッと言う間に人で囲まれる。
俺はそれを見ながら自分のカバンを持ってソッと教室を出る。
水名瀬君を中心にいつも人が集まっている。
対する俺は未だにクラスに馴染めず1人が多い。
入学式の時は水名瀬君、代表で挨拶してカッコ良かったなぁ……。
移動教室で迷ってしまった時も、俺を見つけて案内してくれたし……。
俺の事ちゃんとクラスメイトとして認識してくれてた事にビックリだったけど、さすがだよなぁ。
ほんのちょっとした出来事しか無いのだけど、そのちょっとした事が俺にとっては大事件で、ずっと大事に心の中に抱えてる。
来年は違うクラスかもしれないんだから、せめて挨拶する関係にはなりたいと思っているのだが、そのハードルが高い。
ため息を吐きながら中庭でお弁当を食べていると、スリッと俺の腕に頭を擦り付けてくる。
「あ、お前いつもどこに居るんだよ。待ってろよ、今日はちゃんとお前用の猫缶持って来たんだぞ」
中庭に居ると、どこからともなくやって来るハチワレ猫。
あちこちで良い物もらってそうな恰幅の良い姿だが、可愛くてついつい何か与えてしまう。
「明日はちゅ〜るにしようかな」
ガツガツ食べている猫を見ながら嬉しくて明日の事も考える。
毎日この猫が来てくれるから、俺のお昼は寂しくない。
「ちゃんと噛んで食べろよ〜」
豪快に食べる猫に声を掛けながら自分もお弁当を食べ始める。
「あ、またあの猫と居る」
「何?」
「いや、何でもない」
何で俺の周りはこんなに人が集まるんだか……。
俺だけだったらあそこに座って一緒に猫と戯れたいのに……。
あの笑顔良いなぁ。
声を掛けても大体俯いてしまって顔もまともに見れた事ない。
「水名瀬、もう教室行く?」
「あぁ、そうだな。もう行っとくか」
もう少しコッソリ見たかったけど、他の奴らに見つけられるのも嫌だし、中庭から離れる事にした。
午後の睡魔との戦いの授業が始まる。
この席になってから、つい窓の外を見る癖が付いてしまった。
中庭が見えたら良いのに、半分はベランダで消されている。
と、ヒョイッとハチワレ猫がやって来て、だら〜んと伸びて横になる。
この猫、緊張感無いよな。
この媚びないマイペースな所が、自然と受け入れられたのかな……。
今日も猫と戯れる姿良かったなぁ……。
あ、また鳥でも来たのかな?
水名瀬君が幸せそうな顔をしてる。
いいなぁ、俺もあんな風に見つめられたい……なんてね。
窓越しに見えるのは……
2人の思いなんて知ったっこっちゃない、毛繕いに必死なハチワレ猫様でした。
ともだちにシェアしよう!