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第1話

「貴之!終わったぞー。」 「郁也さん、あ~、もうこんな時間ですよ。 なにもこんな日にバグ見つかんなくてもいいのに。」   「時間かかったけど、無事修正できてよかったよな。」   「郁也さんが『俺ら二人で大丈夫!』なんてデカイ事言ってみんな帰さなきゃ、もっと早く終わったのに。」 「仕方ないだろ、俺達は経営者なんだし。」 「経営者って、部下を使う側でしょうが。」 俺、新藤貴之(しんどうたかゆき)がこの真鍋郁也(まなべふみや)に声をかけられ、このゲーム製作会社を立ち上げたのが10年前。 共同経営者ではあるが、大学時代の先輩、後輩の立ち位置は変わることはなくて頭が上がらない。   そしてもう1つこの人に頭が上がらない理由…… 俺がこの人に恋をしていると言うこと。 彼と一緒にいることがだんだん日常になってしまっているが俺はずっとチャンスを狙っている。   10年拗らせた恋に終止符を打つチャンスを。 そう、そしてあの人もきっと俺を…… 「ちょっと、飲んで帰るか。」 郁也さんが珍しく誘って来た。 「あんたそんなに飲まないでしょ?」 酒に弱い郁也さんと飲みに行くことは皆無だった。   「だって、クリスマスじゃん。まっすぐ家に帰るのもなんだし。イヤなら別に無理にとは言わないけど。」 すぐにすねるしツンデレだし。そんなところも俺にとったら可愛いいんだけど。   「じゃあ、うちで飲みませんか?今日はクリスマスでどこに行っても混んでるだろうし。」 宅飲みかよ。と不服そうな郁也さんを説得しながら俺は、残業の疲れも忘れ、今日は特別な夜になりそうな予感に期待を込めた。 マンションまでの帰り道、深夜まで営業しているスーパーに寄りシャンパンとカクテルの瓶を数本、チキン、小さいクリスマスケーキも買った。 ちょっと浮かれてレジの手前で売っていた赤と緑のアロマキャンドルも購入した。 「お邪魔します。」 そう挨拶しながら上がり込むのは律儀な性格の郁也さんらしいなと思う。 シャンパンで乾杯し、ささやかなパーティーは始まった。 「珍しいね。郁也さんが飲みたいって。」 「そんな気分の時もあるだろう?」 シャンパンの瓶が空になった頃、したたかに酔っているらしい郁也さんは瞳を潤ませ、すっかり赤らんだ顔でそう言った。 何だか楽しそうに笑っているから、俺はそれ以上は聞かなかった。 冷蔵庫からカクテルの瓶を手に取りグラスに注ぐ。甘いピンク色の可愛らしいお酒。 キャンドルにも火を灯し、部屋のライトを少し落としたリビングはツリーこそ無いけれど、クリスマスらしいロマンチックな気分にさせる。 「なあ貴之、クリスマスにさ、キャンドル灯した部屋で、男二人で過ごしてる俺らってどうよ。」 「アリでしょ。俺は嬉しいけどね。」 本音だ。俺にとったらこれ以上のクリスマスなんてない。 好きな人と一緒に過ごせるのだから。 「……お前、顔がいいんだから、その気になれば、こんなおじさんと過ごさなくても良くなるのに……」 「俺にそんなこと言いますけど、あんただってこの前、クライアントの営業さんに誘われてたじゃん。」   この人は自分に自信がないのか、疑り深い性格のせいか色々なチャンスふいにしている。 「別に、あの子に興味ないし。俺の事はいいんだよ。それよりお前だよ。」 いつもそうだ。俺に早く彼女を作れと言いながら、瞳は不安そうに揺れて辛そうな表情で俺を見つめる。 全く言葉と噛み合っていないその態度をこの人は自分で気付いていない。 もしかしたら、郁也さんも俺の事を…って思ったのは何年も前の事。 いい加減、この切ない感情も終わりにしたかった。 そろそろ、いいかもしれない…… 聖夜と呼ばれる今夜ならもしかしたら…… 「郁也さんと知り合って、会社立ち上げて10年。俺は毎日が楽しいよ。」 「そうだね、俺も楽しいよ。」 「あんたがいるから、俺は別に彼女とかいらないし。」 「それとこれとは話が別だろう。」 「別じゃないよ。郁也さんがいれば、一生彼女や奥さんとかいらないんだって。」 目を見開いて驚きの表情のまま言葉を探している郁也さんに俺は追撃を仕掛けた。 「俺達の関係に新しい名前をつけてみませんか?」 「……せっ……先輩と後輩じゃダメなのかよ。」 いつもは辛辣に切り返してくるのに、ありきたりすぎる返事しか返ってこなかった。 まさか、こういう展開になるとは思っていなかったのだろう、逃げ場を与えずジリジリ追い詰める。 「ダメですね。」 「……じゃ、共同経営者ってのもある…けど。」 「それだけじゃ満足出来ない。俺は欲張りなんで。」 はあーと深いため息をついた郁也さんはグラスに残っていた酒を飲み干した。 「いまさら、この関係を変えろって言われても……どうすりゃいいんだよ……」 「仕事も、私生活でも俺が……最上級のパートナーじゃなきゃ満足できない。」 俺は郁也さんの瞳を見つめたまま顔を近づけその唇にキスをした。 「バカ……おまっ……」 固まったまま動けない郁也さんの耳元でささやく。 「こういう事が出来る関係になりたい。ダメ?」 観念したのか真っ赤な顔を両手で覆い彼は「バカじゃねーの?」とか「しね!」とか悪態をつきながらも結局最後は小さく頷いてくれた。 「ん……はぁ……」 しっとりとした、柔らかい唇。       角度を変え何度も啄みながら、一瞬、開いた唇の端から舌をすべりこませて口内を激しく貪る。 徐々に深くなる息も出来ない位の激しい口付けは、官能的で身体中を甘く痺れさせていく。   「んっ、ふ、ぁ…」   洩れる吐息の色っぽさにクラクラしながら、俺は体の奥から沸きだす欲情を抑えることに必死だった。 そんな気持ちを察したのか、 郁也さんの手が下の方に伸びていく。   「……郁也さん!?」 酒の勢いも手伝ってか大胆になっていく 郁也さんに戸惑いながらも、彼の気持ちが嬉しかった。 「…あぁ、 貴之…こんなに…さわってもいい?」   「さわってくれるの?」   キスだけでこんなに感じてしまっているのが恥ずかしかったが、同じように俺を欲している郁也さんが可愛いくて、色っぽいから堪らない。 すべりこんできた郁也さんの手は初めこそ ぎこちなかったものの、形をかえる俺のソレに気を良くしたのか徐々に大胆になっていく。   ヤバい…俺ばかり…… 郁也さんにも感じてもらいたい。 俺は郁也さんのズボンと下着に手をかけると一気に剥ぎ取り、彼の前に膝間付きソレを口に含んだ。   「ち、ちょっと!?何して…」 「郁也さんにも気持ち良くなってもらいたいから。」   熱い舌でねっとりと舐め回すと郁也さんの腰が揺らぎはじめる。 切なそうなその動きに愛おしさが溢れだす。 「ひゃ、っ、んぁ、だめっ…」 頭が真っ白で、快感の波をやり過ごす事に必死なのか、 郁也さんが思ってもみないような甲高い声で喘いでいるから俺はわざと低い声で意地悪に聞いてみた。 「何が?…ダメなの」 「そんなにしたらぁ…あっ」   乱れる郁也さんがエロ過ぎて、そろそろ俺も限界が近かった。 そのまま張り詰めたモノを2つ纏めて手で扱く。 「やっ…すごい擦れて…あぁ、貴之、ねぇ、もぅ、我慢できない…」   「俺も…」 「あっああ…イイ…気持ちイイよ…イクぅぅっ…っ」   「 郁也っ…ああっぁ」   二人ほぼ同時に熱を放った。 「 郁也さん、いつから俺の事好きだった?」 「貴之の事なんか…好き…じゃ…ないし。」 本当にこの人のツンデレはこんな時でもブレないんだなと感心する。 「こんなイヤらしい事しちゃうのに?」 「なっ…そういうお前はいつからだよ。」 「俺?俺は10年前かな。」 「……そっか、長いよな。いつも貴之は俺の隣で笑ってくれているから、俺はそんな関係のままでもいいかなって思ってた。」 郁也さんと一緒にこれからもずっと笑い合いたいから、ちゃんとした名前をつけようお互いの気持ちに。 「それと俺は大学の時だよ。自分の気持ちに気付いたのは。いつのまにか、顔見知り程度だったお前が懐てきてさ、最初のうちは可愛いい後輩ぐらいの気持ちだったんだけどな……だから会社作るときにお前を誘ったんだ。」 知らなかった。そんなに前からだったなんて。 ずいぶんと時間かかっちゃったけど、これからは二人の関係が恋人って名前に変わる。 「ねぇ、 郁也、もう少しキスしたい。いいでしょ?」 クリスマスの夜はまだこれから。 二人でもっともっと濃厚なキスを絡めて甘いハチミツみたいにとろけてしまおうか。

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