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第22話 思い出作り
「大分回復してきたね。遅くとも春には学校に復帰できるよ。」
診察室、レントゲンで撮影された画像を指差しながら主治医は俺にそう告げた。
モノクロの画面には治りかけのひびが写っている。
骨折がくっつくまでには部位にもよるが平均して4~6週間、完全に癒合するには2,3ヶ月かかるらしい。
「あの、退院したら俺はどうなりますか?」
祖父母は既に他界しているし、親戚とも禄に顔を合わせたこともない。
一人暮らしするにしても金銭面に生活設計、やることは山積みだ。
アルバイトだって探す必要があるだろうし、そうなれば定時制への転校も考えなければいけないだろうか。
「今後については、また児童相談所の方と相談になるけど、高校生の一人暮らしは経済的にも安全的にもお勧めしないよ。神崎君だって反対するだろうしね。」
「神崎先生が?」
「彼にとって、凪君はもう放っておけない存在なんだよ。
君はまだ子供だ。こういう時ぐらい大人に任せておきなさい。」
(…早く大人になりたてえな)
今はまだ一人では生きられないこと、それはこの入院生活で痛いほど実感しているはずだ。
自分の幼さがもどかしくてたまらない。
「お前、自分の写真は撮らないのか?」
診察が終わって、数日前にプレゼントとして貰ったカメラで撮った写真を神崎先生と一緒に眺める。
空や鳥、部屋の外から見える景色に院内学級の子供達。カメラを構えるといつもの景色がより鮮明に見える気がして、つい夢中になってしまい枚数はトータルで100枚ぐらいあった。
元々、性に合っていたのか先生は俺の趣向をよく理解していると思う。
「あんまり、自撮りとかしたことなくて。」
教室の端で女子のグループが加工アプリを使って自撮りしているのは見たことがあるが、俺は映えるような顔じゃないから撮っても別に面白くもないのだが。
「最初の一枚、一緒に撮るか。」
デジカメを内側のモードに切り替えて小さな画面に二人分の顔が入る。
黒一色のボディに付いているボタンを押すとぼやけていたピントが合った。
「表情硬いぞ。もっと笑えよ。」
意識的に口角を上げようとすれば逆にそれが仇になってしまう。
表情筋が硬いのは先生と触れ合っているせいもあるだろう。
(…こう、近くで見ると結構かっこいいな)
邪な思考を振りほどくように画面に集中する。
ファインダーが降り、カシャっと心地良い音が鳴った。
「今度、印刷しといてやるよ。これだけあればアルバムも作れそうだな。」
主治医の言葉が本当なら先生にとって俺は『特別』になれるのだろうか。
満足そうに写真を見る彼の横顔。
この先のことはまだ分からない。
だけど、今までの人生の分まで思い出が出来る気がする。
俺はそう確かめるようカメラを軽く握りしめた。
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