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最終話 これからもずっと*
※夕視点です
「いれよ?」
そう言ったあと、俺はすぐにシャツを脱いでポイっと布団の外に丸めて放った。下は脱いだままだ。素っ裸になったのは久しぶりだった。
ハルはぎょっとしつつも俺の体を上から下までちゃっかり見ていた。俺の体の上をハルの視線が滑っていくのがわかった。俺は裸を見られるのがあまり好きではなかったけど、今はその視線に体が火照る。ハルの変態っぽいところが移ったのかもしれない。
「ハルも脱いで」
自分だけ脱いでいるのが嫌で、ハルの服をまくる。あんまり鍛えてなさそうなお腹がチラッと見えた。
「えぇ..」
ハルは困ったようにもじもじしているので俺はまどろっこしくなり、「はいバンザイ」と言いながら子供の着替えを手伝うように強引に長袖のシャツを脱がせた。
「ちょっとぉ!」
ハルは寒そうに両腕を抱える。ハルの抗議を無視して俺はズボンも脱がそうと引っ張った。だけど、ハルは脱がされないよう咄嗟にガードしてズボンの引っ張り合いになった。ただでさえゆるゆるだったズボンのウェストゴムがさらに数センチ伸びてしまった気がする。
「どうしたの?」
俺は脱がすのを諦めて下から顔を覗き込むようにハルに迫った。
「え、う、いや、本当に?するの?」
「うん」
と言って、ハルにぎゅうと抱きついた。肌と肌が触れ合う。久しぶりのハルの素肌が気持ち良い。ハルの干した布団みたいな匂いと温かさに思わずため息が出る。
「早くしようよ。寒くなってきた」
俺はハルに抱きついたままわざと耳元で囁く。ハルはピクッと体を震わせて、やっと俺のことを抱き返してくれた。汗で冷えた体がじんわり温まっていくのを感じる。
この感覚がすごく好きだ。ハルの陽射しに体が氷解していくような感じ。自分が液体になって気化していくような感じ。俺は上昇気流に乗っかるようにハルにキスをした。ハルも受け入れてくれた。唇を啄んで、舌を絡め合って息を交わし合った。こういうキスをするのは久しぶりだった。
「ハル。すき」
俺が吐息に乗せて呟くとハルの抱きしめる力が強くなった。俺の呼吸はだんだん浅くなる。息継ぎができなくて苦しいのか抱き締められて苦しいのか分からなくなってきた。だけど、その苦しさも興奮に置き換えられていくような感覚がした。
ハルはなんだか泣きそうな顔をしていた。眉がへの字に下がって瞳が潤んでいる。でも悲しそうではなかった。瞳が熱を孕んでいる。この熱を俺はもう一度浴びたいと思っていたのだ。
ハルは唇を重ねたまま押し倒して覆い被さってきた。ハルの柔らかい重みが心地よい。ふかふかの掛け布団みたいだった。
ハルは唇から首筋に滑るようなキスをする。ハルは血の流れを辿るようにキスをするのが好きだった。俺もそれは嫌いじゃなかった。
「あっ、」
一度イッてしまったせいか体が過敏に反応する。首の辺りは特に弱くて、ハルはそれを面白がっていつも執拗に責めてくる。少し触れられるだけで全身が泡立ってしまう。肌の感触を確かめるようにハルの掌が腰や腹や腿とあらゆる場所を撫でた。
ハルの柔らかな唇と温かい指先が触れるたびに、触れられた箇所が熱を帯びて溶け出してしまいそうになった。自分の体がチョコレートにでもなったみたいだ。でも、ハルになら頭からバリバリ食べられてもいい。溶かされて液体になってハルに混ざってしまえればいいのに。
「ハル、いれていいよ」
さっきからハルの硬くなった所がお腹に当たる。ズボンを着たままでもはっきりとわかった。俺は密かにホッとした。
「うん、でももうちょっと色々させて」
と言いながらハルは鎖骨や腕や胸に手や唇を這わせ続けた。
「なんで?」
今こんなに丁寧にしなくていいのに。早く繋がってしまいたい。
「だってもったいないじゃん…」
「何が?」
「すぐ終わらせたくないもん…」
「でも、早くしないと萎えない?」
俺はハルの股間を服の上からふわふわと触った。
「もう!今日、触りすぎ」
やんわりと手をどかされる。
「確認してるだけ」
と言うとハルは困ったように笑った。
「大丈夫だよ。多分、なんか、今日はできそう」
再びキスをしながらハルは俺を抱きしめてくれた。
「無理はしなくていいからね」
俺も抱きしめ返すようにハルの後頭部の柔らかな髪を優しく触った。出会った時は綺麗なミルクティー色だったハルの髪は、今は濃く淹れたストレートティーのような色になっている。
俺と付き合うようになって、ハルは髪を脱色する事をやめた。着飾る事が好きだったようなのに、新しい服や靴を最低限しか買っていない事も知っている。節約をしているようだった。
交友関係も広いはずなのにハルはほとんど俺と一緒にいる。友達と出かけてくる、なんてこと、付き合ってから数えるくらいしかなかった。
その生活の端々からハルが俺と、そして2人の暮らしを大事にしているのがよく分かった。俺のことをこんなに愛してくれる他人を俺はハル以外に知らない。どうしてハルみたいな人が自分を好きなのか分からない。分からないけれど、ただただ好きだという想いは常に伝わっていた。
俺は返せているだろうか?
俺もすきだよって伝わっているだろうか?
ハルのこと大事に思ってるって伝わっているのか?
俺はこの数ヵ月そのことをずっと考えていた気がする。
ハルが報われないのは嫌だった。
「あっ」
ハルが胸の先を舌先で転がすように舐めてくる。ビリっと甘い刺激が走る。
「ここ感じる?」
「え、えっ、うーん…」
ハルはすぐに気持ち良い?とか感じてる?とか聞いてくる。前まではそういうことを聞かれるのが嫌で無視するか怒るか適当にあしらっていた。
でも今は自分に素直になってみたい。ハルの与える感覚に正直でいたいと思った。だってそっちの方がハルが喜ぶ。ハルが喜ぶと俺も嬉しい。自分もハルも気持ちがいい。セックスって多分そういうことだ。
「うん、感じる。昔より。気持ちいい…」
と率直な感想を伝えると
「そっか」
とハルが返した。
「そっかー」
と再度しみじみと言う。
「な、なに!?」
俺は何かおかしな事を言ったのかと慌てる。自分はいつも真面目に考えてものを言っているつもりだけど、時折、ハルの…というより世間一般の感覚からしたらズレた事を言っているようでたまにハルに笑われたり驚かれたりする。
「ううん、夕がそんなこと言えるなんて…って思って」
ハルはわざとらしく顔を覆っておどけた仕草をした。
「ちゃんとそういうこと、言おうと思って…」
「なんで?」
なんで!?そんなこと聞かれると思わなくて慌てる。
「な、なんで?盛り上がる?から…?」
「ふ、ふふ!ウケる」
ハルがおかしそうに笑ったので俺は若干ムッとしたが、ここで怒ったらさらに揶揄われると思い、なんとか抑えた。
「真面目にして?」
代わりにハルの両頬を両手でむにっと挟んでじっと見つめて言った。ハルが息をのんだ。ような気がした。
「なんか夕じゃないみたい」
「ハルだって、まだなんかよそよそしいよ。いつもみたいにしてよ」
「いつもどうしてたっけ。久しぶりだと忘れちゃうね」
「いつも、こんなかんじだった」
俺はハルの後頭部を掴むと強引に引き寄せて、唇を奪った。舌で侵入して、ハルの吐く息を吸った。受け止めきれなかったハルの唾液が口の端から零れるまで俺からキスをし続けた。
俺のことをまた欲しがってほしい。全てをハルに奪われたい。うざったいくらいに求められたい。そう思いながら、キスをした。
さっきとは逆に今度はハルが唇を貪るように吸ってくる。俺たちの息の音とリップ音だけが部屋の中に響く。その音に耳を犯されているような気持になった。遠くでバイクが去る音が聞こえた。
「んん、あっ、ふあ、」
ハルはキスをしながら胸の先を優しくつねったり、指のはらで擦る。性感帯としては機能していなかったそこは、今は違うらしい。後ろで快感を得ようと夜な夜な練習していたついでに自分でも触っていたせいかもしれない。
「きもちいい、ハル、あっ」
気持ちよくて胸を反らせるとハルは再びそこをやさしく吸って舐る。
「あっ」
ハルの唇は肋骨の方に移動した。一本一本ちゅっと音を立てながら丁寧に口づけていく。やがて一番下まで到達すると今度は臍のあたりにキスをした。くすぐったかったけれど、ハルが楽しそうだったのでそのままにした。そして俺の横隔膜を枕にでもするかのように、ハルは耳と頬をくっつけた。ありもしない胎動を聞いているようだった。
「ぜんぶ、欲しい」
「夕の骨も内臓も」
「食べたいくらい好き」
ハルが怖い事をぽつりぽつりと言うから笑ってしまった。
「…猟奇的…」
昔からハルを怖いと思うことがあった。自分のことを性的に求めるハルの視線や息遣いが少し怖いなと思う事が時々あった。ハルに限らず自分が性欲対象になっている事が気持ち悪かった。
でも今は、ハルが可愛い。俺を求めるその視線や息遣いや掌の熱さにゾクゾクする。
これが他人だったらそんな感情湧かないだろう。セックスの痛みや辛さが軽減しても、快感を少しだけ覚えても、俺はセックス自体の嫌悪感は消えていない。気色悪い行為だなと今この時も思う。気持ち良いと気持ち悪い、相反する感情が同時に起こる。
ただハルなら許せる。気持ち悪さも飲み込める。ハルの本能なら受け止めたいと今は思う。
セックスは情けなくてどうしようもない、そんな姿を曝け出す行為だし、そんなところを愛せるか試す行為なのかもしれない。
ハルとなら。
ハルだから。
全てにおいてこれ以上の理由がない。セックスだろうとそうじゃなかろうと。
「俺もね。ハルに食べられたい。ハルの一部になれたらいいのにっていつも思ってる」
ハルの血液とか骨になって温かくて心地良い音のする心臓のそばにいたい。いさせてください。とずっと思っている。人間は面倒なのでやめてしまいたい時がある。ハルの一部になってただ在ることができたらいいのに。と。
「あっ」
ハルは臍の辺りから舌を下腹部に這わせて俺のものに口付けた。俺はハルに色々されて再び硬くなってしまっていた。
「ま、待って」
ハルはそのまま扱こうと手を動かしたが、俺は慌ててハルの手を押さえる。
「だめ?」
ハルが子供みたいな甘えた声を出す。
「だめ。いかせないで…」
俺はハルの手をやんわりと離させた。そのままハルの掌をぎゅっと握る。ハルの掌はいつも温かくて厚くて柔らかい。よく家事をする時にいい匂いのハンドクリームを塗っている。リップクリームもよく塗っている。自分もリップクリームやらハンドクリームやらをもらったことがあるのに、つける習慣があまりなくてどこかに失くしてしまったことをふと思い出した。自分の唇は乾燥してないだろうか。と変なことが気になって急に恥ずかしくなった。
「いれて」
俺は恥ずかしさを紛らわせるように言うと
「ほんとうにいい?」
と優しく聞かれた。その優しい声音に俺は恍惚としてしまう。今、世界で一番ハルに優しくしてもらっているのは俺なんだ、という気持ちになる。
「うん」
と頷くとハルはやっとコンドームをつけようとした。
「ねぇ、俺がつけてあげる」
俺はハルからコンドームの小袋を奪うと中身を出した。
「これも練習したし…」
と言ってハル自身にスムーズに被せる。裏表逆にすることもなくするりと付けた。
「こんな事まで練習してたの?」
「うん」
いよいよ恥ずかしくなってしまい早く頷いた。ハルは黙っている。
「嬉しくない?」
ハルの反応は思ったより薄かった。ちらっと顔を見たらぽかんとしている。もう少し演技でいいから喜んで欲しい。でもハルは俺に同じことを何度も思わされた事だろう。ハルに今までしてきた事がただ俺に返ってきているだけだ。でも頑張ると決めたのだから頑張りたい。
「他にして欲しいことあったら言って」
俺は少し食い気味に聞いた。少しでもハルの気を引きたくて、喜んで欲しくて。
「夕どうしたの?なんか取り憑かれた?」
ハルは喜ぶどころか心底不思議という顔をしていた。なんなら怖がってるまである。
「は?別にハルのためだけじゃないよ。俺がしたいからしてるだけ」
少しムッとして雑な言い方になってしまった。
「………」
「今まで全部ハルに丸投げだったなあと思って。2人ですることなのにごめんね」
そう言うと、ハルの瞳が潤んで揺れた気がした。ハルの柔らかな両頬を両手で挟む。
「そんな無理しなくていいよ?」
ハルも同じように俺の頬を挟み込んできた。
「無理じゃないよ。俺がしたいからしてるだけだってば」
むにゅむにゅと二人でお互いの頬をいじっていたら笑ってしまった。
「ハル。来て」
俺はごろんと転がると膝を立ててハルを誘った。
「……気分悪くなったらすぐに言ってね」
ハルは俺の腿を掴むと、体を半分に畳むようにぐいっと脚を上げた。いつも俺に対して柔らかい力の入れ方しかしないハルが、この時だけは強い力を使うからいつも怖いと思ってしまっていた。
今はなんだかドキッとしてしまう。恐怖心より興奮してドキドキしてしまう。けれど、先端をそっと当てられるとやはり少し緊張した。
「痛そうでもいれて。やめないで。俺もう我慢してないよ。してほしいから言ってる」
俺は脚を押さえつけるハルの二の腕に触れた。硬くて力が入っているのが分かる。
「……わかった」
「あっ、ん…ぐっ」
ハルがゆっくり侵入してくるのが分かった。内臓が押し潰されるような圧迫感と結合部に発生する熱。昔よりだいぶ楽になったが決して気持ち良いとまで思えなくて俺の喉からうめき声が漏れる。
「大丈夫?」
ハルは一旦止めると心配そうに聞いてきた。
「苦しい…熱い…けど、大丈夫だから、もっときて」
俺は脚をハルの背中に絡めてハルが逃げられないようにした。だんだんハルの息が荒くなってくる。その声音が心地よい。
「入った……」
とハルは呆然としたように呟いた。俺はホッとした。とりあえず具合が悪くなる事はなさそうだ。ハルはしばらく俺の中でじっとしていた。俺の様子を見ているようだった。
なんだか変な感じだ。ハルの一部が俺の中に入ってる。繋がっている。合体している。結合している。セックスって変だな、と改めて思う。なぜ相手の体に自分の一部を挿し込みたいと思うのか。
「…動かして平気そ?」
「大丈夫」
と言うと、ハルは俺にのしかかってゆっくり腰を動かした。俺はハルの背中に腕を回す。
「あ、あ、あ!」
腹の中を殴られているような衝撃だった。気持ち良いからではなくて衝撃で勝手に声が漏れる。快感より遥かに圧迫感が強い。お腹が苦しい。体を折られてるのも相まってあまり体が柔らかい方ではない俺は疲労から再び汗が滲み出てきた。
セックスというより運動をしているようだった。まあ、セックスも運動なのだろうけど。
「はぁー、はっ、」
俺が息切れしているのを見かねたのか、ハルは一旦体内から自分のものを抜いてしまった。
「どうしたの…?」
ハルのおでこを触ったらハルも汗をかいていた。
「ごめん…後ろからしていい?そっちのが早くイケると思う」
「……いいよ」
俺は既に重たくなっている体をなんとか反転させて腹ばいになった。
「後ろがすきなの?」
「うん。背中とか見てるのすき」
そう言ってハルは俺の背中を下から上に撫でつけた。ぞくっと快感のようなものが走る。
「ハルのしたいことしていいよ。今までしたかったことして?」
「そんなの、一回じゃ足りないよ」
ハルは慣れた手つきで俺の腰を掴んで上げさせた。一度、ハルを受け入れたそこはさっきよりスムーズに受け入れられている感触がした。再びハルはゆっくりと抽送しながらぽつぽつ喋り始めた。
「だって俺…夕と一緒に暮らしたら毎日エッチな事できるとか思って舞い上がってたし。台所でもしたかったし、玄関とかお風呂とかトイレとかでやっちゃったりしてさ。拘束プレイとか目隠しプレイとか夕としたい事いっぱいあったんだもん」
俺はハルの妄想を背後で聞きながらハルが与えてくる刺激に耐えた。
「多すぎ…マニアックすぎ…」
と呟くとハルは仕返しのつもりなのか速度と強さを上げて腰を打ち付けてきた。
「んっ、あ!」
ハルが俺の背中に甘えるようにしがみつく。なんだか子供をおんぶしているような気持ちになった。
「じゃ、また、しよ」
俺は遊園地や動物園から帰る事を惜しむ子供にまた来ようね。と宥めるようなニュアンスで言った。
「またしていいの?」
「うん……」
と答えたがハルからの返答がなかった。後ろに首を曲げるとハルはぽろぽろ泣いていた。
「え、泣いてる!?」
「だって、夕とずっと…ずっとしたかったんだもん…」
と鼻声になりながらぐすぐすハルは答える。その顔を見て俺はどうしようもなくハルが可愛いと思ってしまった。可愛い人だ。ハルは可愛い。ハルが好きだ。
「待たせて、ごめんね」
ハルの頭を撫でてあげたいけれど、この体勢だとそうもいかなかった。
「俺もごめん、急かしてごめん」
ハルは涙を拭きとるように俺の背中にごしごしと顔を押し付けてきた。
「ううん、待っててくれてありがと」
「俺のが、俺の方がありがとう」
ハルの掌が俺の手の甲を包む。耳元でハルの息が聞こえる。その息はとても熱かった。俺はハルを五感で感じながらハルのぶつけくる衝撃に耐えていた。ハルが何かを言っているが何を言っているのかよく理解できなくなっていた。
「んっ、はぁ、夕、俺いきそ…いっていい?」
「いいよ、おいで」
ハルが自分の中でイク時の顔が見たい。と思って首を後ろに捻じ曲げてみた。キスをねだっていると勘違いされたのかハルに唇を塞がれた。ハルの顔はどアップすぎて見れなかった。そのままハルはイッてしまったようだった。
ハルの荒い呼吸を聞きながら明日は筋肉痛だなあとぼんやり思った。
寒い……。と思って夕大は布団の中でもぞもぞ蠢いた。陽也にくっついて暖を取ろう半分寝ぼけながら寝返りを打ったが陽也の温かい体は一向に見つからなかった。おかしいと思い目を開ける。寝起きの頭が徐々に覚醒してくる。目覚めたのは陽也の布団の中だったが、陽也は既にいないった。
ぼうっとしながらスマートフォンを見ると時刻は既に昼近かった。陽也からは朝と昼は適当にやってねとメッセージが入っていた。
陽也がバタバタと出ていった形跡がそこかしらにある。脱皮のように脱いだであろう部屋着や、蓋が空いたままの整髪料やデオドラント。コーヒーのカップと何かが乗っていたであろう皿が空のままテーブルに置かれていた。陽也も寝坊をしたらしい。陽也の朝は早かったのに悪いことをしたなと思う。
自分は今日はインターンの仕事も大学もないが、寝過ぎた。陽也がバタバタ支度していた事にも気づかないほど爆睡していたらしい。
「……」
洗濯機でも回して掃除機でもかけるかと夕大は布団を抜け出す。昨夜は変な体勢をしたせいで首と腰と腿が僅かに痛い。
その痛みで昨夜のことを思い出して顔を赤くした。
やっと陽也と繋がれた。
今陽也は何を思っているだろう。幸せな気持ちでいてくれているだろうか。
終わった後に話した会話を思い出す。自分はもうクタクタで、今にも眠ってしまいそうにうとうとしていた。
「ねぇ、夕、明日もしたい」
と陽也は甘えた声で言ってきた。
「明日も!?」
その時、夕大は陽也の腕の中で夢の中へ落ちかけてたが急に引き戻された。
「だめ?」
「明日は、だめ…またインターン行かなきゃだし…そんな連続でできない…」
そもそも今したばかりなのに次のことなど考えられない。夕大としてはお腹いっぱい食べた後に次のご飯の献立を考えさせられるようなことだった。
「せっかくできるようになったのに!?」
やっぱり陽也の性欲は強いのだなと改めて思った。前のような不快感はない。ただただ可愛いなと思う。やっぱり求められないより求められた方が嬉しい。だからもう少し陽也に寄り添ってあげたいと思えるようになった。
「あと1週間で終わるからちょっと待ってて」
と頭を撫でてあげた。陽也は、やや不満そうにむうっとしている。
「いいじゃん。あと何十年も一緒にいるんだから」
好きなだけできるでしょ?と付け足して夕大は陽也の首元に頭を擦り付けた。
「……」
陽也は驚いたような顔をして固まってしまった。
「いないの?」
反応がないので夕大は意地悪く微笑んで、陽也を上目遣いで見上げた。
「いるーー!!」
と叫ぶと陽也は夕大に抱きついた。ふふっと笑うと今度こそ夕大は陽也の胸の中で寝てしまった。やっぱりここが1番落ち着くな、と思いながら。
おわり
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