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短編
前世の記憶を思い出したのは偶然でした。
ただ転んで頭を打った。
それだけ。
頭が揺らされ、膨大な記憶が頭の中に溢れ返り━…愕然とした。
この淫魔と人間が住む世界がおかしいだなんて今の今までなんとも思っていなかった。
小学生で手淫口淫の実技と性教育の基本を学び。
中学生でセックスの実技。
高校生で淫魔とパートナー契約を結ぶ。
そう。
つまり私にもパートナーである淫魔がいる。
というより彼のハーレムに私が入っているというべきであろう。
何故なら私以外にも彼には複数の相手が存在しているのだから。
彼は世界中を飛び回っており、なかなか日本に帰って来ない。
淫魔は人間との性行為でエネルギーを摂取する為、生きる糧である人間を複数キープする事もあるのは分かる。そしてそれは淫魔の力が強い者程多くのエネルギーを必要とする事も。
理解は出来ても前の私はその事にコンプレックスを抱いていたらしい。
周りの同僚達は日本にいる淫魔に毎日のように体を求められるだとかセックスが激しくて今日は休ませて貰いたいだとか淫魔との性活についての話題を日常的に話していて。
自分のパートナー契約した淫魔は帰って来ず、勿論性活も無し。
たまに帰って来ても他のパートナーと致してまた外国へ飛び立っていく。
やきもきして何度も連絡を取ろうと接触しようと試みてうっとおしがられて…悲しみに暮れていたその時、階段を踏み外したのだ。
「… … …あれ?むしろ良いのでは?」
淫魔を相手にした体の関係ありきのこのご時世に男や女とセックスをしなくて良いのだ。
周りは幸せだとか毎晩愛されて愛されて…とノロケているが、前世の私にとってはむしろ毎日セックスが無い今の方が普通であり、とても気楽な生活だと思った。
…枯れている?趣味に生きているので問題無しですね。
ハーレム契約をした上級淫魔の会社で働いているが、給料は高いしハーレム契約者限定の高級マンションにもただで住める。
なんて素晴らしい日々なのだろう。
私は家でゴロゴロしているのが好きなのである。
オフトゥン(布団)につつまってゴロゴロしながらゲームしてネットサーフィンして漫画を読んでぐうたらするのが大好きなのである。大事な事なので二回言いました。
「今日からゴロゴロし放題…ふふ…♪」
まだ前世の記憶が戻ったばかりなので私の顔や体はやつれているようだが、仕事が終われば直帰してゴロゴロ、休みの日は1日のんびりゴロゴロ生活をしていれば直るだろう。
私は今から夢にまで見た最高の生活に心を躍らせていた。
『皆、仕事は捗っているな?』
記憶が戻る前の私が執着していた淫魔の声が聞こえる。
ハーレム契約をしているパートナーが丁度帰って来ていたらしい。
会社にいた彼のパートナーである何人かが周りに集まりキスをねだっているのが視界の端に見えた。
私はそんな事をしたくないので打った頭を冷やしながらデスクワークをして気付きませんアピール。
彼は私の事は見向きもせず取り巻きの中の一人の肩を抱いて階段を上がっていった。…ふぅ、やれやれ。
『サキさん行かなくて良かったんですか?』
同僚…だけど種族が淫魔のハルが話し掛けて来た。
「え?」
『いつも我先にヤトさんに挨拶しに行くのに、今日は行かないから』
前の私はパートナーであるヤトが大好きだったらしいのだ。
小中とペアを組んで彼の一番は自分だと豪語していた位に……今の私にはちょっと恥ずかしい黒歴史だ。
今の私にとって彼の事はどうでも良いのだが、それがバレるとなんだか面倒な事になりそう。…勘である。
「いえ、頭が痛くて…今朝階段で転んで頭を打ってしまったので」
『え!?一大事じゃないですか!?頭は怖いんですから、病院に行って検査を受けてきた方が良いですよ!!』
「今日仕事が終わったらそうしますね」
『いや、今行きましょう』
「待って下さい、ほら、ちょっとたんこぶ出来ただけですから」
『でも』
心配してくれるのは有難いのだが、大事にはされたくない。面倒臭いので。
「心配してくれて有難う御座います」
私が微笑むと、何故か彼は赤面した。
『あ、い、いえ……でも、何か異変があったらすぐ病院ですからね!』
「はい、そうします」
彼も淫魔なのだからパートナーが当然いるはず。
むしろいないと淫魔はポテンシャルをフルに発揮出来ない。
それなのに他所の私なんかに赤面してて良いのかしら?と思ったが、まぁ彼は淫魔だしふとした瞬間にムラムラする事もあるのかなと気にしない事にした。
~~~~~
仕事が終わり、ようやく家に帰れるー!と喜んでいた時、ハルが飲みに誘って来た。
人付き合いは面倒臭いなぁと思いつつ、お酒は嫌いじゃないので了承する。
『ほ、本当に良いんですかっ!?』
「え?」
『あ、いや、良いんですもんね!良いからうんって言ってくれたんですもんね!』
「はぁ」
何を一人で騒いでいるのか分からないけども、楽しそうで何より。
『会社から近いので安心して下さい!』
「うん?どうも?」
別に危機は感じていないのでそんな必死にアピールしなくても良いのに。
この世界のお酒をじっくり味わう為に行くのだ。
そしてちらっと趣味の話さえ聞いてくれればそれで良い。
『こっちです!』
ハルに案内されるがまま着いていくと、会社から数分もしない内に飲み屋に辿り着いた。
照明が程好く、落ち着いた雰囲気のお店。
ハルがカウンターかテーブル、どちらが良いか聞いてきたので迷わずテーブルを選ぶ。
カウンターはリラックスするには店員との距離が近すぎるので。
『何飲みます?』
「カルーアミルクをお願いします」
『サキさんらしいようならしくないような…』
「そうですか?」
以前の私であれば高くて見た目の美しいカクテルを頼んでいただろうが、今の私は自分の好きなものを頼むのだ。
くぴくぴと届いた物を飲んでいるとハルが心なしか緊張気味に話し掛けて来た。
『サキさんって普段何されてますか?』
「普段……」
この体の以前の普段だろうか。
それだったら美貌磨きオンリーな訳だが、前世の記憶を思い出したのだから今の自分の事で良いはず。
「趣味であればゴロゴロする事でしょうか。
あとゲームとかネットサーフィンとか…」
『趣味が合いそうです!
僕もゲームとかネットサーフィンとか好きですよ!』
ふむむ、それならゲーム友達として歓迎出来るかな?
「ゲームと言っても色々ジャンルがありますからね~…RPGは基本ですし、アクションやシミュレーションや育成、アイテム収集系、パズル…他にも色々ありますけど何が好きです?」
『そうですね、僕も大体は一通りかじってますけど有名所は必ずやってますね。
マイナー系は物によりますけど…』
「私、モンスターを狩るゲームとか時間忘れてやっちゃいます。
他にも……」
『うわ、サキさんと同じゲーム僕もやってますよ!
今度一緒に遊びません?!』
話を進めるとこの世界、意外にも元の世界とゲームがほぼ一緒だという事が判明。
違うのは種族で、淫魔が主な世界である為、エッチな描写が包み隠されず、しかもゲームによっては食欲ならぬ性欲メーターなるものが追加されていたりする事だ。
ムラムラし過ぎるとバッドステータスとなって攻撃力は五倍に跳ね上がるが素早さと賢さは最低値、防御も半減、魔法は使用不可、更にプレイヤーの指示を受け付けない暴走状態で、モンスターには攻撃するが人間が側にいると誰彼構わず襲い掛かってしまう…といった感じだ。
オンラインRPGには必ずあるんだそうな…。なんだか大変そうだ。
「良いですね、今度遊びます?」
『是非是非!』
そこからハルとはゲームの話で盛り上がり、今度の休日にゲームで遊んでみようという話になった。
ゲーム友達ゲットだぜ!
~~~~~
仕事終わりにはハルと二人で飲み、休日にはゴロゴロゲーム三昧(時々ハルとゲーム)を満喫して一週間経った頃、またヤトが会社に帰って来た。
相変わらずの人気ぶりですこと…。
今の私としてはそのままそっちだけで楽しんで頂きたい。
今のゴロゴロライフを手放したくないので。
あ、今夜ヤトに選ばれて付いていくパートナーが私の方を見てニヤリと笑った。
あらら、もしかして優越感を抱いているのかしら。
今の私にとってはむしろもっとやれ!としか思わないんですけどね。
ニッコリと笑って応援したら、拍子抜けしたような顔をされてしまった。…そこは喜ぶ所じゃないだろうか。
『サキさん、サキさん。
つかぬことを伺いますが、長いことヤトさんと性活してないですよね…?』
「はぁ、まぁ」
休日にゲームをして少し仲良くなったハルが意を決したようにごくりと唾を飲み込んだ。
『サキさん…もし、ヤトさんとパートナー契約解消するのなら。
僕とパートナー契約を結んでくれませんか』
………あちゃあ。
そういえばハル、私に気があったんでしたっけ。
私の部屋で(会社から近いからという理由で呼んだ)二人きりで遊んでる最中、ふとした時に赤面していたんですよね…。
淫魔だからそういう事もあるよねーって軽く考えてましたよ、私のおバカ。
『僕、サキさんが会社に入って来た時からずっと気になってたんです。
でもサキさんはヤトさんの事好きだったから、諦めてたんです。
だけど最近のサキさんヤトさんの事を話さなくなってから生き生きし始めて…ますます綺麗になっていくし、この気持ちを抑えきれなくなって』
「…私が記憶を思い出してから告白が早すぎませんか」
『え?』
「いえなんでも」
前々から好きだったのかーそうかー…。
本当にこれどうしましょう。
『勿論すぐにとは言いません。考えて頂ければ1ヶ月でも一年でも。
僕は待ちますから』
困った。
私にはそんな趣味はないのだ。
だから今の何もない生活が気に入っているというのに、ハルがまさか私の事を好きだなんて。
ゲームで遊ぶのは楽しいのですが…友達とセックスはしたくない。
かといって淫魔相手にバッサリ断るのも外聞が悪い。聞かれていなくてもね。
「……分かり、ました。しばらく考えさせて下さい」
とりあえず返事は保留。
この世界では貴重なゲーム友達をすぐに失う事もない…ですよね?
ハルの性格なら断っても付き合ってくれそうではあるが…セックスする気もないのに今までと変わらず友達でいてねとかゲームで遊ぼうねなんて生殺しも良いところ過ぎる。
ゴロゴロライフが満喫出来なさそうなのでハルが限界になる前には断ろうと思う。
~~~~~
『サキ』
次の日、会社で色々用を済ませた(性欲とか仕事とかね)パートナー、ヤトが珍しく私を呼ぶ声がした。
面倒だと思いつつも呼ばれたなら行かねばとヤトの側に近寄った。
「はい?」
『お前、最近俺の所に来ないな?他に好きなヤツでも出来たか』
「好きなヤツ…?」
私はぼんやりと私を好きだと言ってくれた彼、ハルを思い出す。
私は好きという感情は前世を思い出した瞬間に無くなってしまったので首を捻った。
「…いないですねぇ…」
『そうか』
「もう良いでしょうか?」
そういうどうでも良い事なら呼ばないでくれと頭の中で舌を出しながら戻ろうとすると、腕をがしりと捕まれてしまった。
『サキ。雰囲気変わったな。次のセックスは久しぶりにお前の相手をしてやっても良いぞ』
「はぁ」
正直面倒臭いなと私は内心で嫌な顔をした。
そういうのは他のパートナーに言って欲しい。
『…喜ばないのか?』
「喜んで欲しかったのですか?」
こっちは発言撤回してくれないかなと密かに期待しているというのに。
待っていても撤回はされなかった。残念だ…。
『…本当に変わったなお前。何があった?』
「いえ。なんでもないですよ。それよりパートナーの方が待っていますので早く行ってあげれば宜しいかと」
くいっ、くいっとヤトの腕を引く美女。
外国に着いていく秘書兼パートナーの一人だ。
ヤトが会社に勤め出した最初の頃は以前の私も外国に着いていっていたなと思い出す。
今の私的にはゴロゴロライフが短くなるのでごめん被りたい所である。
『………来週、忘れるな』
ヤトはしばらく私を見透かそうとするかのような目で見て…やがて踵を返してパートナーの元へ歩いて行った。
「……ああ、やだなぁ…」
しばらくの間次が選ばれませんように、飛行機が台風の影響でしばらくこちらに飛びませんようにと私はお祈りした。
もし今度出る新作のRPGの発売日と被っていたらセックスを拒否して買いに行ってしまうかもしれません。
淫魔へのセックス拒否はこの世界では重罪なので、犯罪者にはなりたくないのですが。
「無理ぃ…ですかねぇ…?」
テレビのお天気ニュースでは台風が近い…という望んだ一報の欠片すら無く、一週間分の天気は晴れ一色だった。
~~~~~
『サキ。来い。』
ああ。とうとうこの日が来てしまいました。
気を紛らわせる為についついゲームを買いすぎてしまいましたが、前の私の金遣いの荒さには程遠いので金銭面は無事です。
時間が欲しい…ああ、切実に…。
そう思っている時こそ過ぎるのが早い皮肉…。
それにしても記憶を思い出す前の私の時からしばらく体の関係が無かったというのにどういう風の吹き回しなんでしょう。
ヤトはノロノロと動き出す私の元にイライラしたように早足で歩いて来て腕を掴み、ぐいぐいと引っ張るように階段を上がって行く。
「ヤト、痛いです」
『お前がタラタラしてるからだろうが』
当たり前です。
前の私なら無い尻尾を振ってヤトに着いていったでしょうけどね。
淫魔とのセックスは疲れるのですよ…。
まぁエネルギーを食べられてるので疲れない訳が無いんですけど。
ヤトのセックス部屋(高位の淫魔には会社にセックスする為の個室が用意されている)に着くと、チンタラと脱がれるのを防ぐ為か、ヤトが私にキスをしながら慣れた手付きであっという間に下の服を剥いで床にくしゃりと落とした。
強制的に興奮させる淫魔の唾液を飲み込まされ、濡れた尻に指を突っ込まれてしまえばもう後はヤトのペースに流されてしまう。
「あぁっ…ん…♡♡♡」
ヤトの指は私の体を熱く昂らせ、濡らし、ヤトの体へと夢中にさせていく。
目の端でヤトのソレがグッと勃ち上がったのを見て、歓喜か怯えか…ぶるりと体が震えた。
『…反応が違う。やはり男が出来たか』
「……しばらくぶり、ですから…」
しばらくというか今の私ははじめてと言っても過言ではない。
前の私の記憶の中にあるセックスしか知らないので、反応なんて同じはずがないのだ。
『ほぅ?ここ最近のお前の様子を探偵に調べさせた。
セックスはしていないらしいが、同僚のハルを部屋にあげたり飲みに行ったりしているらしいな?』
ええわざわざ調べたの?面倒臭いなぁ…。
私はため息を吐きながら首を傾けた。
「それで?パートナー契約解消します?」
セックス三昧は面倒だけどだらだら生活を続ける為に次のパートナー契約…ハルと結ぶ事も可能なのだ。
むしろハルなら私の趣味を知っている上にこちらを尊重してくれそうなのでパートナー契約、願ったり叶ったりかもしれません…。
『しない。』
「?じゃあどうするんです?」
『もうアイツと飲みに行くな。誘われてもついていくな。当然部屋にもあげるなよ。良いな?』
「はぁ。良いですけど」
そう口にするとヤトは目を丸くして私をまじまじと見つめた。
『…なんだ、いやに素直だな…もっと抵抗するものかと思っていた』
「だって彼の事は同僚という目線でしか見てませんので」
『…チッ。早まったか』
嫉妬した?
この人が?
前の私であれば大喜びしてキスや激しいセックスをおねだりしていただろう。
今の私はセックスさっさと終われとしか思わなかった。
あと、ハルとゲームで遊んだり飲みに行けなくなったのは少し残念に思う。オンラインで遊ぶくらいは可能でしょうか?
『続き、ヤるぞ』
「はい、どうぞ」
『……くそ。お前、本当に性格変わったな…!』
悔しそうにしながらもどこか楽しそうな雰囲気に素っ気なくしてはいけなかったかと反省する。
でも媚を売るような気力なんてないので、どのみち遅かれ早かれ興味を引かれてこうなっていたのかもしれない。
「んっ…!♡♡♡」
ヤトが勃起したペニスを、すっかり解された私のソコへ一気に突き入れた。
「ひゃあッ!!?♡♡♡♡」
うう…っ!!
い、淫魔とのセックスって…こんな気持ち良いの…?
まるでヤトのペニスと私の体が一体化したみたいに馴染み、ペニスがドクンドクンと脈打つと快感が血液に乗って中から全身に回っていくようです…!
『まるではじめてセックスしたかのような反応だな、サキ…?』
「んああっ!!♡♡♡♡」
くっ、と少し腰を動かされただけでもビリビリッ♡と快楽が走る。
これがリアル?記憶の中と大違い…ッ!
「や、ヤト…て、手加げ、んッひゃう!!♡♡♡♡」
手加減してとお願いしようとしたのに、ぐんっと急激な突き上げを食らい、まともに喋れない…!
「ん!♡♡♡あ、ぁんっ!!♡♡♡♡」
あ、あれ?
「ひゃっ…あ、あぁんっ!!♡♡♡♡あっ、あっ、あっ…ぁん、ぁあっん!!♡♡♡♡」
ちょ、ちょっと…!
前の私の記憶の中にある頃より動きが激しくなってませんか…?!
「や、や、やとぉぉ…っっ!!♡♡♡♡♡」
『ッッ…!』
ヤトのから沢山熱いのが私の中に雪崩れ込み、私はビクビクと絶頂の余韻に━━…
「ひゃあああっ!!?♡♡♡♡んひゃっ、イっ、あっ、またイっちゃう…ッ!♡♡♡♡」
『イかせようとしてんだよ』
「ひゃん!♡♡♡♡ひゃうっ、ん!!♡♡♡♡とめっ……ッッ~~~~!!♡♡♡♡♡」
余韻なんか感じさせてくれませんでした…!
ヤトの腰付きはどんどん激しさを増していきます。
止めて欲しいとヤトのシャツを強く握って皺を作ってもお構い無しと言うように。
「やと、はげしっ、や、ゃあんっ!!♡♡♡♡
イっ、ちゃ……ッッ~~~!!♡♡♡♡♡ッぅ~~~ッッ!!♡♡♡♡♡♡」
『…やっぱり……どこか違うな』
ヤトは私の反応を確かめるように連続でイかせて来ました。
強すぎる快感に私は息も絶え絶えになりながら上にのし掛かるヤトのシャツにしがみついていましたが…強烈な突き上げ食らい、一瞬意識が遠退いた。
『……ハッキリ言って、今のお前は最高だ』
ヤトが何かを呟いていたようだが、その後も怒涛のように押し寄せる快楽にあっさりと記憶の彼方へと消えていった。
~~~~~
『一週間後。
次もお前を指名だ。溜めておくから朝までヤる。良いな?』
「う…、は、い……」
私は意識を朦朧とさせながらなんとか頷いた。
私の返事に満足したのか、シャワーを浴びに行ったようだ。
本当にどんな風の吹き回しなのやら…。
溜めておくって事は世界中に作ってあるパートナーともセックスしないと宣言したも同然。
今日だけでもかなりキツかったんですけど。
私の中奥深くまで詰め込まれた精液が未だにトロトロと私のお尻から出てるんですけど、これで溜めて無いってほんとですか?死んじゃいます。
私は来週体を整えておかないと次の日1日中はまともに起き上がれないなと今からゲンナリとした。
~~~~~
「はー……」
だるい体を押しながらセックス部屋を出て階段を降りる。
ヤトは私より先に会社を出て今頃は空港に向かっているだろう。
今日は流石に仕事は出来ないし、淫魔とセックスした翌朝は回復休暇を貰えるので素直に家に帰って寝ようと思う。
中にはもっと金を稼ぐぞーって次の日も働く人もいるけど(前の私はむしろ元気だった)…今の私は無理です。
『ヤトさん、指名したんだ』
ハルが私に声を掛けて来た。
なんだかソワソワとして居心地が悪そうだ。
「指名されちゃいました」
『…あの。…その、また好きに…なってたりは…』
「んー…しませんねぇ…」
ハルがほっと安心した気配を見せる。
むしろ好きのままの方が良かったかしら?と悩む。
だって今の私ってばウブっぽい好青年(淫魔なのでウブでは無いと思いますが、見た目とか性格が…)を誑かしキープしつつハーレム持ちの旦那とセックスしてるようなものなんですもの。
このままでは私、悪女ならぬ悪男なのでは…?
『あ、あの。それじゃあ今夜また飲みに…』
「ごめんなさい。ヤトから他所の男と飲みに行くのはダメだって言われてしまったんです。しかも遊ぶのも禁止されてしまって…」
『え、あ、そ、そうです、か…』
ああ、しょんぼりさせてしまった…。申し訳ない。
だけど約束を守らないとヤトが何するか分からないんですよね。
なんか怖かったですし。
下手したらハルさん物理的にクビを切られたり…は、さすがにこの世界でもそこの感覚は同じなのでしないですよねぇ…?
「まぁ仕事場では普通に会話出来ますしね」
『あ!それもそうですね!一緒の職場で良かったです』
嬉しそうなハルはまるで犬みたいです。
でもちょっと可哀想な気もするので一週間後の夜のセックスの時、飲みに行って良いかヤトにお願いしてみましょう。
それにしても前の私はどうして近くにいるこの好青年に気づかなかったのでしょう。
この好青年に乗り換えておけば豪遊は出来ずとも幸せだったんじゃないかと思いますよ。
…私はぐうたらしたいのでなるべく性活はない方が嬉しいです。
~~~~~
『サキ』
その名前は俺を惹き付けてやまない男の名前だ。
サキは女顔負けの美しい容姿をしているが、性格が苛烈だった。
小さい頃のアイツはふわふわとしてとても愛らしく、俺はすっかりサキに夢中になって毎日のようにサキに愛を囁いていた。
それが、いつからか俺に愛されている事を鼻にかけ、周りを見下すようになり、俺に近付く者を牽制し始めた。
事あるごとに俺に「ヤトは私を愛してるよね?」と迫り、だんだんと嫌気が差した俺は会社に勤め始めた時からサキからゆっくりと距離を置いていった。
焦るサキを周りの者は喜びながら陰湿に悪口で攻撃していたのも見てみぬフリをした。
そうすればいつかサキは自分を省みて反省し、性格が丸くなるのではと俺は期待したのだ。
見た目は俺の好みど真ん中をぶち抜いているのだ。
少し位の我が儘なら叶えてやりたいと思える程に好きだ。
だがサキは俺とパートナーである事を利用して好き勝手やり過ぎた。
だからお灸を据えて元のふわふわとしたサキに戻って欲しかった。
するとどうした事か。
ある日からサキが寄って来なくなった上に毎日怒涛のようにメールを送って来ていたというのにパッタリと連絡を寄越さなくなった。
何故なのか他の淫魔とパートナー契約でもしたのか。
探偵に依頼した所、ハルという淫魔と良く一緒にいるという情報が入ってきた。
やはり他の淫魔と…。
サキは俺に惚れ込んでいると思っていただけにその報告には多大なショックを受けた。
俺から先に距離を取っておきながら身勝手にも裏切られたような感覚を感じていた。
だが、サキは裏切ってなどいなかった。
体に他の淫魔との性の気配は感じなかったのだ。
しかも俺の『ハルに近付くな、親しくするな』という要求に対してあっさり頷いてみせた上に俺に気がある素振りも見せなかった。
それに…話し方や性格が変わった。
まるで憑き物が落ちたかのように穏やかなサキは俺にとってとてつもなく魅力的に見えた。
だからか、いつもより多く貪ってしまったのは仕方のない事だった。
久しぶりにセックスしたサキの体は豊潤で濃厚で…腹が膨れても食いたくなる魔性の香りをその美しい肢体に纏い続けていた。
そのせいか、サキを食らっていたいという欲望の赴くままに一週間の断食宣言してしまったが、悔いはない。
ただ次のセックスではサキを腹上死させないように理性を総動員しなければならないなと苦笑した。
今のサキは俺とのセックスをあまり喜ばしく思っていないのは察していたが、俺の体はいつまでもアイツを求めて疼いていた。
~~~~~
スマホのゲームでログインボーナスを受け取りながら出社する。
憂鬱すぎてゲームに現実逃避してないとやってられません。
だって今日は淫魔のヤトが一週間セックスせずに性欲を溜めているから。
下手したら抱き殺されそうで怖いです…。
キョロキョロと周りを見ながらまだヤトは来てないかな、なるべく遅く来てくれないかなと願ったのも束の間、後ろから抱き上げられてしまい、思わず短く悲鳴をあげてしまった。
『…行くぞ』
クラクラするような色香を全身から迸らせ、周りの社員を腰砕けにしながらセックス部屋へ続く階段を足早に昇っていく。
余裕が無いらしく、息が荒い。
この後どんな目に合わされるのか恐ろしい。
飢えた淫魔はまさしく野獣もかくやという有り様だ。
ヤトがセックス部屋の扉を足で乱暴に蹴り開ける。
そしてお互いに声を掛ける間も無く強く抱き締められたかと思うと激しく唇を貪られた。
服を剥がす事すら面倒だとずらされて露になったそこへ指が突っ込まれ、ぐちゅぐちゅと掻き回される。
淫魔がいる世界の人間の体は淫魔に都合が良いように尻であっても非常に濡れやすく、すんなりと広がる。
だから私の体もあっという間に解されてヤトの指を愛液濡れにしてヒクヒクと疼いていた。
「んッんぅッ…!!♡♡」
ドクドクと興奮しきった反り勃つ太いぺニスが私の体に押し付けられる。
慣らすのもそこそこにいきなり結腸まで挿入された。
「ッ…━!!!♡♡♡♡♡」
よっぽど溜めていたのだろう。
壁に背中を押し付けられ、激しく腰を尻に叩き付けられ、私は意識が飛んだ。
「~~……!!♡♡♡♡♡♡……」
最奥に強い快感が何度も何度も何度も入り込み、嵐の時の波のように激しく、それでいて甘い衝撃が体の中で渦巻く。
私はブツッ、ブツッ、と意識を朦朧とさせ、覚醒しては強すぎる快感に飛び、また強すぎる快感によって意識が戻されるというのを繰り返した。
貪られる。
搾り尽くされる。
なのに、体は歓喜に震えてドプドプ止めどなく注がれる快楽を飲み込んでいく。
やがて意識が飛ぶのが長くなってきた時…ようやくヤトが唇を離し、私の体を抱き寄せ止まった。
『…ッは、ッはぁ…♡♡♡はーっ…♡♡♡』
荒く興奮した息を吐き、未だ快感の余韻で体をビクビク震わせている私の顔や首にキスを落とす。
『…サキ…』
ヤトは何度も私の名前を呼んではキスをした。
まるで愛しいものを相手にするかのように。
いや、【まるで】では無く、勘違いでなければ本当に愛しいと思っている目を向けて来る。
…その目で見つめられたのは久々だ。
『こんなに夢中になったのは…はじめてお前を抱いた時以来だ』
小学生の頃の話である。
その頃の私はヤトが好きでヤトも私を好きだった。
だから性教育が始まって幾日も経たない小学一年生の頃にはすでに体の関係が始まっていた。
この世界では驚く事ではない。
男淫魔は生まれたその日に精通する。
だからもっと小さな頃から本能のままに体の関係を持った淫魔だっているのだ。
むしろ私達は遅い方であるとも言える。
『サキ…。俺はお前が好きだ』
「そう、ですか」
それなら何故前の私をもっと抱いてあげなかったのだろうと今の私はぼんやり思う。
お互い好き合っていたはずなのに、と。
ヤトは私の表情からそれを読み取ったのか、関わりのある疑問を口にした。
『性格がガラリと変わったのは何故だ?
俺は前のお前の性格が嫌いだった。淫魔である俺を自分一人に束縛したがるお前を煩わしく思い離れていた間にお前は突然俺に興味をなくした。
そんなお前に気付き、近付けば面倒臭そうな目を向けてきた。
…正直、俺はお前が絶対に離れていかないものだとお前が俺を好きでいるのが当たり前だと思っていた。子供の頃からペアを組んで中学まではお前とずっとセックスをしていた。
けれどそれを鼻に掛け、偉ぶるようになったお前を見て俺は落胆した。
高校に上がって俺がハーレムを持つという事にお前は反対し、周りを牽制するようになった。その頃からお前に対して煩わしさを感じ始めた。
だから社会人になり、距離を置いた。
所がだ。今のお前はなんだ?突然性格が変わった。煩わしさが無くなった。媚びるような目も甘ったるい声もない。
生き生きとしてただただ美しいお前がここにいる。お前は誰なんだ』
私はどう答えたものかと思案しようとして…寝落ちた。
そりゃそうである。
話が長い。意識を飛ばしまくるめちゃくちゃ激しいセックスの後に疲れて眠い時にそれを聞かされて寝ないのは無理でした。
くかーっと寝てしまった私をヤトがどんな顔をして見ていたのやら。
『………サキ…?サキ?おい…サキ…?!
お前はサキなのかそうでないのか!
ああくそ、気になる!!
…くっなんて呑気な顔で…それなのにこの顔…くそっ!俺をざわつかせる』
サキの不安も何もない美しい寝顔にヤトはしばらく隣で悶々していたそうな。
~~~~~
朝はまたヤトに抱かれて二度寝してもうすっかりお昼です。
仲良く二人で(強制的に連れられたとも言う)シャワーを浴びている(ヤトが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのですがちょっと怖いです)とヤトが話し掛けて来ました。
『サキ、昨日言った事だが』
「はい?なんでしょう」
意識が朦朧としていたので長い話をされたな、位しか覚えていないのですが。
『お前は、サキなのか?』
「サキですけど。疑ってるのなら昔の事を何か話しましょうか?」
『話してくれ』
そうですね、どれにしましょう。
あ、あれが良いです。
乗り気じゃない私を二度もセックス相手に指名したのでちょっとした仕返しです。
「ヤトがおねしょならぬ大量の夢精をした話にしましょうか。
あれは幼稚園卒業を間近に控えた時でしたね…」
『や、やめてくれ…悪かった、俺が疑ったのが悪かった!お前は間違いなくサキだ』
んもう、残念です。
確か私の事が好きで仕方なくて私といっぱいセックスした夢を見たらしいですね。
どれだけ沢山私と致したのかは分かりませんが、布団がびっちゃびちゃになって染み出す位夢精をして『ヤト君大丈夫…?』と皆に引かれ…いえ、心配されたっていう出来事でした。
ちなみに染み出し過ぎて周りの子の布団まで濡れちゃって集団夢精!?と幼稚園の先生に驚かれていましたのに。
『今の性格のサキは…とても俺好みだ』
「そうですか。
所でハルとまた飲みに行っても良いですか?
あとゲームもしたいのですが」
気持ちが緩んだのをみて隙あり!と仕掛けてみたのですが、ヤトは急激に渋い顔になってしまいました。
『何?それは駄目だ!』
「むー…なんでですか」
『当たり前だろう!?俺がいるのに他の淫魔に色目を使う気か!』
「色目ってなんですか?
ダメって言うならヤトが遊んでくれるんです?
セックスじゃなくてゲームで、ですからね?」
そう言うとヤトは眉間に皺を寄せてしばらく唸った後に低い声で『……分かった、代わりに遊んでやる』と言ってくれました。わーい、言質取りました!
「ふふふ、楽しみです」
『そんなに好きなのか?』
「好きですよ?実は家でゴロゴロしながらゲームやネットサーフィンするのが大好きなんです。とっても楽しいですよ!」
ついでに趣味もカミングアウトしてしまえとニコニコ微笑みながら喋ったらヤトは意外そうな顔をしていました。
前の私なら美貌を極めるのが趣味でしたからそんな顔するのも分かりますよ。
『…そうか、楽しいか』
「はい♡ヤトも今度の休日に遊びましょーね!」
『分かった。だが俺はゲームというのを良く知らない…サキ、教えてくれるか?』
まっ!あのヤトが私に教えてくれですって!
こんな日が来るとは思いませんでした。
心なしか前の私の無念が晴れていった気がします…いや前の私は自業自得な所もあったので気のせいかもですけど。
「ふふふ、ゲーム初心者のヤトにも優しいゲームを用意しておきますね!
私が沢山ゲームの楽しさを教えてあげます!」
『…ああ』
私がどのゲームにしようかとあれこれ悩んでいるのを見て、ヤトは眩しそうな目をしながら微笑んでいた。
【その後のお話や補足】
ヤトはアクションゲームとか反射神経を求められるゲームが得意だと判明し、すぐにサキと肩を並べる位に上手くなる。
それを見てぷりぷりしながらも楽しそうなサキを見てヤトは愛しさをさらに募らせます。
ヤトは後程ハーレム解消して一途になります。
受けの容姿は好きだが性格が嫌いだった為、他ばかり手を出していた。そして嫉妬深い。
元々サキの事は好きなので性格がのほほんとしたサキにどっぷりのめり込む模様。
ハルはヤトの変わりように失恋を悟ります。
後日サキはお断りの返事を返しますが、ハルは了承を返し、これからもゲーム友達でいて欲しいと口にする。
ヤトとは淫魔の格が違う為、対立せずにこれからも密かにサキを想うに留める模様。
ハルにも一応人間のパートナーはいる(淫魔なので不誠実と言うなかれ)。
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