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温度差【1】

喫茶店、ベーカリーカフェ、コンビニエンスストア、一般食堂と学生食堂。 頭の中で広大なキャンパスマップを広げ、錦をどこに連れて行こうかと思案する。 三年も在籍していれば味に店の雰囲気客層、どこが一番良い条件が揃っているのか自然と覚えてしまう。しかし、制服姿の生徒を連れていれば嫌でも目立つ。 おまけに見てくれが良いときた。 こうして連れて歩いているだけでも視線が鬱陶しい。 食事の為に席に着けば、鈍い所がある錦でも自分が注目されていることに気付くだろう。 落ち着いて飲食できるとは思えない。 海輝自身あまり利用しないが、学生の他に主に主婦の利用が多い一般食堂へ出向くことにした。 子連れの客もいるので、制服姿の錦を連れていても目立たないだろう。 海輝が口を閉ざしてしまえば、二人の間に会話は無くなる。 黙々と歩き続ければ、敷地内のはずれに赤く錆びたようなレンガ調の外壁が目印のオールドヨーロピアンスタイルの三階建ての建物に辿り着いた。 そこで海輝は首をかしげた。 何時もより客足が多い気がする。たしかに、一月前食堂がリニューアルオープンしたはずだが、それでもここまで客は多くなかった。解放された両開きの扉の前で待ち合わせをしている中年の女性たちは、普段見る事のない明らかに『よそ行き』の格好をした主婦たちだ。そんな彼女たちの横を、夫婦だろう中年の男女が一組扉をくぐる。二人とも明るい色合いのスーツを着ていた。わざわざ一般食堂にそんな服装で来る客は少ないのだが――スーツとまでいかなくとも――何故かかしこまった服装の利用客が多い。 錦を伴い開け放たれた扉に近付くと、普段は置いていないバナースタンドに『3階ホールにて日本画展示会開催中』と書かれていた。なるほど、彼らは芸術の世界で成功した一部の学院卒業生の作品を見に来ているのだ。 一階は売店と美術科の生徒の展示品があるだけで食堂は二階にある。三階は主に休息用のロビーとなっているが、時折展示会などのイベントで使用されているのだ。

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