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第14話

「…うん、…そう。じゃあ切るね」 小さいけれど誰かが喋る声がする。 寝返りを打とうとしても体は気怠くて、でもポカポカ暖かくて…しかも部屋の中はなにやらいい匂いがしていた。 「ん…」 真はベッドの上でうごうごと惰眠と戦いつつコロンと顔の向きを変えた。 その途端に動きを止めた。 「マコちゃん、おはよ。あ、もう昼はとっくに過ぎて午後だよ?一応軽食は勝手に用意したんだけど」 「…いや…何で翼がいるの?」 「忘れちゃった?それとも夢だと思ってる?」 「な…何の事…」 つい知らないふりをしたのだが、本当は知らない訳は無い。 ベッドに寝転んだままだがもちろんちゃーんと覚えている。 さっきまで、俺が寝落ちるまで言葉で言えないような衝撃的ないかがわしい事をしてたんだから。 「もうね、高校通わなくていいんだよ、俺」 「は?」 いやいや、三月いっぱいは高校生だろ? 「だからさ、新しい生活に早く馴染めるように今日からここに住んでいいかな?マコちゃん」 「…ぇええ!」 驚きのあまり声のボリュームが上がった。 「うちの親もミチコさんにも了解はとってあるからさ、いいよね?」 全然良くないに決まってる。 だってどう考えても健全に過ごせるはずがない。 それに学校生活を締め括るイベントだって、ある。 「だって…卒業式とか…」 「その日だけ学校行けばいいって宏美さんの許可もらってる」 「そ…空が寂しいんじゃ…」 「空だってもう子供じゃないよ?とっくに恋人いるし」 「…え?」 高校生の分際で恋人だと? …いや、今そんな事はどうでもいい。 「…でも、部屋を片付けたり…それから…えっと…そうだ!ベッド!姉ちゃん持ってっちゃったから買わないと…ひッ!」 突然翼がベッドに転がっている真に覆いかぶさった。 真の頭の真横に翼の逞しい腕が見える。 「…観念しなよマコちゃん。一緒に暮らすだけでしょ?」 にっこりと蕩けるような笑顔が逆に怖い。 だが真の胸の内には疑問符しかない。 『罠だ…!これは絶対に何かの罠!』 心の中では分かっていても何故か体は逆らえず… 同性でも惚れてしまうような微笑みに延髄反射で同意してしまった。 「ひゃ…ひゃい…」 真は操られているように軽率に肯定する言葉を吐いていた…。 「じゃあ、今日からよろしくね!マコちゃん」 翼との同居生活はどうなっていくのか…。 真の心は不安と…それから決して口には出せないがそれ以上の期待に満ちていたのだった…。

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