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第9話 「飲食スペース」のシャインマスカットアフタヌーンティー
さて、本日も快晴なり。労働・労働! うさたん大好きタイム! がんばるぞー!
綾人は心の中で何度も拳を叩き、自身を鼓舞する。
今日は平日でお客様は少ないほうだ。店内の至る所で、日本語以外の言語が聞こえてくる。外国人観光客のお客様たちだ。
昨今、日本のこのような小動物カフェは海外では珍しいらしく多くのお客様が足を運んでくれる。日本の小動物カフェは、衛生的で、飼育も行き届いていて小さな子供を連れていても安全だというクチコミが流行っているらしい。褒めてもらえるのは嬉しい。なんでも、当店は小動物カフェという看板を掲げているのだが、業界では珍しい「触れ合いスペース」と「飲食スペース」を分けて運営していることが成功の理由らしい。
基本的な猫カフェ、犬カフェ、小動物カフェでは、「カフェ」とは銘打ってるものの、ドリンクバー飲み放題がメインで人間の食べ物は基本的に提供されない。動物たちが人間の食べ物を誤食してしまうのを防ぐためだ。また、現在動物カフェは流行の1種となっていて、どこの店舗も競走が激しい。都内でペット可のビルの物件を借りるのはなかなかに難しいし、なによりマーケティングの規模感が掴みにくい。客足は流動的なもので、簡単に予測がつかないからだ。
動物たちの健康を守りつつ、人間も動物もストレスフリーで楽しめる小動物カフェ。それが、綾人の働いている小動物カフェだった。
建築の匠の技により、広々としたビルの一室をアクリル板で2つに分離。店内入口が柔らかな木目調の「飲食スペース」のカフェになっていて、奥が「触れ合いスペース」になっている。厳重に二重ロックの鍵で2つの部屋は分けられているので、小動物の脱走は未だにない。
また、近年のカフェ巡りブームにのりのりな我が店を経営する敏腕若手女社長が、「アフタヌーンティーを楽しめる小動物カフェ」と称して、ここのカフェのオーナーを三ツ星ホテルから引き抜いてきた。
そのオーナーはかなり腰の悪そうな老人なのだが、本場のヨーロッパで豊富な経験をしたということで、三ツ星ホテルのレストランでスイーツ部門の長を勤めていたらしい。
彼の作るアフタヌーンティーのコースは、季節の果物に合わせて変幻自在に楽しめると話題で、リピート客が後を絶たない。
綾人もカフェ巡りが趣味で、動物も好き……特にうさたんが。という理由でこの仕事に応募したところ、この小動物カフェでうさぎ担当として働くことができている。
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