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第25話 灯織のアイディアには猫愛は溢れている。

 おもち、綾人と暮らし始めてから、気づけば3ヶ月が経とうとしていた。  灯織は、猫リュックを背負って自然公園のベンチに座る。今日はずっとやってみたかったことをする日。子どものようにうずうずしてしまう。そんな灯織のことを、綾人がブルーみのあるサングラス越しに覗いている。まるで、綾人の目が弟を見るみたいな顔してるのを灯織は知らない。  灯織は紺色と白のチェック柄のレジャーシートを芝生の上に広げると、猫リュックを慎重に下ろしてジッパーを開けた。 「なー」  ぴょこん、と白いおててがリュックの中から飛び出してくる。おだんごみたいでおいしそう。一気にジャンプして、おもちがリュックの中から出てきた。慣れない感触のレジャーシートの上でバランスをとっている。おもちには猫用の白いハーネスを付けている。 「おもちー。ほら、お空だよ。水色で綺麗だねえ」  おもちは少しおずおずと辺りを見渡している。安全確認を怠らない。なんていい子なんだ! 灯織と同じく綾人もそう感心していると、灯織から綾人もレジャーシートに座るように促される。靴を脱いで座る。12月だから結構寒いんだけど、まあ天気はいいし、おもちは寒さに強いから大丈夫か。と判断したのは一昨日だったか。  灯織はおもちを膝に乗せて自撮りをしている。 『おもちとお散歩したい!』  と、灯織から申し出があったのだ。災害時に使う用の猫を入れられるリュックを指さして 『あのリュックの練習にもなるし、おもちも外で避難するときの訓練になるでしょ』  とても珍しく的を射る回答をした灯織を見て、綾人は心の中で安堵していた。おもちを保護して3ヶ月。着実に灯織のおもちへの愛情は強くなっているらしい。命を預かる者としての心構えができてきたことに感心した。 「ねー! いつものしてっ」  感慨深く浸っていると、灯織からいつもの指示を受ける。「了解ー」と呟いて、外カメで灯織とおもちをカメラに写す。おもちはもう何度もこういった撮影のモデルに慣れているため、灯織のお人形みたいに無理やりされるポーズを脱力して流している。素晴らしい猫だ。賢い子だ。  おもちにちゅーるを上げながら、るんるん気分の灯織。と、それを眺める綾人。灯織との会話の中心にはいつもおもちがいる。果たして、おもちがいなければ、俺は灯織と話せる話題やトークスキルを持っているのだろうか? と自問してしまう。  灯織は最近髪の毛を、ウルフの毛先は伸ばしたままに、全頭ブルージュにした。ブルーみの強い、透明感のある色らしい。派手髪にすると髪の毛が痛みがちだが、美容室や念入りなホームケアの結果、灯織の髪の毛はとゅるとゅるである。天使のわっかも見えるほどに。ここまで美意識が高いのは、素直に尊敬する。 「あ、そうか」  灯織の外見について、なんか似てるものがあったよなと、最近思っていたのだが、その正体がわかった。 「ん?」  灯織はきょとんとした顔でおもちの頭を撫でている。

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