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第1話
タイトル「千早が眼鏡を外す時」
あれから数日。いつものように部活の練習をして家に帰る通学路。分岐点で三人と別れて藤堂と二人きりになる。するととたんに気まずい雰囲気になるのは、あれから何も進展がないからだ。
暗くなった公園の茂みでキスをした、彼と。最初はどちらもガチガチで歯と歯が当たってしまったりして恥ずかしさ満点だったが、抱き合ってキスをしていると尻を揉まれて本気になった。だったらこっちだって、と。だからグイグイ行った。こっちからグイグイ舌を絡めて首根っこ掴む勢いでキスをした。
『んっ……んっ……ん』
『ぅぅぅ……んっ、んっ、ん』
『あなたが悪いんですからね』
『何がだよっ。好きって言ってきたのは、お前のほうだろ⁉』
『それはあなたが思っているのに言わないから、俺が言ってあげたんでしょ⁉』
『そ……れはそうだけどっ! だからってその言い方はないだろう!』
『俺は悪くありませんから』
『俺だって!』と言い合いになって淡いファーストキスは終わった。そして今現在まで何もない。
これは由々しきことであるっ。
「……」 さて、どうしましょうか……。
最初はあちらの意思を汲んでこちらから告白した。だから今度はあちらから行動して欲しいところだけれど……。どうやらそれはあんまり期待出来そうもない。だったらやっぱりこちらから仕掛けなくては先に進めないじゃないか。
「藤堂君」
「あ?」
「今からウチに来ませんか?」
「何で?」
「何でって……。その先を言わせるんですか?」
「…………ぁ」
「……」
「ぅ。おぅ……」
はい、了承。しっかり体を洗って、それからすることをする。要はしてからが問題とも言えるわけで。
〇
無事、自宅まで彼を連れ帰る。
「お邪魔します……」
「親は深夜にならないと帰らないと思うんで、大丈夫ですよ」
「あ、そうなの?」
「はい。でもまず風呂に入りましょう」
「ぇ、あ、二人で?」
「待つのは好きじゃありませんから」
「そういう意味ね」
「はい。そういう意味です」 でもそういう意味じゃないところもあるんですけどね。
汚い。練習した後の服はいくら制服になったからと言って汚れた体に着るわけだから汚いものは汚いのだ。だから洗面所で二人して裸になって風呂に入る。
「お湯張りボタンお願いします」
「おぅ」
「制服のシャツ洗っていいですか?」
「いいけど……」
「帰るまでには渇きますから」
「乾燥機付きか」
「はい」
だったらいい、と言う態度に裸のまま汚い靴下だけ軽く手洗いすると二人分の洗濯を洗濯機に放り込んで湯気が立ち込める浴室に脚を踏み入れる。彼はお湯張りをしながらシャワーで体を洗っていた。だからお湯の張りは遅い。でもそれでも三分の一くらいは溜まっているので、千早はそっちからお湯を汲むと体を洗い出した。
「お前はどっち派?」
「何がです?」
「髪から? 体から?」
「今日は体から、ですかね」
「あ? ああ、悪りぃ。俺がシャワー使ってるからか」
「いいんですよ。まずはあなたが洗ってください。俺はこっちで体洗いますので」
個々に体を洗っていると泡がないまぜになっていつの間にか互いの体を洗っていた。髪を洗って二人して湯舟に浸かる頃にはもうすっかりのぼせていて慌てて浴室を出た。バスタオルを腰に巻いて髪を乾かすと藤堂の手を取って自室に向かう。
パタンとドアを閉めると二人ともベッドを見つめる。手を握ったままの千早は彼とともにベッドへ歩いた。そして彼を腰かけさせると「さあ、しましょうか」と言わんばかりに眼鏡を外した。
「えっろっ……」
「何がです?」
「お前、意識してないかもだけど……。いや、何でもない」
「します?」
「ああ」
「出来るかな……」
「分かんね。何せ初めてだからな」
「お互いにね。AV観てるくせに」
「あれは観て楽しむもんだ。今からするのは、して楽しむもんだから別物。でも」
「でも?」
「お前なら女装とか似合いそうだなと思って」
「しませんよ」
「分かってる。今日はしない」
「何それ」
「今は出来るかどうかを確かめようぜ」
「……ですね」
話を聞きながら彼に抱き着くと唇を合わせる。
「んっ……んっ……ん」
「んっ……ぁ。ぅ……んっ」
キスをしながら絡み合いベッドの上に組み敷かれるまで、数十秒。脚を広げて股の間に彼が入り込んでくるまでには数秒。そして気が付くとバスタオルは二人ともしてなくて互いのモノをしごき合っていた。
「うっ……ぅ……んっ……ん……ぁ」
「熱いっ。それに臭いっ」
「馬鹿。そんなのお互い様だろ」
「っ……う……」
「でも。お前は何か……肉食ってよりも違う匂いがする」
「ふふふっ。俺はバランス良く食事をしているので、ちゃんと野菜や果物、水分の補給も」
「俺だって自炊だからな。そのくらいの心構えはっ……ぅ」
「分かってますよ。ただ……あなたの方が肉取る比率が多いんでしょうねっ……っ」
お互いに言い合いながらもしごくのを止めない。だから末尾が耐えられなくて声が跳ね上がってしまうのに譲れないものは譲れないのだ。最後に声にならない気持ち良さを飲み込んで互いの手の中に精を放つ。藤堂はその手の中の汁をそのまま千早の尻に持って行くと躊躇なく千早の中に差し入れてきた。
「うっ……ぅぅぅ……」
「ごめん。余裕なくて……。力、抜け。なるべく無理させたくないし」
「っ……ぅぅ……分かってますよ……。でも気持ちとは裏腹って言いましょうかね……。なかなかうまく……」いきません……。
言われるままに力を抜いているつもりでも緊張の方が上回っている。
異物が……彼の指が……中で蠢く……。
「ぅっ……ぅ……ぅ」
「増やすぞ」
「ぇっ……」
「これじゃ俺のは入んないからな」
「わっ……分かってますよ。余裕ですっ……ぅ」
一本が二本になり三本になる頃には体勢も変わっていて、千早はベッドの上で尻を突き上げるような形で天井を見ながら体を折っていた。自分のモノがすぐ近くにあるのに構ってなんていられない。
「さっ……三本はっ……ぁ……さすがにちょっと……ぅ……」
「やっぱ三本は根本まで入んないよな」
「うううっ……ぅ」
彼の指はゴツくて太くて千早がいくら力を抜いても、恥ずかしい恰好をしても、どうやってもキツイものがあった。
さっきしごき合った時も……うまく出来ないほどデカかった。それを今から受け入れるんだから。ちゃんと最後までしっかり受け入れて、気持ち良くさせて気持ち良くなるんだからっ……!
だからいちいち途中の段階のことを言っていられなかった。
一発抜いて、それからこれからの一発。
「こ……んなんでいいのかな……」
「大丈夫です。でもゼリー付きのゴムはしてくださいよ」
でないと潤滑油がないから不安なんです。とは言えなかったが、彼は自前のゴムを取り出すと千早の前にかざして見せた。
「いつか使うかと思って用意しておいた、マグナムボコ3L」
「ぇっ……?」 何その「ボコ」って……。
聞こうとしたけど不毛な気がして開いた口を閉じた。藤堂は千早の目の前でそれを勃起したモノにつけると高揚した顔をこちらに向けた。
「入れるぞ」
「ぇっ……ええ」 ボコってそういう意味の名前なんだ……。
彼のモノを凝視しながらちょっと引きつり笑う。イボ付きのモノを初回から持ってくるあたり恐ろしいなと思ったが、ここで「それはちょっと」と抵抗するのも嫌だったので、あえてそれに挑む。ソコにあてがわれて深呼吸をすると指とは違うモノが圧倒的な強さで入ってくる。
「うううっ……うっ!」
「悪りぃ。やっぱまだ拡張足りなかったかな」
「そうじゃなくて……っ……ぅ」 これ、絶対にイボでしょ!
「でももう入れちゃったから最後までいくぞ」
「ええっ……」
これには千早も同意見だった。
こんなの途中で止められたら泣くに泣けないじゃないですかっ! ちゃんと気持ち良くして気持ち良くなるんですからっ!
目尻から涙を流しながら彼を根本までちゃんと受け入れる。力を抜いて。もっとちゃんと味わって。
グイグイ来られる出し入れに身を躍らせて応える。彼に抱き着いてギュッとしがみ付いて彼を味わう。自分のモノが間で揺れているのに構うことも出来ずに射精する。中でほぼ同時に彼も果てて初めての行為は終わった。
「なんか……俺ばっか楽しんだ気がする」
「そうですか?」 そうでもないけど。
でも、あれよあれよと言う間に行為は終わっていて、もし「感想は?」と聞かれても気の利いた返事が出来るほど余裕はなかった。ズルリと彼が中から出ていって疲れから抱き合って眠る。そして次に目覚めたのは、玄関の鍵が開く音だった。
「あっ!」
「あっ!」
二人同時に叫んで、次には身支度を整えようとするのだが、あいにく服は洗濯機の中で。千早はどうにかなったが、藤堂はどうにもならず。平静を装った千早に洗濯機から衣類を持って来てもらい事なきを得た。
「あっぶねぇ……」
「今日は案外帰宅が早かったですね。どうにかなって良かったです」
「ほ……んと。お前の言葉信じられないな」
「こればかりはどうにもなりませんよ。いつもは深夜なんです」
時間は夜の九時を回っていた。深夜よりだいぶん早い時間だが、することは出来たので満足だ。
「俺、帰るわ」
「ですね」
「洗濯ありがとな。これでひとつ仕事が減った」
「いえ」
「……」
「もっと他に言うことないんですか?」
「お前はどうよ」
「……あっと言う間でよく分かりませんでした。またしないと、どうとも言えませんね」
「ぇ……あ、そういう?」
「ええ」
ニッコリと口元をあげた千早は目を細めて玄関先で手を振った。
「また」
「あ、ああ。またな」
「はい」
ドアを閉めてしばらくそこに立ち尽くす。
やってしまった……。さてこれからが問題ですね。
いつ「本当の好き」を口にしようか、言えばいいのか。それは相手の都合とか気持ちとかではなく、自分の気持ちをいつちゃんと相手に打つけようかと言うものだ。
「どうしましょうかね……」
言いながら眼鏡をグイッと上げようとして、してないのに気づく。
「ぁ」
眼鏡……するの忘れました。
高校になって初めて、誰かの前で眼鏡を外しているのに気づかなかった千早だった。
終わり
20240923・25
タイトル「千早が眼鏡を外す時」
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