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「坊ちゃま……!」
フィルは手に持っていた服をタンスに戻し、慌ててリースの寝室を出た。数メートルほど先、生尻をぷりぷりと振りながら駆け回るリースを発見して衝撃に目を見開く。
「わーい! はだかんぼだーい!」
きゃっきゃとはしゃぎながら曲がり角を曲がる直前、銀色のワゴンを押すシモンが姿を現した。
ちょうどリースの部屋の食器を片付けに向かっているところだったのだろう。既のところで衝突は免れたものの、シモンは真っ裸のリースを見て驚きの声を上げる。
「わ、リ、リース様っ⁉」
「お待ちください坊ちゃま! 坊ちゃま!」
フィルはすかさずシモンのそばを通り抜け、リースを追いかけた。今は悠長に訳を説明している余裕はない。
曲がり角を曲がると、すでにリースの姿は見えなくなっていた。部屋数も多くだだっ広い館内で、追いかけっこ兼かくれんぼなんて冗談じゃない。
「坊ちゃま! どこにおられるのです、リース坊ちゃま!」
声を張り上げながら、フィルは館中を探して回る。ふと、目についた厨房の扉が半開きになっていることに気がついて、そちらへと足を向けた。
「坊ちゃま! 坊ちゃま、ここにおられるのですか!」
ざっと辺りを見回すが、それらしき人物の影はない。しかし、シモンに限って厨房の扉を開けっ放しにするなんてことはないはずだ。
――すでに別の場所へ移動したのか……?
思いつつも、そろりそろりと厨房の中を探索する。奥の調理台の足元へと視線を向けたとき、ぷりぷりと揺れる桃尻に気づいて目を眇めた。
……頭隠して尻隠さずとはよく言ったものだ。どうやらリースは、蹲って調理台の裏で息を潜めているらしい。
バレたらまた逃げられかねないと、フィルは足音を殺してそうっとお尻へと歩み寄る。あとほんの少しといったところで、唐突にリースがばっと身を起こした。
「ばぁーっ!」
頬の横で大きく手のひらを広げて驚かされて、フィルは思わず尻餅をつきかける。
「な、何……っ」
その隙に、リースはまたぱたぱたと厨房を走り去ってしまった。
――猪口才……っ!
「坊ちゃま! お待ちください坊ちゃま! そのような格好で走り回られては危険です! 今すぐ部屋にお戻りください!」
必死に訴えかけるフィルを無視して、リースはきゃっきゃと館内を駆け回る。二階の階段を登った先、リースの進行方向でウォーレンとクラウスが立ち話をしているのに気がついてフィルは目を瞠った。
「ウォーレン、坊ちゃまを捕まえてください! クラウスは今すぐ目を瞑って!」
呼びかけたフィルに、ウォーレンとクラウスが揃ってこちらを向く。裸で駆け寄ってくるリースの存在に気づいて、同時にぎょっと目を見開いた。
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