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扉を開けて
部屋に差し込む明るい陽の光を瞼に感じて、冬馬は目を覚ました。腕の中には、スースーと小さく寝息をたてる千景がいる。ぴったりと冬馬にくっついて眠る千景があまりに愛おしくて、額にキスをしたら千景を起こしてしまった。
「ん…冬馬さん……おはよう」
照れくさそうにはにかむ千景に見惚れる。
「おはよう、千景くん。お腹すいたね。何か準備するよ」
冬馬が作ったベーコンエッグとトーストで朝食にする。毎朝飲んでいるインスタントコーヒーが、2人で飲むとこんなに美味しくなることを冬馬は知った。
「千景くんは今日は夜勤だったよね」
「うん」
「いつでもうちにおいで。というか、来てほしい」
「またすぐ来ます。そうだ、今度、『マスカレード』にも一緒に行きましょうね。マスターとか誠にも心配かけたし」
「そうだね。みんな千景くんに会えたら喜ぶと思う。あーーまた仮面舞踏会で揺れる千景くんを見たいな」
冬馬は恍惚とした表情で宙を仰ぎながら言う。
「揺れる僕って、なんですか?」
「……なんでもないよ!ひとり言!」
千景は少し不満そうに顔をしかめたが、初めて見たその表情もやっぱり可愛いなと冬馬は思った。
「そろそろ寮に帰ります。夜勤の準備しなきゃ」
朝食がすみ、しばらく冬馬の横でのんびり過ごしていた千景が帰り支度を始める。
「うん。千景くん、また連絡するよ。お仕事頑張って」
千景の頬に軽くキスをする。
「夜勤が終わったら僕も連絡しますね!」
千景が元気よく玄関扉を開けた瞬間、初夏の爽やかな風に包まれ、澄んだ青空を背景にまばゆく光る千景の姿が、冬馬の目の前に浮かんだ。
「いってらっしゃい、千景くん!」
ー完ー
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