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偏愛《竜side》3

4月になり、俺は進級して高2になった。 JEESの人気は日に日に増していき、新曲が10万ダウンロードされた。 そのお祝いを兼ねて、バンドのメンバーに誘われてハルカさんの家で飲むことになった。 ハルカさんは:MAR RE TORRE(マリトル)のベーシストで、MY学園の数学教師の:哀沢(アイザワ)先生の弟。 だから数あるバンドの関係者の中でも、話をすることが多い。 「ハルカさん、飲んでますか?」 「飲んでるよ。お前は飲まねぇの?」 「飲まない飲まない。明日学校だし」 そう言って笑いながら空いてるグラスにお酒を注いだ。 「学校じゃなかったら飲んでんのかよ未成年」 「うん。嫌なこと忘れたいし」 みんなが音楽の話題で楽しんでいる途中で、父からの留守電の通知があることに気づいた。 父からの連絡の返信は絶対。 俺はバルコニーに出て、深呼吸をしてから父のメッセージを再生した。 『彼はもうすぐ死ぬそうじゃないか』 『よかった。竜が彼に依存していたら心配だったんだ』 『今僕は新薬の研究と開発でなかなか家に帰れなくてね、夏休みに帰るのは無理になった。冬休みに帰るのも難しいかもしれない。でも春休みは必ず愛し合おう』 『その頃には彼も亡くなっているだろうしね』 『愛してるよ、僕の竜』 そのメッセージを聞いて俺の心臓の速さが増し、呼吸が荒くなっているのが自分でも分かった。 『今日もメッセージ…ありがとうございます。』と文字を打ち終わるまでに1時間がかかった。 “彼”というのはひー兄のこと。 父はひー兄のことを名前で呼ばない。 悔しい。 なんでこんな人に俺は逆らえないんだろう。 あなたが研究段階の薬をひー兄に飲ませてたから あなたがひー兄に暴力を奮っていたから だからひー兄の体が弱くなったんじゃないの? 分かってる、分かってるのに。 怖くて、従うしか出来なくて、悔しい。 ひー兄がいなくなったら、その時は俺も―… 「竜、寒いだろ?もう1時…」 後ろから声をかけられ、振り返るとハルカさんがいた。 「ハルカさ…」 「お前っ…なに泣いてんだよ」 俺はそう言われ、慌てて涙を拭った。 やばい。 いつも考えないようにしてたのに。 「…もう帰らないとっ」 ハルカさんはこの場から逃げようとする俺の腕を掴んで、目を合わせて言った。 「どうした?なんかあったのか?言えよ」 「…ただの『嫌なこと』ですよ」 「『嫌なこと』ってなんだよ?」 「ハルカさんには関係ないですから」 目をそらして、この場から逃げたいのにハルカさんは腕を離さない。 もうこれ以上考えたくない。 今は感情が溢れてしまいそうだから。 「ほっとけねぇよ。お前のこと」 何を言えばいいの? ひー兄がもうすぐ亡くなるって言えばいい? でもみんな分かってくれない。 「最期まで思い出を作れ」とか 「最期まで笑顔でいてやれ」とか 「お兄さんの分まで生きろ」とか そんな他人事の回答しかしないでしょ? だからもう辞めたんだ。 誰かに相談するのは。 自分の悲しみや不安や寂しさを伝えるのは。 誰も俺の気持ちなんて分かってくれないんだから。 「放して…ハルカさんに言っても意味ないことだから。ハルカさんには関係ない」 俺は拭い切れていない涙をためた目でハルカさんを見た。 その顔が苛立っていることはすぐに分かった。 そのまま俺の手を引き無言で廊下へ出て、目の前にある寝室へと強引に連れ込む。 「俺には関係ない…か」 「なっ…」 部屋に入るなり俺をベットの上に押し倒して、馬乗りになって無理矢理キスをされた。 生暖かい舌がねじ込まれる。 「んっ…や…」 「なら竜、言わなくていい。そのかわりに今だけ『嫌なこと』忘れさせてやるよ」 「やっ…!ハルカさ…んっ」 俺はジタバタと抵抗するが、ハルカさんの力にかなわなかった。

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