14 / 14

3-5 恍惚

 幸いにも心光の不興はかわなかったようだ。彼は俺が抗う様子に満足げに笑うと、ゆっくりと俺の上に跨る。その姿はあまりにも扇情的に過ぎて、くらくらしそうだ。それでも「無理だ、お前の身体が、」と止めようとしたけれど、彼はこともなげに言った。 「心配はいりませんよ。慣れておりますから」 「……っ、そういうことでは、っ、あ、待て、待っ、ぅ、う!」  必死にもがく俺の腹に手を置いて、心光はゆっくりと腰を落としていく。敏感な先端が熱い肉に触れ、俺は思わず固く手を握り締めた。  同じ男であれば、受け入れる場所などひとつしかない。しかし俺を包み込むそこは、熱く濡れそぼり、柔らかく受け入れていく。こんなものは、知らない。とてつもない快感の波が襲い、俺はもっていかれないように耐えるので必死だ。  気持ちが良い。気持ちが良すぎる。本能的に突き上げ思う様揺さぶり、子種を注ぎたい衝動に駆られるのを、どうにか抑え込む。  それだけは、それだけはしてはならない。心光の思いのままになってはいけない。  そう思うのに、俺にはもうどうしようもないのだ。 「あぁ、ぁ、ぁあ……」 「……っ、心光、……っ」  心光はうっとりとした様子で俺を呑み込み、ついには根元まで咥え込んでしまった。熱いうねりに、理性が飛びそうだが、歯を食いしばり、心光の名を繰り返し呼ぶ。何とかして、彼が正気に戻ってはくれないだろうかと、そう考える。  しかし、俺の思いも虚しく、心光はゆっくりと身体を上へと移動させた。 「ぅぁ、っ、ぅ、ううぅ……っ」  それだけで出してしまいそうなほど気持ちがいいのに、また奥まで受け入れられてはどうしようもない。白い身体をうねらせて、心光が身を揺するのに任せるしか。  心光は白い頬を、肌を赤く染めて、歓喜の声を漏らす。 「あぁ、あぁ……。鬼の肉体とはかくも逞しく、熱く美味なものなのでしょうか……! はぁっ、あ、ぁ、蘇芳、蘇芳……っ」  名を呼び、恍惚の表情で上下する心光に、俺は眉を寄せて耐えることしかできない。  こんなこと、こんなことは許されない。許されないことなのに。心光と、こういう関係になりたかったわけではないのに。  どうにも。どうにも、抗いがたい。 「……っ、心光っ、心光、もう無理だっ、頼む、やめてくれっ、……だめだ……!」  襲いくる快感の波に、叫ぶように制止を求める。しかし、心光はそんな蘇芳の胸に手を触れ、口付けて囁く。 「わたくしに、あなたの、鬼の熱い精を施して下さいませ……! それこそは、わたくしの、血より甘美な糧となりましょう……!」  さぁ、この肉の奥に、解き放って下さいまし。  蠱惑的な誘いに、もう、どうしようもなかった。 「……っあ、あぁ……っ!」  びく、と身体が跳ねる。己の性器から、熱い欲望が迸るのを感じた。それはどうしようもなく気持ち良くて、何もかもがどうでよくなってしまいそうなほどの奔流だった。呻き、何度も小さく腰を打ちつけて、心光の最奥に精を植え付ける。  彼のほうもうっとりとした様子でそれを受け入れ、かたかたと何度か震えて達したようだった。そうだと思う。俺も俺の感覚に精いっぱいで、何が起こっているのかよくわからなくなっていた。

ともだちにシェアしよう!