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2024年1月
1月5日 約束 眩しいくらい 消える
1 眩しいくらいに輝いていた夏の日々。最後の日、いつか結婚しようと約束をしたけれど、いつの間にか消えて友情だけが残った。友人代表挨拶が俺って、どんな罰ゲームだよ。笑いを取れるように用意したカンペ代わりの自由帳。これで何があっても誤魔化せる。でもさ、なあ。俺はちゃんと笑えてる?
2 約束なんてするもんじゃない。特に子ども相手に。眩しいくらいの無邪気な笑顔はそりゃあ可愛かった。だけど、今じゃ可愛げは欠片もなく消え去り、色香漂う男の意味深な笑みに変貌を遂げた。「約束は守らないとね」年下相手にダメだと思うのに体が動かない。深く口付けられ、腹の奥がキュンと疼いた。
1月7日 花言葉 靴音 罪悪感
1 黄色のカーネーションの花言葉は「侮蔑」その意味を知った時、彼はどうするのだろうか。彼のベッドにその花束を置き、僕は高らかに靴音を響かせる。この街には二度と戻らない。そのことに罪悪感はこれっぽっちもない。だけど、なぜだろう。涙が溢れて止まらないんだ。
2 俺を庇って意識不明になった彼に罪悪感があった。だがら、毎日希望の花言葉のあるガーベラを持って病室に通う。ドアを開けると、驚きの光景に手に持っていた花束がぱさりと落ちた。駆ける靴音。飛び込んだ胸は力強く命を刻み、温かな腕が震える体を包み込んだ。
1月11日 映画 隣 熱帯魚
1 映画はよくわからなかった。ドキュメンタリーではない、抽象的なそれ。熱帯魚が水槽に入れられていて、それからずっとそのまま。理解はできなかったけれど、隣で微笑む彼は、俺は熱帯魚なのだと教えたかったらしい。酸欠して窒息するまで、きっと俺はこの水槽を泳ぎ続けるんだろう。彼に弄ばれながら。
2 映画館で偶然席が隣になっただけなのに、気付けばなぜかその人と一緒に遊ぶことになった。聞くことも話すことも上手な彼に惹かれたのは俺が惚れっぽいから?熱帯魚が優雅に舞うレストランはホテルの最上階。「綺麗だよ」それって、どれのこと?手の甲に触れた指先。伝わる熱で、俺の気持ちは筒抜けだ。
1月15日 それでも 壊れて 手を振る
1 手を振ると空虚な目で、無表情で、言葉を発することなく手を振りかえしてくれる。俺の行動が彼をそうさせた。彼が壊れてしまっても、それでも、彼を手放すことはできない。好きだから。だから一生、この部屋で安全に、二人で暮らすんだ。大丈夫。俺がずっと、守ってあげるからね。
2 海外転勤を断れなかった。俺が泣いたら彼は絶対に飛行機に乗り遅れてしまう。辛いけれど、それでも笑顔で手を振って見送った。俺たちの絆が壊れてしまわないように、連絡は小まめにすると約束した。その後、時差関係なく震える携帯に勘弁してくれと根を上げたのは俺だった。限度ってもんがあるだろ!
1月17日 タイムリミット サイレン 変態
1 頭の中でサイレンがけたたましく鳴り響く。「タイムリミットだよぉ」スチール階段をカンカンと軽快に昇ってきた変態は糸目をさらに細めた。期限を決めたのは俺。いや、「決めされられた」が正しい。口車に乗せられた過去の自分に舌打ちをする。歯噛みした俺に、奴は見せつけるように舌なめずりをした。
2 正午を知らせるサイレンが反響する。つまり約束したタイムリミットだ。扉が開き、ニマニマした彼氏(仮)が現れた。「お、我慢できてる」「このド変態!早く外せぇ!」「え?美味しそうに仕上がってるのに?」動けない俺に覆い被さる彼の瞳は激情を孕んでいて。「いただきます」俺はペロリと食べられた。
1月18日 ゆっくり キラキラ 髪
1 ぬばたまの髪が頬を撫でた。その後ろではシャンデリアがキラキラと煌めいて非日常を演出している。「逃げるなんて考えてないよねぇ?」ゆっくりと開かれた糸目。空色の瞳には情欲が灯り俺の体を隅々まで堪能する。絶海の孤島でどうやって逃げるというのだ。気色悪い視線に耐えきれず俺は顔を背けた。
2 彼は存在自体がキラキラしていて、すれ違うと良い匂いがした。靡く髪は絹みたいで、俺は「触ってみたいな」と呟いた。それがまさか聞かれていて、こんなことになるなんて。「触っていいよ?」図書室の奥。ゆっくりと近づく彼。触れたかったのは髪なのに、実際に触れたのは薄くて少し冷たい唇だった。
1月29日 気まぐれ 掠れる 約束
1 気まぐれに交わされた約束。それが守られることは終ぞなかった。親切に忠告したのに、君はそれを無視した。自業自得だね。涙は枕に吸い込まれ、泣きすぎて掠れた声を捉えたのは同室の俺だけ。「可哀想に」翼を手折られた雛は腕の中。大丈夫。また飛べるようになるよ。俺が作った鳥籠の中で、ね。
2 「ほら、行くぞ」週末になると気まぐれに連れ回されるドライブ。約束もしていないのに、彼は律儀に朝8時ぴったりに迎えに来る。「早ぇよ」寝起きで掠れた声で抗議すれば、寝過ぎだと笑われる。そんなことないとぼやきながら、澄み切った朝の風を顔に、温かいコーヒーをグイッと煽った。
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