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2024年3月

3月14日 海 鎖 痛い? 1 キイキイと悲鳴を上げる鎖は錆びついていた。生贄として海を目前にした岸壁に繋がれ、何日放置されんだろう。このまま無駄に朽ちていくのか。「これ、痛い?」無邪気な声が指したのは、はじめの数日で逃げ出そうと暴れた時にできた手首の傷。「僕が治してあげる」仄かな温もりの対価は、俺の魂だった。 2 海風が髪を巻き上げ、切先が目に入り思わず声が漏れた。「目、痛い?大丈夫?」顔を覗き込んできた幼馴染は、誰もが振り返る美丈夫。対する俺はちんくしゃで、彼と釣り合っていない。不意に唇に落ちた熱。「ファーストキス、もーらい」何が起こったのか認識した瞬間、心の鎖が音を立てて砕け散った。 3月22日 睨む おかしい 感覚 1 元々距離感がおかしい奴だと思っていた。今日もパーソナルスペースを越えてきた彼を睨む。対照的に微笑む姿は不気味で、押し除けようとしたら俺の体がふらついた。ぐにゃりと歪む視界。平衡感覚を失う体。「嬉しいねぇ。君から飛び込んできてくれるなんて」クスクスと笑う声だけが妙に耳に残った。 2 花よ蝶よと育てられた弊害で世間知らずな自覚はある。今日も頓珍漢なことを言って笑われた。おかしいと笑う彼を睨めば、ごめんと言いながらまた笑われた。不満だとわからせるのに頬を膨らませると、宥めるように頬を撫でられた。その感覚は、腹も立つし恥ずかしいけれど、中々悪くないものだ。

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