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愛はきき手に左右されない。
「人体の構造的欠陥 について話そう」
と教授は言った。
「きき手を空けて恋人と手をつなぐと、相手のきき手の自由を奪うことになる」
「片方が左ききなら問題ないすよ」
「なるほど、一理ある」
教授は短く鼻息を吹いた。
「しかしこの世界では右ききが多数派なのだよ。愛し合う二人が自由にきき手を使える確率より、どちらかが不自由を強 いられる確率のほうが高い」
教授はため息とともに椅子にもたれた。
「それに耐えるのが愛だと、多数派どもは言うのだ」
ほつれた前髪が額に落ちる。
この人の話はいつも小難 しくて哲学的だ。
そのくせ議題は妙に可愛 らしいから、オレはホコリと本まみれのこの部屋に来るのをやめられない。
だってつまり、『恋人とは手をつなぎたいけど、相手の邪魔をするのもされるのも嫌』って話だろ?
オレはクスッと笑った。
目線だけを上げた教授に片手を差し出す。
「オレ、左ききっすよ」
教授はクマの濃い目元をわずかに細めて微笑 んだ。
肘置 きに落ちていた手がゆるやかに持ち上がる。
「私もだ」
「だめじゃん」
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