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附章

「ところで千景兄さん」 「何でしょうか虎太郎クン」  まだ慣れない酒を一気に煽り、酩酊している玲於をカウチに寝かせたまま虎太郎はふと思い出したように声を出す。 「俺が入院した時があるじゃないですかあ」 「あーありましたねえ」  今日はその快気祝いも兼ねている。当然入院中も面会には行ったし、退院の時も挨拶に向かった。虎太郎の怪我が兄御影によるものだとしても、原因は自分にあると千景が譲らなかったからだ。 「あの少し後に何処ぞの悪魔ゴリラが手足の骨ばっきばきに折られた状態で見付かったとニュースのお姉さんが言ってたんですけどねえ」  それは虎太郎が入院した直後の事だった。手術が終わり病室で意識を取り戻した虎太郎の目と耳に飛び込んできた情報だった。まさかと思いつつも自責の念を抱く本人に直接聞くのも難しかった。今日というこの日ならば改めて聞けるのではないかと虎太郎は千景の横顔を見遣った。 「怖い世の中になったものですねえ」  全開の爽やかな笑顔だった。千景が酔うと機嫌が良くなるという事実を通り越した満面の笑顔だった。 「しかも神戸港で見付かったそうなんですよお」 「久しぶりにハーバーランド行きたいなあ」  神戸、と言えば千景が六年間住んでいた土地だ。馴染みはあるだろう。その土地で御影が発見されたというのを偶然で片付けるには強引ではないだろうか。 「……お前、ほんとに神戸で何やってた?」  正直、虎太郎は聞く事が怖くなった。それでも怖いもの見たさという言葉もある。自分の所為だと責任を感じているのならばもしかしてその一端を垣間見る事が出来るのではないか。  千景が空になったワイングラスを傾ける。その左手薬指にはシルバーリングが光っていた。 「指、綺麗に元通りになって良かったねえ。もし後遺症とかが残ってたら……生きてなかったかもな」 「…………ッ!!」  虎太郎はこれ以上その件について触れる事を諦めざるを得なかった。 完

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