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Ⅷ
――時は、再び遡り。
少年に案内されたその礼拝堂には先客がいた。
「こんな時間に子供たちだけで遊び回ったらダメだろう?」
少年にとっての「とっておき」の場所は少年だけのものではなく、先客に見咎められた少年は言葉を失い閉口した。
先客はその白く美しい肢体を惜しげもなく見せびらかし、薄いヴェール一枚を纏いぽかんと佇む冬榴の前に舞い降りる。
その姿はいつか絵本で見た天使のようだと冬榴は思った。
「お前、名前は?」
天使は手を伸ばし、まだ幼い冬榴の柔らかな頬に触れる。
「あっ、ふゆき……ざくろ、です……」
「――ああ、お前が冬木の」
その名前に聞き覚えがあった。まだ幼いながらもいずれは兄たちを越し御三家である冬木家の当主を継ぐだろう才に恵まれた若い芽。
直接会ったのは初めてだったが、冬榴はその姿を何度も写真で見て教えられていた。
「あの、しきみさまはどうしてここに……」
「パーティは苦手なんだよ」
春杜はそう言って笑った。
続
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