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第2話

 キングケーキパーティーは憂鬱。レイは、自分の家で行われるパーティーがたまらなく嫌だった。  年の初めの公現節に、アーモンドのパイを皆で食べる。パイには陶器の人形や1セント硬貨が入っていて、それが当たった人は、幸福やお金に恵まれるという迷信があった。  近所の子供たちを集めたキングケーキパーティーで、レイはいつも1セント硬貨を当てた。レイの母親がこっそりパイに細工をするのだ。定められた勝者であったレイは、パーティーが憂鬱で仕方がなかった。  十一歳のときのキングケーキパーティーで、レイは初めて1セント硬貨に当たらなかった。王様はシリルだった。陶器の人形と1セント硬貨を同時に当てたのだ。  紙でできた金の冠をかぶったシリルは、パーティーのメンバーから王妃を選ぶことになった。 「行こうぜ」  シリルはレイの腕を掴むと、一目散に家を抜け出した。公園のツツジの茂みまで、シリルに手を引かれて駆けていく。 「ごめん」  ツツジの高い茂みに隠れたベンチで、シリルがレイに謝った。 「レイのケーキと俺のケーキを取り替えたんだ。だってお前、いつも嫌そうな顔をしてたから」 「母親がほんとうはずるいことをしているんだ。僕はいたたまれなかった。僕ばかり1セント硬貨を当ててズルしてるって、みんなうすうす気がついてたはずなんだ」 「レイのお母さんはレイに幸せになってほしいんだよ」 「そのために毎年ずるいことをされるのは嫌だよ」 「お母さんって人種はそうなんだよ。自分の子供には幸せになってもらいたい」  レイはシリルの遠くを見る目にふと胸を衝かれた。シリルは叔母のデビーとふたり暮らしだった。シリルは両親と住めない事情を言わない。シリルは怒ってばかりいるレイの母親に憧れているようなふしがあった。  物思いに沈むシリルの顔に、レイがキスをする。 「何で口にキスをするんだ」 「寂しそうな顔をしてたから」  シリルは白い頬を赤く染めた。パーティーの王様が頼りなく見える。壊れやすい磁器の人形のようだ。初めて見るシリルの弱い顔に、レイは心臓が不規則に波打つような感覚を覚える。  シリルがレイの肩に顔を埋めた。 「うん、たぶん、ずっと、寂しい」  シリルの声が、骨に響く。シリルはレイの身体に細い腕を回す。 「でも、レイは寂しくない、をくれる」  胸のなかがしんとした。正しくて強い子供だったシリルが、レイを抱きしめてふるえている。レイはシリルの背中を撫で続けた。シリルのふるえが止まるまで、レイはツツジの葉がざわめく音を聞いていた。 「シリル、ずっといっしょにいよう」  シリルは顔を上げると、すべてを諦めたような顔で微笑んだ。 「ずっといっしょになんて、いられないんだよ」 「僕と結婚すればいい」  シリルはため息をついて笑った。 「じゃ、ラス・ヴェガスで結婚式を挙げて、カリフォルニアで暮らそう」  シリルがレイの話に乗ってくれる。レイは自分の言葉が冗談ではないことを示すために、シリルの唇にキスをする。シリルの若葉色の目が大きく見開かれる。 「僕にはシリルがいれば、それでいいんだ」  レイは顔が紅潮するのを感じた。言葉が空中で止まっているのならば、言葉を回収してしまいたくなるほど恥ずかしい。シリルは優しげな目でレイを見上げると、やるせない表情で微笑んだ。 「レイがずっと、そう思ってくれるといいな」  レイを抱く腕に力を込めて、シリルはぽつりと呟いた。

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