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4:最強福の神様の逆鱗!
「なんともまぁ、俺は良い場所に生まれた……!」
福の神様は、どこか恍惚とした微笑みを浮かべながら、その骨ばった指先で俺のツノを遠慮なく撫で続けた。
「っぁん、ひんっ!」
短小で不格好な俺のツノ。もちろん、これまで誰にも触られた事もないソレは、福の神の手で優しく触られる未知の快感に耐えきれず、とっさに両手で自分のツノを隠した。
「っぁん、っぁん!っぁ、あ……や、やめ。やめぇてっ」
「ほお、この俺に止めろと指図するのか?」
「っあ、いいえっ。あの、ちがっ!」
涙でいっぱいになった視界は、今やまともに福の神を映す事も出来ない。ただ、全体的に〝白い〟印象だったその姿は、今やぼんやりとした視界の中で朱く染まっていた。
もしかして、俺は神の怒りに触れてしまったんじゃないだろうか。あぁ、それはいけない!彼に怒りを鎮めてもらわないと!
「っや、っや、やめないでください。福の神様ぁ」
「っ!」
とっさに、そんな心にもない言葉を口にする。すると、それまで俺のツノに無遠慮に触れていた彼の手が、石のように固まる。一体どうしたのだろうと、俺が片目を開けて福の神様をチラリと見上げた時だ。俺の体は古い畳の上に押し倒されていた。
「っひん!」
「望みは何だ、言え!」
座敷の光の球を背にし、神々しく光る福の神様がジッと俺の事を見下ろしている。やはり、その姿は真っ赤に染まり切っていた。どうやら、怒りはまだ治まらないらしい。
「あ、えっ……お、俺の、望み?」
「あぁ、そうだ。遠慮をするでない。お前、俺に手を止めて欲しくないんだろう?お前が望めば、この俺が直々にもっとイイ事をしてやろう」
ソレは酷く機嫌の良い、それでいて弾むような声だった。同時に、福の神様の手が俺のツノを優しく撫でる。ゾクゾクと背中を這う未知の感覚に襲われながらも、俺はこの機を見逃さなかった。
そうだ、言うなら今しかないっ。
「あ、あの!あの、福の神様っ!」
「なんだ、遠慮せず言え。なにせ、お前は俺の――」
「俺を、この家に置いてくださいっ!」
「は?」
俺の言葉に福の神様は素っ頓狂な声を上げると、ポカンとした顔で此方を見下ろしていた。ただ、俺はと言えば福の神様の、そんなちょっとした表情の変化になんて構ってはいられなかった。
俺にとっては、住処を追われるかどうかの瀬戸際なのだから!
「お、俺は、その。わ、悪さなんてしません。ここで、あの大人しく暮らしたいだけなので……だからっ、その」
「ほぉ」
「あっ、あの、福の神様の言う事……なんでもお聞きします!なので、俺をここに、置いてくださいっ」
そう、俺が勢いよく口にした時だ。
「それが、お前の望みか。本当に、そんなモノが……お前の」
「はっ、はい!その通りでございます!」
「お前は、俺を見て……何も思わぬのか?」
何も思わないのか?いや、それを言っていいなら恐ろしい事この上ない。なにせ、福の神様を見ているだけで、背筋がゾクゾクして堪らないのだから。
でも、そんなの言えっこないじゃないか。だから、俺はとっさに口から出まかせを口にした。
「あ、あのっ!ふ、福の神様は……と、とても!素晴らしい神様だと、お、お、思いますっ!」
少しでも機嫌を直してもらって、どうにか怒りを鎮めてもらおうという会話の苦手な劣性な鬼(おれ)の浅知恵だった。しかし、どうやらその言葉こそが、福の神様の逆鱗に触れてしまったらしい。
「つまらん」
「え?」
「つまらん、つまらん……つまらんっっっ!!!」
「い゛っ……あ゛うぅっ!」
福の神様は、その端整な顔を激高した鬼のように歪めると、そのまま俺のツノにガブリと噛みついた。ついでに、舌でレロとツノを舐められる。
「ひっ、ンっ!」
「そんなにこの家に住まわせて欲しいならっ、さっきお前が言ったように今後は俺の下僕となれっ!」
福の神様はそう言うや否や、化学繊維で出来た俺のボロの服を勢いよくたくし上げた。その勢いで、古布だったソレがビリッと嫌な音を立てる。
あぁっ、これは俺の大切な一張羅なのに!
「お前が、自ら言霊を放ったのだ。この家に居させてもらう代わりに何でもする、と」
「っあ、あ……!」
「神との言霊は、絶対的な誓約だ!お前はこれからっ、俺にその身の全てを捧げよ!そして、俺を一番に扱え!」
「はっ、はいぃっ!」
そして、そのまま俺はおじいさんの住む祭壇の前で、福の神様に体の奥まで暴かれてしまった。福の神様の神通力のせいか、痛みなどは全くなかったが最初から最後までゾクゾクと背筋に走る感覚は消える事はなかった。
「っぁ、っひん、っひん!」
「底辺鬼の分際でっ!なんでっ!なんでこの俺がっ!」
そうやって激しく体を奥から貫かれ揺さぶられる中、視界の端に映る見て呉れの良い機械の組立人形(フィギュア)を眺めながら、俺は思った。
俺は、いつアレを組立てられるのだろう、と。
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