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9:最強福の神様のご出立!

「では、土地神交代の報告の為、出雲の大国主に挨拶に行ってくるぞ」 「はい、いってらっしゃいませ」  その日、福の神様はいつもよりも豪華な装いで俺の前へと立っていた。今や、その体は俺よりも頭5つ分ほど大きい。福の神様の成長は、日々留まるところを知らない。 「いいな?俺が留守の間、この家はお前がしっかり守るんだぞ!」 「はい、承知いたしました。この家は、俺が守ります!」 「それだけではない、我が子らもしっかり子守をするように」 「福の神様のいらっしゃらない間、あの子達の世話(メンテナンス)はお任せください」 「うむ、しっかり頼むぞ」  福の神様の言葉に「もちろんです!」と大きく頷く。「我が子」とはもちろん押し入れの中でズラリと並んだ組立人形(フィギュア)達だ。今や、押し入れの中は全てあの子達の子供部屋と化している。 「あと、だ。ここからが最も大事な命だが……」 「はい、なんでしょう」  俺と福の神様の寝床は、お爺さんの祀られた祭壇の前だ。 「俺が居ない間、尻穴が寂しいからと他の福の神を屋内へと連れ込んだりするんじゃないぞ」 「っひ、ひえ。そ、そんな滅相もない!」 「いいや、信用ならん。お前はとことん慈悲深い……いや、いやらしい鬼だからな。その敏感な乳先を他の奴に差し出そうとするかもしれない、だろっ」 「っひん!」  容赦ない指で乳房を弾かれ、俺は思わず飛び上がった。ピリと走った痛みとも快楽ともつかぬ感覚が、体中を稲妻に打たれたように走る。 「ほらみろ!こんな敏感な乳房を胸当てもせずに雄を誘うように晒して!あぁ、いやらしい劣性鬼だな、お前は本当に!」 「っう、でも。これは……福の神様が」 「なんだ、俺に何か文句でもあるのか?」 「っひん!」  再び服の上から乳先を弾かれる。  俺の乳がこんな風になってしまったのは、どう考えても福の神様のせいだ。最近は寝る時は必ず戯れ合い……もとい、まぐわいを求められる。その中で特に乳吸いが大変お気に入りなようで、眠りにつかれる直前まで俺の平な乳房に吸い付いている。 「ほらな。まったく、いやらしい底辺鬼だ。胸当てをしろというのに一向に言う事も聞かぬし」 「お、俺はこれでも……雄鬼です。なので、胸当ては……その、はずかしく」 「まったく、いやらしいヤツだ」 「う、うぅ」  酷い時は、寝ながらですら吸われている事もあるので、俺の乳は日に日にその形を変えている。有体に言えば、子を持つ雌のように乳先が立ち上がり始めてしまったのだ。  あぁ、恥ずかしい。でも、一番恥ずかしいのは、機会があれば乳を吸って貰いたいと思っている俺自身だ。 「福の神様……あの、大丈夫です。俺のような劣性の短小鬼を相手にする者など、この世におりません」 「そんな事を言って!ついこないだ、他の優勢鬼に角をつつかれて泣いておったではないか!」 「あっ、あれは……!」 「まったく、俺以外の前でヒンヒンあられもない声で泣きおって!一人で子を買いにいかせる事も危なっかしくてできん!」  そうなのだ。つい先日、福の神様に「もう一人子を成すぞ!」と言われ組立人形(フィギュア)を買った帰り、俺は優勢鬼(パリピ)達に囲まれ、笑いものにされたのだ! --------よくそんな恥ずかしいツノ晒して外に出れるわよねぇ! --------ほんとだぜ!おい、なんとか言えよ!短小野郎が! --------っひん、っひん!  ツノを弾かれ、囲まれ。挙句の果てには腕に抱えていた福の神様の子は取り上げられ、情けなく泣き晴らしているところに、まさかの福の神が現れたのだ。 --------おい、矮小鬼共。その鬼が何者か分かっていてそのような狼藉を働くのか。  あの時、俺は福の神様がこの地の土地神に成り代わる程の力を有している事を、まざまざと見せつけられた。  普段も恐ろしいが、あの時の福の神様は「格」が違った。 「……おそろしい、なんとおそろしい」  そう、改めて思い知った。福の神様に逆らえば、この家どころではない。誰もがこの地で生きてゆく事は叶わないだろう、と。  あれから、あの鬼達を街の中でとんと見かけなくなった。彼は一体どうなってしまったのか。考えるだけでも恐ろしい。 「おい、俺が帰ってくるまで絶対に外に出るな!お前は、この家を徹底的に掃除して過ごしていろ!」 「は、はい!」  そう勢いよく言い放った福の神様に、俺は勢いよく首を縦に振った。  言われずとも、真冬のこんな折に外に出ようとは欠片も思わない。むしろ「この家から追い出されないように」必死に福の神様に従ってきたのだから。 「では、そろそろ発つとしよう。出雲は遠いからな」 「はい、福の神様。道中お気を付けて」  ペコリと一礼した頭を上げると、そこには、ぬんっとした立ち姿で此方を見下ろす福の神様の姿があった。 「あ、あの」 「それだけか?」 「それだけ……と言いますと」 「なっ!」  俺の言葉に「信じられない!」といった表情を浮かべる福の神様に、俺は慌ててしまった。こういう時、劣性で頭の足りない俺は何をどう言ってよいのか分からなくなる。 「この俺が一週間も家を空けるというのに、何もないと申すのか」 「あっ。えっと、その……!」  何か、何か言わなければ。福の神様の怒りを買って、この家から追い出されてしまう――!そう、完全に思考が恐怖で満たされた時だった。

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