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第1話
「こんな仕事もミスするなんて、一丁前に社会人っぽい顔してて恥ずかしくないわけえ!?」
フロア全体に響くように課長に罵倒される俺。
入社して課長が教育係になってから、毎日この調子でパワハラフルボッコにされている。
今の時代、こんな横暴がまかり通るないはずが、課長は仕事で成果をあげ認められているうえ、お偉いさんには外面がよすぎるから。
前、パワハラで訴えた部下がいたものの「たく今どきの若者は」と一笑に付されて、精神病院送りになったとか。
俺のなにが気に食わないのやら。
集中的に標的にされ、まわりに見て見ぬふりをされ、だれにも助けを乞えないという絶望的状況。
それでも辞めたり転職しないのは、社長がいるから。
三十才で跡取りとして社長になった彼は、大胆な改革をして売り上げ不振だった会社をV字回復。
今や日本屈指の大企業と称されるまで成長をさせた腕利きのカリスマ社長ともてはやされている。
仕事ができれば人徳もあり、社員たちからの支持も高い。
そんな社長に憧れて入社したのだが、まさかトイレで初めて会うことになろうとは。
パワハラに耐えきれず個室で子供のように泣いていたら「だいじょうぶ?」とドア越しに声をかけられて。
憧れの社長だと気づきつつ「俺、俺・・・」と思いを吐露してしまい。
「何回も懲りずに失敗して叱られるんです。
もう、この世に俺はいらないんじゃないか、生きているだけでまわりに迷惑かけるんじゃないかって思って・・・」
すこし間を置いて応えたことには「俺も社長になりたてのころは、そう思ったよ」と。
「でも失敗する分だけ学ぶことができて、今があるんだ。
叱る人は、きみのためを思って心を鬼にしているんだよ」
「大丈夫、いつか、きみも俺みたいになるだろう!」と励ましたところで「社長!お時間が!」と横やりが。
「分かってる!すまない、行かなくては。
話はまた今度、聞こう、きみの名前は?」
「・・・・」
「・・・洗面台の上に、俺の携帯番号を書いた名刺を置いておくから」
返事をできなかったのは、あまりに感動して、ではない。
「俺が社長と同じだと!?」「俺のためを思い叱っているだと!?」「足元でパワハラが横行しているのに偉そうに!」と胸の内は怒りに満ち、熱い体は震えてやまず。
その日から心に決めた。
社長を社会的に抹殺しようと。
今はパワハラの録音や隠し撮りをしているところ。
約一年分集めたら、毎日、公開をする。
そりゃあ会社は叩かれるだろうし、敏腕カリスマ社長の地位は失墜するだろう。
会社の恥部をさらしたのがトイレで泣いていた社員だと知って、どんな顔をするのか見もの。
そのときを心待ちにして記録しながらも、毎日、鞭打たれるようにパワハラをされるのは辛い。
そんなときはゲームをして発散するに限る。
帰宅してスーツを着たまま、テーブルにあるノートパソコンを起動。
ゲーム「シンドローム」のスタート画面が表示。
このゲームはある日、勝手にノーパソにダウンロードされていた。
男同士の恋愛シミュレーションゲームで十八禁。
精神病棟を舞台にプレイヤーは医師を操作し、治療を通して患者と愛を育んだり、共に狂って闇落ちしたり、犯したり犯されたり。
日日、分岐のストーリとエンディングが追加されるから、いくらプレイしても飽きないという。
そして、このゲームのおもしろいところはプレイを大勢が観戦できること。
「オーディエンス」の彼らは、プレイヤーに提示される選択肢を課金の投票によって選ぶことが可能。
初めのほうは「オーディエンス」として参加し、ゲームのやり方を学び、今はプレイヤーとして。
半分くらい進行して、ターゲットにしているのは「不思議なアリスの国症候群(遠近法が狂ったり物や体が歪んで見える)」の中年イケメン患者。
「鬼畜社長!」と世に糾弾されて精神を壊した社長のなれのはてと想定してプレイを。
今のところ、医師と患者として健全な関係を築いているが、そろそろオーディエンスを焦らすのもいいかと。
夜勤の日、待機室に患者がきて「先生!俺の手がどんどん大きくなって!」と泣きついてきた。
ここでオーディエンスの選択肢の投票開始。
これまで、かなり焦れていただろうから、その反動か、課金する「ちゃりーん」の音が鳴りっぱなし。
音がやんで、すこしして提示されたのは三つ。
「話し相手になって落ちつかせる」とまだ焦らされたいの。
「聴診器を当てるふりをして愛撫する」とプレイ的なのを求めるの。
「どれ?ぼくのより大きいかな?と自分の股間に手をあてさせる」とセクハラを望むの。
俺はあくまで医者として優位に立ち偉そうにしていたいから二番目を選択。
早速ゲームに反映されて「落ちつきなさい、まず心音を聞かせてもらおう」と聴診器を装着する医師。
肌に当てて「すごく乱れてる。ほら深呼吸して」と促しつつ、上下する胸に這わせ、乳首を掠めて。
固く閉じていた目を見開き「あ、先生え!」と涙目で顔を真っ赤に。
「どうした?さらに心音が早くなって・・・」
「や、せんせ、そこは、ちが、はう、んん、くすぐったあ!」
「くすぐったい?我慢しなさい。とにかく鼓動を整えないと」といけしゃあしゃあと語りつつ、乳首を撫上げたり弾いたり押しつぶして揺すったり。
「せんせ、せんせえ、だめ、ですう!おちんち、おっき、なっちゃあ、ああ・・・!」
患者が入院服をまくりながら悶えて喘いで、いいところでまた選択肢。
提示されたのは「絆創膏を貼ってあげる」と再び焦らされたいの「そこに聴診器を当てる」とプレイ続行を望むの「喉が渇いたとしゃぶる」の直球エロを欲するの。
選択をしたら画面の医師は「ペニスが?それは大変だ」と膨らみに聴診器を当てて、しばし聞きいるように。
「やだ、せんせ、聞かないでえ」と泣きつつ、かすかに腰をゆらゆら。
そのうち水音がしだしたに「大きくなるというなら押さえよう」と先っぽに乗せて、引っこめとばかりに強く摩擦。
ぬちょぬちょと水音が立ってやまず「せんせ、せんしぇ!」と舌足らずに鳴いて腰をふって「んふうう!」と射精。
まともに座っていられないようで医師に力なく抱きつき「せんせ、どおしよお・・・」と泣きつくことには。
「体の中まで、なんか、おっきく、広がってえ・・・お尻の奥があ・・・」
ここでまたまたシンキングタイム。
かと思いきや提示されたのは「肛門鏡で検診するふりをして辱める」の一つだけ。
「オーディエンスの意見が全会一致することがあるのか?」と首をひねりつつ、あくまで医師としての体裁を保ちたい俺の望みとそぐわないから続行。
「じゃあ、お尻の奥を見てあげるから診療台に四つん這いになって。腰を上げて」の指示に従い、ズボンと下着をずらし震える患者。
「まず触診するからね」とジェルをつけた指で体内をぐちゃぐちゃに。
「ひゃあ、せんせ、またあ、おちんち、があ、おっきくう!」と尻を跳ねるから、巨大化を防ぐように先っぽをにぎりこむ。
イきたくてもイけず辛そうな顔を。
息を切らして徐徐に倒れていくも「こら、お尻を下げない」と叱られて、上半身をうつ伏せに尻だけを高々と。
「そろそろいいかな」と金属製の肛門鏡を挿入すれば「はひい!冷たあ!」と涙を散らしつつ、ペニスをぴくぴく。
「ほら力をぬいて、そんな力いれたら奥まで見えないよ」と金属の筒状の器具を引いては突っこむの繰りかえし。
尻に息がかかって、覗きこんでいるのが意識されるものだから「んくう!せんせ、そんな近くでえ、見ちゃ、やだああ!」と羞恥に苛まれ号泣し、でも、煽るように腰をくねらせて。
「ああ、ああ、やあ、先っぽ、尖ってえ!そんな、奥まで、やだあ、もっと、広がっちゃあ!らめえ、せんせえ、奥う、せんせ、に、見られたらあ、俺、俺え、もお・・・!」
「んふおおお!」とメスイキして診察台にぐったり。
息も絶え絶えな患者を見下ろしながら、さあいよいよ終盤の選択へ。
と思ったのが急にパソコン画面が真っ暗に。
だけでなく部屋も闇に包まれ、スマホで調べたところ、ここら一帯、停電になったよう。
「もうすこしだったのに!」と逆上してテーブルに拳を叩きつけつつ、ズボンのもっこりに触れて熱い吐息。
これまで人のプレイを見ても、自分がプレイしてエッチシーンを見ても無反応だったのが。
「ああ、しゃちょ、しゃちょおお!」とさっきのつづきを妄想して扱きまくっての射精しまくり。
偽善的な社長を恨んでいたはずが、これでは恋焦がれているよう。
そう、俺はトイレで会ったときに惚れたのだ。
心を病んでいたせいで、社長の厚意を捻じ曲げて受けとめてしまい、八つ当たり的に遺恨を抱いてしまい。
社長の励ましが的外れに思えたのは、そもそも俺がパワハラ上司のことを率直に訴えなかったからだし。
俺がパワハラ地獄に陥るのを、だれもが見て見ぬふりをしていたなか、事情を知らずとも無視しなかった社長に、そりゃあ惹かれるというものだろう。
なんて、あらためて自慰をしながら自分の思いを再自覚し、こんどは面と向かってパワハラのことを伝えようと決心。
翌日、自分のデスクで仕事をしながらそわそわ。
いつもフロアを見て回る社長がお目見えするのは、そろそろ。
まあ顔をだしたところで、揉み手して媚びまくりの課長に独り占めされるのだが。
そのあとフロアをでて廊下を歩くときにアタックしようと。
タイミングを見計らい、社長と課長が談笑しているのを観察。
「いやあ、ここだけの話」と課長が耳打ちしたところ。
すぐに離れて顔を見あわせ笑いあったが、俺は見逃さなかった。
課長が獰猛な目つきをして、かすかに唇を舐めたのを。
社長が耳を赤くし、潤んだ目を伏せたのを。
その社長の横顔が「シンドローム」で肛門鏡で覗きこまれて恥じる患者に重なって。
その一瞬を見て悟った俺は、パワハラ証拠のつまったUSBをポケットにしまい、ノートパソコンの画面に転職サイトを表示させたものだ。
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