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第1話 再会

俺が小6のとき、親友の北斗が転校することになった。 引っ越しの日、北斗と2こ下の弟の蒼は、荷物を運び出す間、俺の家に預けられていた。 いつも三人で遊んでいたので、なんとなく今日もいつもの延長のように感じた。 北斗のうちは転勤族で、小2のときに引っ越してきて、席が隣ですぐに友達になった。 俺の親と北斗の親も仲が良かったから、俺は直接自分の家に帰らずに、北斗の家に寄って遊んでから帰っていた。 お菓子を食べて、宿題を終わらせて、その後ゲームをするのが毎日のルーチンだった。 蒼も一緒に遊んでいたが、蒼は北斗とよく兄弟ケンカをしていた。 俺は一人っ子だから、蒼が可愛かったこともあり、いつも俺は蒼の味方をしていた。 だから蒼は俺によく懐いていた。 最後の日だというのに、北斗がゲーム内で蒼をボコボコにし、蒼は泣きべそをかいた。 蒼は眉をハの字にして、俺の背中に抱きついた。 俺のTシャツで涙を拭いているのだ。 「もう少しハンデつけてあげなよ」 と、俺が言うと、 「ハンデ無しでいいって言ったのは、蒼だから」 と北斗は言って、ふんっ、と悪びれもなく笑った。 俺は蒼の頭をなでた。 「遼馬くんがお兄ちゃんだったら良かったのに……」 蒼がボソッと言う。 「あ、そう。じゃあ蒼のことは置いていこうかなー」 北斗が意地悪く言う。 蒼はますますギュッと俺にしがみついた。 「ちょっと、今日くらいケンカはやめなよ……」 本当にこの兄弟はいつもこんな感じだった。 「あー、北斗が中学にいないなんて、寂しいよ。俺、友達できるかな」 「友達はできるだろ。まあ、引っ越しって言っても、電車で一時間だから遠くはないんだけどさ……。高校はこっちに通いたいなって思ってるから」 「そんなことまで考えてるの? 高校なんて……俺全然わかんない……」 「ま、高校は別々でも、俺がこっちこれればいいだけの話だから。遊びに来るときは連絡するよ」 「うん。待ってるから」 そんな会話を聞いて、蒼がつまらなそうにこっちを見ている。 「ゲームやりたいんでしょ。でもあと一時間くらいで遼馬とお別れだよ。ゲームより話した方がいいんじゃない?」 北斗が蒼に言った。 「遼馬くんとゲームの続きやりたい。まだ終わってないし」 蒼がムッとして言った。 「俺はゲームでいいよ。あ、そうだ。落ち着いたら、オンラインゲーム始めようよ! それならいつでも会えるじゃん!」 俺はいい思いつきだと思った。 だが、その後、オンラインゲームは始めたものの長続きしなかった。 部活やら委員会やらがあり、お互いに時間が無くなったのだ。 ♢♢♢ そして高校生になり、北斗は予告通りこっちの高校に進学した。 幸い高校も一緒で、三年ぶりに北斗のいる生活になった。 「蒼は元気?」 「元気だよ」 「蒼はどこの高校を目指してるの?」 「一応、ここを目指してるけど……」 「え! それは嬉しいね!」 「あいつバカだから、どうかわかんないけど」 「いや、そこは兄の力でどうにかしようよ」 「まあ……本人次第だね」 なぜか北斗は浮かない顔だった。 ♢♢♢ さらに二年後―― 「蒼、この高校受かったから」 「おめでとう! 良かったね!」 「ああ、ありがとう……」 「え、なんでそんなに暗いの?」 「いや、まあ、あとでわかるよ」 「?」 いつも明るい北斗が、こと蒼の話題となると様子がおかしい。 少し気になりつつも、蒼との再会を楽しみにしていた。 そして入学式の日―― 「遼馬くん!」 そう言いながら、髪の長い見知らぬ美少女がこちらに駆け寄ってきた。 うちの高校はブレザーで、女子はリボンと白のブラウス、チェックのスカートだ。 美少女の重たそうな胸がゆさゆさと揺れている。 ぱつぱつのブラウスを留めるボタンが非常に貧弱に見えた。 「……あれ、蒼だから」 隣にいた北斗が言った。 弾むおっぱいに目を奪われて、俺は事情がよく飲み込めなかった。 いや、おっぱいが無くてもそんな事情、簡単に飲み込めなかった。 「え? 蒼? あれが??」 「お久しぶり!」 蒼だ、と言われた美少女は目の前に来ると、とびきりの笑顔を見せた。 「……蒼って、弟じゃなかった?」 基本のキから確認した。 「えへへ。あの頃はお兄ちゃんのお下がりばっかり着てたから男の子の見た目にしてたんだよね。あたしもお兄ちゃんの服が好きだったから良かったんだけど、そのせいか自分のこと”僕”って言ってたんだ」 蒼は屈託なく笑っている。 美少女が俺にこんな風に笑いかけてくれるなんて、いつの間に別の世界線に来たのだろうか。 ああ、こんなことなら、あの頃もっと蒼に触っておけば良かった……。 「せっかく会えたけど、もう行かなきゃ。あとでお兄ちゃんから遼馬くんの連絡先聞くね」 「あ、うん。よろしく……」 相手は蒼なのに、見た目が女の子だから緊張して上手く話せなかった。 去っていく蒼を見送ったあと、北斗に訊いた。 「な、なんで弟だって嘘ついてたの……?」 「……蒼が男の子っぽかったから、それに合わせてたんだよ」 「そ、そうなんだ。性自認優先てやつ? 先進的な家庭だね……」  「まあね……」 そう言った北斗は不機嫌そうだった。 ♢♢♢ 週末、三人で花見に出かけることにした。 蒼は、ちいかわの黒Tシャツを着ていた。 「ちいかわだ! え、でも何人かいるけどどういうこと?」 「パジャマパーティーズなの。これがちいかわ、こっちがハチワレ、これはウサギ。ほかは別のキャラクターで、歌とダンスをするグループなの」 蒼が指をさしながら、胸元のキャラクターを説明してくれる。 俺が蒼の胸元に顔を近づけつつ凝視をしているのは、おっぱいを見るためじゃない、ちいかわの説明を受けるためだ。 俺もつられておっぱいめがけて指を刺しそうになるが、なんとか正気を保ち、行動にはうつさなかった。 蒼はミニスカートで、白くて柔らかそうな太もももサービスしてくれた。 日頃、ほとんど女子と交流がない俺にとってはご馳走を通り越してもう毒だ。 「遼馬、大丈夫? 蒼がうるさいなら帰らせるから」 「ななな何言ってんの?! そんなわけないじゃん! 一緒に花見しようよ!」 いきなり近距離におっぱ……いや、女の蒼がいるんだ。 慣れるまでもう少し時間をくれよ。 「お兄ちゃんが遼馬くんを独り占めしてきたのももう終わりだから。お兄ちゃんったらね、遼馬くんの連絡先全然教えてくれないの! ね、遼馬くん、今連絡先交換しよ!」 はい、なんでも交換します。 そんな俺たちの様子を、北斗は冷やかな目で見ていた。 ♢♢♢ それから一カ月。 以前のようによく三人で遊ぶようになった。 ある日、ファミレスに行ったときだ。 蒼が俺の隣に座ったとき、蒼の服の第二ボタンが外れていたことに気づいた。 はからずもDTを殺すセーターみたいになっている!!! なんというアクシデント! チラリ見えのようにみせかけてガッツリ見える! 目が釘づけになるとはこのこと! 遼馬は若い女性のナマ乳を初めてみた。 え? まさかわざと? 新手のサービス? 「蒼、ボタン外れてるよ」 北斗が注意した。 「本当だ」 蒼はボタンをかけ直した。 サービスタイムはあっけなく終了した。 北斗……お前は兄として正しいよ…… 家族の女性を、野蛮な男のいやらしい目から守るのは父兄の役割だからね…… 俺は心の中で泣いた。 ♢♢♢ 俺は、蒼と二人でデートはどうかな……なんて妄想もしたが、妄想の中ですらうまく話せなかったので諦めた。 一カ月経っても、おっぱ……いや、女の蒼に慣れきれていなかった。 とりあえずニトリで抱き枕を買った。 ある日、俺は二人に呼び出された。 「な、何? 改まって……」 カフェの四人がけのテーブルに、北斗と蒼が並んで座る。 こうして見ると、まさに美男美女だ。 「遼馬は……蒼のことどう思ってるの?」 北斗が訊いた。 「え……あ……最初はビックリしたけど、可愛いと思ってるよ……」 本当にそう思っている。 蒼は、ふふん、と笑って北斗を見た。 蒼はもうメイクを覚えていて、長いまつ毛がキレイにカールされていた。 「ねえ、遼馬くん。あたし、小学生の時から遼馬くんのこと好きだったんだ。三年間会ってなかったから、遼馬くんが変わってたらどうしようかと思ってたんだけど、全然変わってなくて良かった! 良かったら、あたしと付き合ってほしいんだけど……」 おっぱいが、向こうからやってきた。 身を乗り出した蒼のおっぱいが机に乗る。 断る理由がどこにあるというのか。 「よろしくお願いします」 俺は90度でお辞儀をしながら即答した。 「やったぁ! ほら、やっぱり遼馬くんには彼女いなかったじゃん。お兄ちゃんが、”俺の知らないところで彼女いるかも”とか言うから、一応心配しちゃった」 「え? まさか。大体の女子は北斗に用があって、あるいは用がなくても、北斗に話しかけるからね。俺はモブ扱いだよ」 そう、北斗と一緒にいる俺なんて、もう女子の視界にすら入ってない。 「意地悪なお兄ちゃんが良くて、遼馬くんの優しさがわかんない女なんて無視でいいから! あ、あとね、もう一個大事な話があるの」 え? おっぱいが手に入った俺に、これ以上大事な話ってあるの? 「……あのさ……ずっと黙ってたんだけど……俺もお前のことが好きなんだ……。蒼が女だって言わなかったのは、そういう理由もあったんだよね……」 と、北斗が言った。 え? なんだって? 北斗も俺が好きなの?? 北斗は恥ずかしそうにうつむいている。 「それでね、あたしとしては、お兄ちゃんは今まで遼馬くんを独占してたんだから、これからはあたしに譲ってもいいじゃんって思うの。でも、まあやっぱり兄弟だし、お兄ちゃんが可哀想だなと思う気持ちもあるの。だから、お願いがあるんだけど、遼馬くんにはお兄ちゃんとも付き合ってほしいんだ」 蒼が、一点の曇りもなき眼で言った。 「……付き合うって……俺が、北斗と?」 「そう! 三人の友情関係が愛情関係になるだけだから!」 ”だけ”? 蒼が背筋を伸ばし、胸を突き出して言う。 おっぱいを目の前にしてそういう言い方をされると、北斗と付き合うこともなんだか大したことのない話に感じてくる。 北斗を見ると、気まずそうな顔をしている。 「お願い! 遼馬くん! お兄ちゃんも一緒によろしくお願いします!」 蒼が胸の前で手を合わせた。 おっぱいが寄せられて、布一枚の向こうにはより深い渓谷ができているのではないだろうか。 「うん……わかった……。俺も、三人で仲良くできた方がいいから……」 「本当?! ありがとう! さすが遼馬くん、優しいねっ」 蒼が笑顔で言った。 「遼馬……その……改めてよろしく……」 北斗がぎこちない表情で言った。 「あ、うん。よ、よろしくね」 遼馬は世にも珍しい、兄と妹と合意型三角関係を結んだ。 ♢♢♢ その後、俺は兄付きの恋愛がいかに拷問かを思い知った。 目の前にお触りを許可されたマシュマロのようなおっぱいがあるのに、いつも北斗がいて触れられないのだ。 蒼は昔のように、気軽に俺に抱きついてくる。 腕に、背中に、あたるおっぱいに身悶えするが、そうすると必ず嫉妬に燃える北斗と目が合う。 「俺、最後の一年だけ、遼馬の家に下宿させてもらおうかな」 やめてー! 意外と親がオッケーしそうだからやめてー! 「あー! ずるい! またそうやって自分だけ! あたしも遼馬くんと一緒に暮らしたい!」 ああ……家に帰ると、自由にしていいおっぱいがあるとか……良すぎる…… もう勉強なんてできないよ…… 「遼馬、たまには俺ともハグしてよ」 北斗は遼馬の腕を掴んで抱きしめた。 北斗との関係だけを見ると……俺が彼女なの? うまく蒼と結ばれたとしてよ、そしたら北斗ともしないと不公平だよね、って思っちゃうんだ…… なんかもう、情緒不安定!! 俺の大事な高三の一年は、一体どうなってしまうのか……。 北斗の力強さと、さらに背中にくっついてきた蒼のおっぱいの感触を感じながら、俺の思考は静かに停止した。

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