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第3話 北斗のお泊まり

スーパーでお弁当を買い、家に着くともう10時だった。 テレビをつけたら、ちょうど音楽番組がやっていたので聴きながしつつ、お弁当を食べ終えた。 デザートにアイスを食べつつ、ソファに座って予備校の感想会をした。 北斗も予備校の授業は気に入ったらしく、その先生の著作を買いたいと言った。 「ほら、これとか良さそう」 北斗がスマホを見せてきたので覗き込むと、Amazonで先生が書いた問題集が売っていた。 どれも評価が高かった。 自分も現代文がすごく得意というわけではない。 北斗も買うなら買おうかどうかな……と思っていると、北斗によしよし……と、頭をなでられた。 驚いてスマホから顔を上げると、北斗がじっとこちらを見つめている。 「んあっ! よ、よさそうだね問題集……俺も買おうかな! ちょっと、リンク、送って!」 そう言って、そそくさと北斗から離れた。 「……真由美さん、ホント帰るの遅いね。大丈夫?」 北斗はそう言いながら、リンクを送ってくれた。 まずい……母、真由美が帰って来ないことを不審がっている……! 早く寝よう! このままだと、さらにあやしまれてしまう……! 「と、時々、大残業があるんだ……! 俺たちも明日も早いし、今日は早く寝ようよ! 今お風呂入れるから!」 遼馬は、ほぼダッシュで風呂場に行った。 ♢♢♢ 北斗を先に入浴させ、その間に自分の部屋に北斗の布団を敷いた。 敷き終わった布団をじっと見つめる。 (……これは、普通だよね?男友達が家に泊まるなら、普通、自分の部屋に寝かせるよね。お金持ちの家みたいに客室なんてないし。で、付き合ってるならなおさら一緒の部屋だよね?でも、付き合ってるからこそ、一線を超えないように俺がリビングで寝る選択肢もアリなのか。もう”一線”が何を指し示してるかは考えたくないけど、少なからず今日はダメだ、全然ダメだ。でも、俺が逆の立場で相手が蒼だったら、いくらチキンの俺でも今日がチャンスと思うだろう。なら、なおさら北斗は……。そこを、あえて拒否してリビングで俺が寝る……なんてできるのか?む、無理そう……。逃げられるイメージは全くない。もうあとは北斗が疲れてすぐに寝てくれれば……。そうだ! 血糖値! 血糖値を上げればすぐ眠くなるかもしれない!) 遼馬はそう思って、財布を掴むと、急いで近くのコンビニに走った。 ♢♢♢ コンビニから帰ると、北斗が部屋で髪を乾かしていた。 「どこ行ってたの?」 「ちょっと……コンビニへ……。明日のおやつを買いに……」 「学校行く前に寄ればよくない?」 「い、今食べたいのもあったから……!! 北斗も、これ食べてみない? 今限定のメロンホイップまろやかプリン……!!」 「うーん、胸焼けしそうだから、今日はいいかな」 ――!! 断られた…… 食べるのを断られる分岐があるなんて――!! 「……お風呂入ってきたら?」 「そうだね……。あ、先に休んでていいから……」 もう、あとはお風呂時間を引き伸ばして、その間に寝ている可能性に賭けるしかない……。 遼馬は今までの人生で一番念入りに入浴した。 洗面台で髪を乾かす。 いつもなら若干乾いてなくても平気だが、今日はハレの日か!ってくらいきっちり乾かす。 歯磨きだって、あれだけ母親からしつこく言われてもやっていないフロスをやった。 できる限り時間を稼いで、部屋に戻った。 そっとドアを開けると、電気は薄暗いモードになっていて、北斗は布団に寝っ転がりながらスマホを見ていた。 「遅かったね」 「あ、うん、ちょっと、かかっちゃった」 やっぱり寝てなかった……。 「ふぅん」 ベッドに潜り込む俺を北斗が見ている。 「……一緒に寝てもいい?」 北斗が言った。 きょ、許可を求めるの?! 「一緒に寝てもいい? (だって付き合ってるんだし)」 ってことだよね?! いいよ、って言ったらその先もいいみたいになるし、ダメだよ、って言ったら、なんで?ってなるよね。 どどどどうしよう……。 「……ダメ……かな……」 部屋が薄暗くて表情はよくわからないが、声が切な気だ。 そりゃそうだよね……。 「そ……添い寝だけなら……」 そうだね、添い寝くらいなら……! 慌てて返した割に、良き選択肢だと思う!! 北斗は、うん、と言ってベッドに入ってきた。 そして俺を抱きしめた。 強めの添い寝ぇ……。 「……お風呂があんまり長いから……遼馬もその気なのかと思ってた……」 北斗がボソッと言う。 ……なるほどね! そういう捉え方もあるのかっ! ……それで添い寝だけって言われたら……すごくガッカリしてるよね…… 「こ、心の準備ができなくて……」 いつできるかはわからないけど…… 「……キスしちゃダメ?」 北斗が遼馬の頬をなでながら言う。 ………………わかるよその気持ち。 自分が逆の立場で相手が蒼ならそう思うよ! でもキスだけで終わるのか、っていう…… 「……ごめん、急に言われても、困るよね。添い寝だけ、ってさっき言ってたのに……」 「あ、いや、うん……ま、まだ、俺、子どもなんだよね……うん」 ごめん、の意味を込めて、キュッと北斗を抱きしめ返した。 「……わかったよ。遼馬がそういう気持ちになってくれるまで、俺は待つから……」 イ、イケメンは優しいな! 余裕があるぅ……!! 遼馬はどことなく反省した。

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